平成26年度改正特許法等の解説
改正特許法等が、平成26年5月14日に公布されました。
今回の改正では、特許法で異議申立制度が導入され、商標法で音・色彩等の商標の保護の拡充がなされ、意匠法でハーグ協定ジュネーブアクトに基づく国際意匠出願制度が導入されました。
以下に、今回の改正法のポイントを解説します。
1.特許法
(1) 救済措置の拡充
(a) 優先権主張の時期の見直し
国内優先権主張及びパリ条約に基づく優先権主張は、出願と同時にしなければならなかったところ、改正法では、経済産業省令で定める期間内であれば、優先権主張が可能となります(41条4項、43条1項)。
(b) 優先権主張出願に対する救済
(ⅰ) 国内優先権主張、パリ条約に基づく優先権主張の書面の補正
経済産業省令で定める期間内に限り可能になります(17条の4)。
(ⅱ) 優先期間徒過後の出願に係る優先権の回復(41条1項、43条の2第1項)
国内優先権期間、又はパリ条約の優先権期間を経過した後であっても、正当な理由があり、かつ、経済産業省令で定める期間内に出願された場合には、優先権の回復が図れます。
(ⅲ) 優先権書類の提出期間徒過後の提出に係る優先権の回復(43条6項)
出願人の責めに帰することができない理由(以下、不責事由)により、優先権書類を1年4ヶ月の提出期間内に提出できなかった場合でも、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば提出が可能になります。
(c) 分割出願・変更出願に対する救済
(ⅰ) 分割出願(44条7項)
出願人の不責事由により、特許査定後の分割出願可能期間内、又は拒絶査定に対する不服審判請求期間内に分割出願をすることができなかった場合でも、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば、分割出願が可能になります。
(ⅱ) 変更出願(46条5項)
出願人の不責事由により、実用新案登録出願の日から3年を経過した場合、又は意匠登録出願に対する拒絶査定謄本送達の日から3ヶ月若しくは出願日から3年を経過した場合、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば、変更出願が可能になります。
(d) 存続期間の延長登録出願に対する救済
(ⅰ) 出願人の不責事由により、特許権の存続期間の満了前六月の前日までに延長登録出願をできなかった場合、期間経過後でも提出が可能になります(67条の2の2第4項)。
但し、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内に出願することが必要。
(e) 新規性喪失の例外規定に対する救済
(ⅰ) 新規性喪失の例外規定の証明書(30条3項)
出願人の不責事由により、出願日から30日以内に提出できなかった場合、期間経過後でも提出が可能になります(30条4項)。
但し、その理由がなくなった日から14日(在外者にあつては、2月)以内でその期間の経過後6月以内に提出することが必要。
(f) 審査請求期間の徒過に対する救済
(ⅰ) 審査請求期間の経過後でも、正当な理由がある場合は、その理由がなくなった日から2月以内で、審査請求期間の経過後1年以内であれば、審査請求が可能になります(48条の3第5項)。
(ⅱ) 善意の実施者に対する通常実施権(48条の3第8項)
審査請求期間の徒過後に審査請求された特許出願について特許が付与された場合において、取下擬制であることが掲載された特許公報の発行後、その特許出願について審査請求された旨の公報の発行前に、善意で日本国内において当該発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、通常実施権が認められます。
(g) 登録料等の不納付に対する救済
(ⅰ) 特許料の納付
特許料を納付する者が、不責事由により納付できなかったときは、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば、納付が可能になります(108条4項)。
(ⅱ) 既納の特許料の返還請求
特許料の返還請求をする者が、不責事由により、返還請求をできなかったときは、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば、返還請求が可能になります(111条3項)。
(ⅲ) 過誤納の手数料の返還請求
過誤納の手数料の返還請求をする者が、不責事由により、返還請求をできなかったときは、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば、返還請求が可能になります(54条の2第12項)。
(2) 異議申立制度の導入
(a) 申立要件(113条1項)
(ⅰ) 何人も、特許掲載公報の発行の日から6月以内に異議申立が可能です。
(ⅱ) 異議申立理由
・新規事項の追加
・外国人の権利の享有
・新規性・進歩性、29条の2、ダブルパテント、公序良俗
・実施可能要件、サポート要件、明確性要件、簡潔性要件
・原文新規事項
(ⅲ) 請求項毎に異議申立が可能です。
(b) 審理
(ⅰ) 取消決定をしようとするときは、取消理由通知が特許権者に通知されます(120条の5第1項)。
