平成21(受)602 著作権侵害差止等請求事件
朝鮮映画輸出入社、有限会社カナリオ企画 対株式会社フジテレビジョン等
(事案の概要)
株式会社フジテレビジョンらが、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮という)で製作された映画について、朝鮮映画輸出入社および有限会社カナリオ企画の許諾なく放映したので、鮮映画輸出入社らが、フジテレビジョンらの行為について著作権を侵害するおそれがある等として、放映の差止め等を求めた。
東京地裁および知財高裁では、北朝鮮で製作された映画は我が国で著作権法による保護が認められないと判断され、このため、朝鮮映画輸出入社らが最高裁に上告した。
・対象となった映画は、昭和53年に製作された2時間を超える劇映画である。この映画は、北朝鮮文化省によって、朝鮮映画輸出入社が北朝鮮の法令に基づく著作権を有すると確認されていた。
・「平成15年12月15日,「スーパーニュース」と題するテレビニュース番組において,北朝鮮における映画を利用した国民に対する洗脳教育の状況を報ずる目的で,本件映画の主演を務めた女優が本件映画の製作状況等についての思い出を語る場面と本件映画の一部とを組み合わせた内容の約6分間の企画を放送した。上記企画において,合計2分8秒間本件映画の映像が用いられ」たが、株式会社フジテレビジョンらは、その放送について朝鮮映画輸出入社らの承諾を得ていなかった。
・上告審では、この映画がベルヌ条約(著作物の保護に関する条約)による保護を受けるか否かが判断された。ベルヌ条約は、我が国について昭和50年4月24日に効力を生じ、北朝鮮について平成15年4月28日に効力を生じている。
(裁判所の判断)
「一般に,我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合,当該条約に基づき締約国が負担する義務が普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは格別,未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに生ずると解することはできず,我が国は,当該未承認国との間における当該条約に基づく権利義務関係を発生させるか否かを選択することができるものと解するのが相当である。
これをベルヌ条約についてみると,同条約は,同盟国の国民を著作者とする著作物を保護する一方(3条(1)(a)),非同盟国の国民を著作者とする著作物については,同盟国において最初に発行されるか,非同盟国と同盟国において同時に発行された場合に保護するにとどまる(同(b))など,非同盟国の国民の著作物を一般的に保護するものではない。したがって,同条約は,同盟国という国家の枠組みを前提として著作権の保護を図るものであり,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではない。
そして,前記事実関係等によれば,我が国について既に効力を生じている同条約に未承認国である北朝鮮が加入した際,同条約が北朝鮮について効力を生じた旨の告示は行われておらず,外務省や文部科学省は,我が国は,北朝鮮の国民の著作物について,同条約の同盟国の国民の著作物として保護する義務を同条約により負うものではないとの見解を示しているというのであるから,我が国は,未承認国である北朝鮮の加入にかかわらず,同国との間における同条約に基づく権利義務関係は発生しないという立場を採っているものというべきである。
以上の諸事情を考慮すれば,我が国は,同条約3条(1)(a)に基づき北朝鮮の国民の著作物を保護する義務を負うものではなく,本件各映画は,著作権法6条3号所定の著作物には当たらないと解するのが相当である。」
また、原審において「著作権法の保護の対象とならない著作物については,一切の法的保護を受けないと解することは相当ではなく(・・・),利用された著作物の客観的な価値や経済的な利用価値,その利用目的及び態様並びに利用行為の及ぼす影響等の諸事情を総合的に考慮して,当該利用行為が社会的相当性を欠くものと評価されるときは,不法行為法上違法とされる場合があると解するのが相当である。」と判断した点について、最高裁は以下のように判示した。
「著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。同法により保護を受ける著作物の範囲を定める同法6条もその趣旨の規定であると解されるのであって,ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利は,法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」
そして、株式会社フジテレビジョンらの放送は、朝鮮映画輸出入社らに対する不法行為とならないと判断した。
(判決文)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111208164938.pdf
