Ecolab, Inc. v. FMC Corp.事件では、最適化するための技術的可能性と併せた「組合せるべき明らかな理由」が、クレームされた発明は自明であったはずであるとする結論につながった。
(本発明)
本発明は、細菌の発生を低減するために、特定の条件下で抗菌液を肉に噴霧する、肉の処理方法である。
25. A method of treating a meat product to reduce a microbial population in the meat product, the method comprising the steps of:
spraying an aqueous antimicrobial treatment composition onto said meat product at a pressure of at least 50 psi at a temperature of up to about 60.degree. C. resulting in a contact time of at least 30 seconds, the antimicrobial composition comprising at least 2 ppm of one or more peroxycarboxylic acids having up to 12 carbon atoms: and at least 20 ppm of one or more carboxylic acids having up to 18 carbon atoms; and
achieving at least a one log.sub.10 reduction in the microbial population.
USPTOは KSR最高裁判決後の 2007年10月に、103条の非自明性の判断基準に関するガイドライン(http://www.uspto.gov/web/offices/com/sol/notices/72fr57526.pdf)を発表しました。
更に、昨年、USPTOは、KSR判決後の3年間の間にCAFCにおいて示された非自明性に関する判決のうち、代表的な事例を選び、それらを新たな審査ガイドライン(http://edocket.access.gpo.gov/2010/pdf/2010-21646.pdf)として公表しました。
以下は、審査ガイドラインに記載された裁判例のうち、Example 4.1-4.5を順次解説したものです。
Example 4.1. In re Omeprazole Patent Litigation, 536 F.3d 1361 (Fed. Cir.2008)
Teaching point
クレームされた製品を製造するのに適用され得た一般的な方法が公知かつ当業者の技量のレベルの範囲内であっても、その方法の使用を示唆する課題がそれまで知られていなかった場合、クレームは依然として非自明であり得る。
・本件は、先行技術の要素を組合せるという論点で、問題のクレームが非自明であるとされた事例。
(本発明)
・本発明は、腸に到達する前に分解しないように、剤形の薬に腸溶性のコーティングを施したもの。
・クレームされた製剤は活性成分上に2層のコーティングを含んでいた。
(地裁の判断)
・地裁は、Astraの特許は、被告のApotex及びImpaxにより侵害されていると認定した。
・地裁は、自明であり無効であるとするApotexの抗弁も退けた。
Apotexの主張の根拠:
①コーティングされたomeprazole錠剤は先行技術文献から公知
②二次的なサブコーティングは、医薬品一般で公知
・地裁は、当業者はomeprazol錠製剤においてサブコーティングを含める理由はなかった、と結論づけた。
・先ず、omeprazoleに2種の異なる腸溶性のコーティングを施すことに関しては、予期できないとの証拠はなかった。
・しかし、本件発明が、先行技術のコーティングとomeprazolとの間に介在するサブコーティングを設けたのは、先行技術のコーティングが実際にはomeprazolと相互作用して、活性成分の望ましくない劣化に寄与していたためであった。
・また、先行技術のコーティングとの相互作用によるomeprazolの劣化については、先行技術では認識されていなかった。
(CAFCの判断)
・クレーム発明は、自明でないとする地裁の判決を支持した。その理由は、以下の通りである。
①腸溶性製剤の為のサブコーティングは公知であり、過度に高い技術的ハードルを示す証拠も、又は合理的な成功の予測ができなかったという証拠もないが、この改良を促した先行技術製剤の欠点が認識されていなかった。
②このような改良をすることが可能であったとしても、最初の製剤を改良しようとする理由はなかった。
③さらに、当業者がこの問題を認識したとしても、異なる改良を選択したかもしれない。
(留意点)