特許権者は、取消理由通知に対して意見書を提出することが可能です。
取消理由通知に対する意見書提出期間内に訂正請求が可能です。
(c) 訂正請求
(ⅰ) 訂正の範囲(120条の5第2項)
訂正の範囲は、以下の場合に制限されています。
・特許請求の範囲の減縮
・誤記又は誤訳の訂正
・明瞭でない記載の釈明
・他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること
(ⅱ) 請求項毎に訂正可能(120条の5第3項)
但し、一群の請求項(一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係その他経済産業省令で定める関係を有する)があるときは、当該一群の請求項ごとに当該請求をしなければなりません。
(ⅲ) 訂正請求があったときは、異議申立人に弁駁書提出の機会が与えられます(120条の5第5項)。
但し、異議申立人が意見書の提出を希望しない場合、又は特別の事情があるときは、意見書提出の機会が与えられません。
(ⅳ) 訂正請求が120条の5第2項、126条5~7項に違反する場合は、特許権者に意見書提出の機会が与えられます(120条の5第6項)。
(d) その他
・書面審理(118条1項)
・利害関係人は補助参加可能(119条1項)
・職権審理(120条の2第1項)
異議申立人が申し立てない理由についても審理可能です。但し、異議申立がされていない請求項については、審理されません。
・異議申立書の要旨変更となる補正の禁止(115条2項)
但し、異議申立期間又は取消理由通知に対する意見書提出期間のいずれか早いときまでにする補正では可能。
・決定の確定範囲(120条の7)
決定は事件毎に確定します。但し、請求項ごとに特許異議の申立てがされた場合に、一群の請求項ごとに訂正請求がされた場合は、一群の請求項ごとに確定します。それ以外の場合は、請求項ごとに確定します。
・異議申立の係属中の訂正審判は不可(126条2項)。
・一事不再理の適用なし(167条)
・取消決定に対して、審決取消訴訟が可能(178条)
・確定した取消決定に対して、再審請求が可能(171条)
・改正法の施行後に特許掲載公報が発行された特許が対象となります。
(3) その他
(a) 無効審判・延長登録無効審判
何人も請求可能でしたが、利害関係人に限られることになりました(123条2項、125条の2第2項)。
(b) 侵害訴訟における無効の抗弁(104条の3第3項)
利害関係人でなくても無効の抗弁は可能となっています。
2.意匠法
(1) 救済措置の拡充
(a) 新規性喪失の例外規定に対する救済
(ⅰ) 4条3項に規定の証明書
出願人が不責事由により、出願の日から30日以内に提出できなかった場合は、その理由がなくなった日から14日(在外者にあつては、2ヶ月)以内でその期間の経過後6月以内に提出することが可能になります(4条4項)。
(b) 登録料の不納付に対する救済
(ⅰ) 登録料の納付
登録料を納付する者が、不責事由により納付できなかったときは、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば、納付が可能になります(43条4項)。
(ⅱ) 既納の特許料の返還請求
登録料の返還請求をする者が、不責事由により、返還請求をできなかったときは、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば、返還請求が可能になります(45条)。
(ⅲ) 過誤納の手数料の返還請求
過誤納の手数料の返還請求をする者が、不責事由により、返還請求をできなかったときは、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば、返還請求が可能になります(67条9項)。
(2) 国際登録出願
(a) 国際登録出願
(ⅰ) ハーグ協定のジュネーブ改正協定1条(ⅶ)に基づく国際出願が可能になります(60条の3第1項)。これにより、日本国特許庁を経由して複数国への一括出願が可能となり、国際出願のコストの低減が可能になります。
(ⅱ) 日本を指定国に含む国際出願により国際登録されたものは、国際登録の日にされた意匠登録出願(以下、国際意匠登録出願)とみなされます(60条の6第1項)。
複数の意匠が一出願に含まれる国際意匠登録出願の場合は、意匠ごとにされた意匠登録出願とみなされます(同条2項)。
(b) 新規性喪失の例外規定(60条の7)
・新規性喪失の例外規定の適用を受ける旨を記載した書面、及び証明書を、国際公表日後、省令で定める期間内に提出する必要があります。
(c) 関連意匠出願が可能(60条の8)
(d) 秘密意匠出願は不可(60条の9)
(e) 補償金請求権(60条の12)
国際公表後、意匠権の設定登録前に、業として国際意匠登録出願に係る意匠又はこれに類似する意匠を実施した者に対して、警告することを条件として、警告後から意匠権設定登録までの実施料相当額を請求することができます。
(f) その他
(ⅰ) 意匠権の消滅
・国際意匠登録出願は、その基礎とした国際登録が消滅したときは取り下げられたものとみなされます(60条の14第1項)。