平成21(受)602 著作権侵害差止等請求事件
朝鮮映画輸出入社、有限会社カナリオ企画 対
株式会社フジテレビジョン等
(事案の概要)
株式会社フジテレビジョンらが、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮という)で製作された映画について、朝鮮映画輸出入社および有限会社カナリオ企画の許諾なく放映したので、鮮映画輸出入社らが、フジテレビジョンらの行為について著作権を侵害するおそれがある等として、放映の差止め等を求めた。
東京地裁および知財高裁では、北朝鮮で製作された映画は我が国で著作権法による保護が認められないと判断され、このため、朝鮮映画輸出入社らが最高裁に上告した。
・対象となった映画は、昭和53年に製作された2時間を超える劇映画である。この映画は、北朝鮮文化省によって、朝鮮映画輸出入社が北朝鮮の法令に基づく著作権を有すると確認されていた。
・「平成15年12月15日,「スーパーニュース」と題するテレビニュース番組において,北朝鮮における映画を利用した国民に対する洗脳教育の状況を報ずる目的で,本件映画の主演を務めた女優が本件映画の製作状況等についての思い出を語る場面と本件映画の一部とを組み合わせた内容の約6分間の企画を放送した。上記企画において,合計2分8秒間本件映画の映像が用いられ」たが、株式会社フジテレビジョンらは、その放送について朝鮮映画輸出入社らの承諾を得ていなかった。
・上告審では、この映画がベルヌ条約(著作物の保護に関する条約)による保護を受けるか否かが判断された。ベルヌ条約は、我が国について昭和50年4月24日に効力を生じ、北朝鮮について平成15年4月28日に効力を生じている。
(裁判所の判断)
「一般に,我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合,当該条約に基づき締約国が負担する義務が普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは格別,未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに生ずると解することはできず,我が国は,当該未承認国との間における当該条約に基づく権利義務関係を発生させるか否かを選択することができるものと解するのが相当である。
これをベルヌ条約についてみると,同条約は,同盟国の国民を著作者とする著作物を保護する一方(3条(1)(a)),非同盟国の国民を著作者とする著作物については,同盟国において最初に発行されるか,非同盟国と同盟国において同時に発行された場合に保護するにとどまる(同(b))など,非同盟国の国民の著作物を一般的に保護するものではない。したがって,同条約は,同盟国という国家の枠組みを前提として著作権の保護を図るものであり,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではない。
そして,前記事実関係等によれば,我が国について既に効力を生じている同条約に未承認国である北朝鮮が加入した際,同条約が北朝鮮について効力を生じた旨の告示は行われておらず,外務省や文部科学省は,我が国は,北朝鮮の国民の著作物について,同条約の同盟国の国民の著作物として保護する義務を同条約により負うものではないとの見解を示しているというのであるから,我が国は,未承認国である北朝鮮の加入にかかわらず,同国との間における同条約に基づく権利義務関係は発生しないという立場を採っているものというべきである。
以上の諸事情を考慮すれば,我が国は,同条約3条(1)(a)に基づき北朝鮮の国民の著作物を保護する義務を負うものではなく,本件各映画は,著作権法6条3号所定の著作物には当たらないと解するのが相当である。」
また、原審において「著作権法の保護の対象とならない著作物については,一切の法的保護を受けないと解することは相当ではなく(・・・),利用された著作物の客観的な価値や経済的な利用価値,その利用目的及び態様並びに利用行為の及ぼす影響等の諸事情を総合的に考慮して,当該利用行為が社会的相当性を欠くものと評価されるときは,不法行為法上違法とされる場合があると解するのが相当である。」と判断した点について、最高裁は以下のように判示した。
「著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。同法により保護を受ける著作物の範囲を定める同法6条もその趣旨の規定であると解されるのであって,ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利は,法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」
そして、株式会社フジテレビジョンらの放送は、朝鮮映画輸出入社らに対する不法行為とならないと判断した。
(判決文)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111208164938.pdf