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判例・実務情報

【米国CAFC、特許】 医薬発明に於いて、クレーム中に記載されたラベルの構成要件は101条の保護対象ではないとして、新規性の判断で考慮されなかった事例。 AstraZeneca LP v. Apotex, Inc. (Fed. Cir. 2010)



Date.2011年2月7日

・原審維持 2010年11月1日判決

・101条、医薬発明、特許の対象、ラベル投与量、投与回数、仮差止め

 

(経緯)

 後発医薬品メーカーのApotexは、ANDA(FDA医薬品簡略承認申請)を行い、これが承認された。これに対し、AstraZenecaは、自己の持つ特許権(U.S. Patents No. 6,598,603 (“the’603特許”) 、No. 6,899,099 (“the’099特許”))を侵害するとして、ニュージャージー州連邦地方裁判所に仮処分の申立てを行った。原審は、下記の方法クレームに基づく仮差止めを認めた。しかし、キットクレームについては新規性の欠如を根拠として無効の判断をした。

 本件は、Apotexが仮差止めの取消しを求めてCAFCに控訴した事件である。

 

(本件特許)

 ’603特許に於ける方法クレームおよびキットクレームは下記の通りである。

  方法クレーム

1. A method of treating a patient suffering from a respiratory disease, the method comprising ad-ministering to the patient a nebulized dose of a budesonide composition in a continuing regimen at a frequency of not more than once per day.

 

  キットクレーム

29. A kit for treating respiratory diseases, the kit comprising (a) a budesonide composition in a sealed container, the composition containing 0.05 mg to 15 mg budesonide and a solvent, and (b) a label indicating administration by nebulization in a continuing regimen at a frequency of not more than once per day.

 

 ’099特許におけるキットクレームは下記の通りである。

17. A kit for treating a respiratory disease, the kit comprising (a) a budesonide suspension in a sealed container, the suspension containing 0.05 mg to 15 mg budesonide and a solvent, and (b) a label indicating administration by nebulization in a continuing regimen at a frequency of not more than once per day.

 

 上記の方法クレームは、公知のブデソニド組成物を1日1回以下の頻度で投与する点に技術的特徴を有する呼吸器疾患の治療方法に関するものである。一方、キットクレームは、(a)密封された容器内にブデソニド組成物と、(b)1日1回以下の頻度で投与することが指示されたラベルとを構成要件とする物の発明のクレームである。

 

(CAFCの判断)

・仮差止めについて

 Apotexの製品には、そのラベルに1回/日の投与を示唆する記載があり、侵害を誘導するものであること、および回復不能な損害も認められることを理由に、上記方法クレームに基づく仮差止めが認められた。

 

・キットクレームの有効性について

 一方、キットクレームについては、CAFCは新規性欠如を理由とする無効の判断を示した。即ち、上記構成要件(b)におけるラベルは、特許法101条の特許の対象ではないというのが、その根拠であった。

 

 この点に関し、印刷された事項とその”substrate”との間に「機能的な関係」が存在すると認められる場合には、その印刷された事項は、発明と従来技術とを区別するのに役立ち得るとする裁判例がある(In re Miller, 418 F.2d 1392, 1396 (CCPA 1969); In re Gulack, 703 F.2d 1381, 1385-87 (Fed. Cir. 1983))が、一般には、印刷された事項は101条の特許の対象から除外されている。

 

 本件については、CAFCは、①クレーム中のラベルにおける指示に特許的なウェイトがないこと、②その指示が、新規で非自明は生産物を産み出すために、その薬に作用するものでは決してないこと、を理由に挙げ、構成要件(b)は101条の保護の対象にならないと判示した。

 そして、構成要件(a)は公知であったことから、結局、キットクレームは新規性がなく、地裁による無効の判断は適切であるとした。

 

 

 当該判決は、クレーム中に構成要件として記載されたラベルは、一般には101条の特許の対象ではないとして、特許性の判断の際に考慮されないことを示したものである。この点に関し、例えば日本では、「~に用いられる旨の表示を付した」との限定を加えた、いわゆる表示クレームによる用途発明の特許が見られるが、当該表示クレームの場合にも米国において、同様の判断手法がとられるのか、留意しておく必要があるかも知れない。

 

(判決文) http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/09-1381-1424.pdf