取下擬制は、国際登録簿から国際登録が消滅した日から生じます。
・また、意匠登録は、その基礎とした国際登録が消滅したときは消滅したものとみなされます(60条の14第2項)。
消滅の効果は、国際登録簿から国際登録が消滅した日から生じます。
3.商標法
(1) 保護対象の拡充
(a) 音の商標、色彩のみからなる商標、ホログラムの商標、動きのある商標、位置の商標が新たに商標登録の対象になります(2条1項、5条2項1号)。
(b) 国際機関を表示する標章と同一又は類似の商標であっても、以下の場合は登録可能となります(4条1項3号)。
・自己の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似するものであって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの。
・国際機関の略称を表示する標章と同一又は類似の標章からなる商標であって、その国際機関と関係があるとの誤認を生ずるおそれがない商品又は役務について使用をするもの。
(c) 商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標は、拒絶の対象となります(4条1項18号)。
現行商標法は、「商品等の形状であって商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」について、たとえ使用による識別力を有するに至ったとしても、自由競争を不当に制限するおそれがあるとして、商標登録が認められていません。今回の改正では、商品又は役務から自然発生的(必然的)に生ずる特徴や商品又は役務にとって必須の特徴を備えた商標であっても、その登録により自由競争を不当に制限するおそれがあるものについては、たとえ使用による識別力を有するに至ったとしても、その登録を認めないこととになりました。
(2) 出願
・願書に、商標の詳細な説明を記載することになりました(5条4項)。
(3) 地域団体商標の登録主体の拡充
・商工会、商工会議所、特定非営利活動法人又はこれらに相当する外国の法人についても、地域団体商標の商標登録を受けることが可能になりました(7条の2第1項)。
(4) 救済措置の拡充
(a) 出願時の特例
(ⅰ) 9条1項に規定の出願時の特例を受けようとするものが、不責事由により、出願日から30日以内に証明書を提出できないときは、その理由がなくなった日から14日(在外者にあつては、2ヶ月)以内でその期間の経過後6月以内であれば、提出が可能になります(9条3項)。
尚、9条1項に規定の出願時の特例とは、博覧会等に出品した商品又は出展した役務に商標を使用した者は、その出品又は出展の日から六月以内にその商品又は役務を指定商品又は指定役務として商標登録出願をしたときは、その商標登録出願は、その出品又は出展の時にしたものとみなす規定です。
(b) 登録料等の不納付に対する救済
(ⅰ) 登録料の納付
登録料を納付する者が、不責事由により納付できなかったときは、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば、納付が可能になります(41条4項、65条の8第4項)。
(ⅱ) 既納の登録料の返還請求
登録料の返還請求をする者が、不責事由により、返還請求をできなかったときは、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば、返還請求が可能になります(42条3項、65条の10第3項)。
(ⅲ) 過誤納の手数料の返還請求
過誤納の手数料の返還請求をする者が、不責事由により、返還請求をできなかったときは、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)以内で、その期間の経過後6ヶ月以内であれば、返還請求が可能になります(76条9項)。
(c) 国際登録の取消後の商標登録出願
国際登録の取消後、3ヶ月以内に商標登録出願をすることができない場合でも、出願人の不責事由による場合には、その理由がなくなった日から14日(在外者にあっては、2ヶ月)以内でその期間の経過後6月以内にその出願をすることができます(68条の32第6項)。
この場合、出願日は、国際登録の取消後3ヶ月以内の期間の満了する時にされたものとみなされます(68条の32第7項)。
(5) 商標権の効力が及ばない範囲
(a) 「商品又は商品の包装の形状であって、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」から「商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標」に変更されます(26条1項5号)。
(b) 需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標についても、商標権の効力が及ばない範囲として追加されます(26条1項6号)。
(6) その他
(a) 無効審判
何人も請求可能でしたが、利害関係人に限られることになりました(46条2項)。
4.施行期日
2015年4月1日から施行されます。
尚、商標法7条の2第1項は、2014年8月1日から施行されています。