・本ケースでは、公知で、かつ成功裏に販売された製剤に対して付加的要素を付加するという、必要以上の処理ステップを行っている点に自明か否かの争点があった。
・改良された点は、多くの作業と膨大な費用を要するものであった。
・これは、公知の先行技術の要素A及びBが、その各々の既知の特性が最終製品に寄与すると予測される場合に、組合せるのとは異なる。
・omeprazol事件では、当業者の予測を考慮すると、サブコーティングの付加が最終製品に特別の望ましい特性を与えるとは期待されていなかった。
・むしろ、改良により得られる最終製品は、先行技術の製品と同じ機能的特性を有するだけと予測されたはずであった。
・omeprazole事件は、新規な課題の発見という観点からも分析できる。
・活性薬剤とコーティングとの有害な相互作用が公知であったならば、サブコーティングを用いることは自明であっただろう。しかし、課題は公知でなかったので、それを付加すること自体は技術的に可能であったとしても、別の層を付加するために、さらに時間と費用をかける理由はなかったはずである。
Example 4.2. Crocs, Inc. v. U.S. International Trade Commission, 598 F.3d 1294 (Fed. Cir. 2010)
Teaching point
先行技術が、クレームされた組合せから遠ざかる教示をしており、かつその組合せが予測し得る結果以上のものをもたらす場合には、クレームされた先行技術要素の組合せは、非自明である。
・本件は、CAFCにより、クレームされた発泡体履物が先行技術文献の組合せに対し非自明であるとされた。
(本発明)
・本発明は履物に関するものであり、一体成型された発泡体ベース部110は、靴の上部(上側)と底とを備えている(Patent No. 6,993,858(以下、858 特許))。
・発泡体からなるストラップ120が、上側の足の開口部に設けられており、靴をはく人のアキレス腱部を支持するようになっている。
・ストラップは、ベース部と接触可能であり、かつ、ベース部に対し相対的に回転するように、接続部を介して取り付けられている。
・ベース部110およびとストラップ120は、発泡体からなるので、ストラップ120とベース部110との間の摩擦により、ストラップ120は回転後その位置に維持される。発泡体ストラップ120は重力によってベース部110のヒール近くの位置に落ちることがない。
(ITCの判断)
・ITC(International Trade Commission)は、2つの先行技術の構成要素の組合せにより、クレームは自明であると判断。
・第1引例のAqua Clogは、この858特許の履物のベース部分に対応する靴に関するもの。第2引例のAguerre特許は、弾性又は他の柔軟な材料でできたヒールストラップを教示。
・ITCの見解
Aqua clog引例とクレームされた発明との相違点はストラップがあるか否かだけであり、好適なストラップがAguerreに教示されていることから、クレーム発明は自明と判断。
(CAFCの判断)
・先行技術は発泡体のヒールストラップを教示しておらず、また発泡体ヒールストラップが発泡体ベースと接触するように設けられるべきことも教示していない。
・先行技術は、実際には、靴のヒールストラップ材料として発泡体を使用しないように薦めている。
・仮に、クレーム発明が先行技術の公知の要素の組合せであるとしても、クレームは依然として非自明である。
・記録では、ヒールストラップのルーズフィットは、それを履く人にとって、常に履く人の足と接している先行技術の靴に比べて、より快適であるという証言があった。
・クレームされた履物では、履いている人の足に発泡体ヒールストラップが触れるのは、足を靴にきちんと位置付けしなおすのに必要な時だけであり、常に接していることによる履く人の不快感を減じるものである。この望ましい特徴は、ベース部とストラップの間の摩擦の結果、履く人の脚のアキレス腱部の背後でストラップを維持し続けるというものである。
・CAFCは、この組合せが「予測し得る結果以上のものを産み出した」と指摘。
・Aguerre(第2引例)では、ベース部とストラップとの間の摩擦は、利点というよりもむしろ問題点として教示しており、摩擦を減じるためにナイロン製のワッシャの使用を示唆していた。
・CAFCは、クレーム発明の全ての要素が先行技術で教示されていたとしても、その組合せは予測し得る結果以上のものを産み出したので、クレームは自明ではないと判断。
(留意点)
・クレームの全ての要素の存在が単に先行技術で指摘されているだけでは、自明性の拒絶を完全にいうことにはならない。
・結果が予期し得えないものであるならば、庁職員は、先行技術の要素の組合せという理由付けを用いた自明性の拒絶を出すべきでなく、また仮にそのような拒絶がなされた場合には、これを取下げるべきである。
Example 4.3. Sundance, Inc. v. DeMonte Fabricating Ltd., 550 F.3d 1356 (Fed. Cir. 2008)
Teaching point
公知の先行技術の要素の組合せであって、組合せ後にそれらの特性又は機能を維持することが合理的に予測される場合には、クレーム発明は自明の可能性がある。
・本発明は、トラック、水泳用プールまたはその他の構造物用にセグメント化され機械化されたカバー。
・クレームは適用された先行技術により自明であるとされた。
・第1の先行技術は、セグメント化されたカバーを製造する理由として、1つのセグメントが損傷しても必要に応じて容易に取外し交換できるという、修理の容易さを教示していた。
・第2の先行技術は、機械化されたカバーの利点は開くことの容易さにあると教示していた。
(CAFCの判断)
・CAFCは、第1引例のセグメント化の特徴と、第2引例の機械化機能とは、それらを組合せた後も、それ以前と同様に発揮されることを指摘。
・さらに、当業者であれば、第1引例が教示する置換可能なセグメントを、他方の機械化されたカバーに付加すれば、先行技術のカバーの両者の利点が維持されたカバーが得られることを、予期したはずであると述べた。
・公知の先行技術の要素の組合せに基づく適正な自明性の拒絶の保証は、それらの要素が組合わされた後もそのそれぞれの特性または機能を維持することを、当業者が合理的に予期できたか否かである。
Example 4.4. Ecolab, Inc. v. FMC Corp., 569 F.3d 1335 (Fed Cir. 2009)
Teaching point
当業者が公知の要素を組合せる明確な理由を認識し、かつ、どの様にして組み合わせるかかを知っている場合は、公知の要素の組合せは、一応自明である。
Ecolab, Inc. v. FMC Corp.事件では、最適化するための技術的可能性と併せた「組合せるべき明らかな理由」が、クレームされた発明は自明であったはずであるとする結論につながった。
(本発明)
本発明は、細菌の発生を低減するために、特定の条件下で抗菌液を肉に噴霧する、肉の処理方法である。
25. A method of treating a meat product to reduce a microbial population in the meat product, the method comprising the steps of:
spraying an aqueous antimicrobial treatment composition onto said meat product at a pressure of at least 50 psi at a temperature of up to about 60.degree. C. resulting in a contact time of at least 30 seconds, the antimicrobial composition comprising at least 2 ppm of one or more peroxycarboxylic acids having up to 12 carbon atoms: and at least 20 ppm of one or more carboxylic acids having up to 18 carbon atoms; and
achieving at least a one log.sub.10 reduction in the microbial population.
(地裁の判断)
・第1引例には、「少なくとも50psi」の圧力の限定を除き、クレーム発明の全ての要素が教示されており、この点については、両当事者は争っていない。
・FMCは、地裁に於いて、異なる抗菌材で肉を処理する際に、20~150psiの圧力でスプレー処理することの利点を教示する第2引例考慮して、クレーム発明は上述の第1引例から自明であったはずであると主張した。
・地裁は、FMCの主張には説得力がなく、クレームが自明であるとする法律問題としての申立てを却下した。
(CAFCの判断)
・CAFCは、地裁に同意せず、「これらの要素を組合せる明らかな理由が存在する、すなわち、[抗菌液と]肉表面の細菌との接触を増加させ、さらなる細菌を肉表面から洗浄するために圧力をかけることである」と述べた。
・CAFCは、第2引例には「肉に噴霧する際に抗菌液の効果を高めるために高圧を用いる」ことが教示されており、「当業者は、[クレームされた抗菌液を]高圧を用いて適用する理由を認識しており、さらにそのようにする方法も知っていたことから、FMCの特許に開示された他の限定を高圧と組合せたEcolabのクレームは自明であり、無効である」と説明した。
(留意点)
・自明性の問題を考えるにあたって、庁職員は当業者の能力に常に留意するべきである。
・Ecolab事件では、CAFCは以下のように述べている。
Ecolabの専門家は、当業者であればある特定の溶液について最適なパラメータを決定するために、適用するパラメータをどのように調整するかを知っていたはずである、と認めた。従って、この場合、問題となるのは、Bender特許に開示された高圧パラメータと、FMCの’676特許に開示されたPAA法とを組合せることが自明であったか否かである。その答えはイエスである。
・仮に、適用パラメータの最適化が当業者の技量の範囲内でなかったならば、Ecolabの結果は異なったものになったであろう。
Example 4.5. Wyers v. Master Lock Co., No. 2009–1412, —F.3d—, 2010 WL 2901839 (Fed. Cir. July 22, 2010)
Teaching point
類似技術の範囲は広く解釈され、発明者が解決しようとした課題に合理的に関連する文献も含む。十分な理由により説明可能な場合に限り、常識も自明性の法律的結論を裏付けるために用いることができる。
(本発明)
・本発明は、トレーラーを車両に固定するために用いられるバーベル状の連結ピンロックに関するものである。
・本発明が、先行技術の連結ピンロックに対して改良した点は、2つあった。
第1の改良点は、同じロックを様々な大きさの牽引用孔に使用可能にするために、連結ピンロックのシャンク部にかぶせることのできる取外し可能なスリーブを設けたことであった。
第2の改良点は、内部ロック機構を汚染から保護するように適合された外部平坦フランジシールを設けたことであった。
(争点)
・Wyersは、取外し可能スリーブと外部カバーとを除いて、いくつかの先行技術文献の各々が、クレームされた個々の要素を開示していることを認めた。
・Master Lockは、これらの引例を、欠落している要素を教示している付加的な参考文献と組合せれば、クレームは自明となる、と主張した。
(CAFCの判断)
・裁判所は、まず、Master Lockが依拠した付加的な参考文献が類似の先行技術であるか否かの問題を取扱った。
スリーブの改良を教示する文献に関し、裁判所は、これが特にトレーラーを牽引する車両での使用を扱っており、従ってWyersのスリーブの改良と同じ分野であるとした。
・シーリングの改良を教示する文献は、牽引ヒッチのための錠ではなく南京錠を取扱ったものであった。裁判所は、Wyersの明細書が、クレーム発明を施錠装置の分野として特徴づけており、従って、少なくともシールされた南京錠の文献が同じ技術分野にあることを示唆すると述べた。
・また、裁判所は、仮にシールされた南京錠が同じ技術分野ではないとしても、これらは牽引ヒッチのための錠機構の汚染を防ぐという問題に合理的に関連があると述べた。
・裁判所は、KSRにおいて最高裁は「類似技術の範囲を広く解釈するよう指導している」ことを述べた。これらの理由で、裁判所はMaster Lockの主張する文献は、類似の先行技術であり、従って自明性の問題に関連していると判断した。
・続いて、裁判所は、Master Lockによって促されたように、先行技術の要素を組合せる適切な動機付けがあったか否かの問題に移った。
裁判所は、Grahamの問題に立ち返り、さらに、「事実認定を行う者が常識に頼ることを否定」してはならないという、自明性に関するKSR後の「広範かつ柔軟な」アプローチを強調した。
・これらの原則を検討した後、裁判所は、本件で、組合せるための適切な動機付けが確立された理由を説明した。
スリーブの改良点について、裁判所は、様々なサイズの連結ピンが必要であることはその技術分野において周知であり、このことはユーザーにとって不便であり、費用が掛かることも知られていた、と指摘した。さらに、この問題の市場での側面についても言及し、店の棚のスペースは貴重であり、取外し可能なスリーブはこの経済的な懸念に応えるものであると述べた。
・シーリングの改良点について、裁判所は、内部シール及び外部シールはともに錠を汚染から保護する周知の手段であると指摘した。
・裁判所は、構成要素はそれらの認識された機能に従って用いられ、Master Lockが示唆するように組合された後も、それらのそれぞれの機能を予測可能に維持したはずである、と結論づけた。
・裁判所は、In re O’Farrel, 853 F. 2d 894, 904(Fed. Cir. 1988)を引用して、合理的な成功の予測が適正な自明性の判断の1つの要件であるとの見解を述べた。
(留意点)
・CAFCは、自明性の結論を支持するものとして常識という思想を引用したが、庁職員は、CAFCがその説明で終わらせていない点に留意すべきである。むしろ裁判所は、事件に関連する事実に鑑み、発明の完成時点において、クレーム発明が当業者に自明であったことの理由を説明した。
・庁職員は、全ての自明性の拒絶について、詳細な理由を付した説明を示し続けなければならない。