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判例・実務情報

(知財高裁、著作権) 鑑定証書に添付された絵画のコピーは、著作権法上の引用に該当し、複製権の侵害ではないと判断。



Date.2010年12月17日

 平成22(ネ)10052号 判決日:平成22年10月13日 (原審、東京地裁平成20年(ワ)第31609号)  

 

・原判決中の控訴人の敗訴部分を取り消し 

・著作権法21条、32条1項、複製権、引用 

・控訴人 株式会社東京美術倶楽部(一審被告) 対 被控訴人 X(一審原告)

 

 控訴人の株式会社東京美術倶楽部は、画家であった亡Aが制作した本件絵画について、鑑定証書を作製する際に、本件各鑑定証書に添付するため、本件各絵画の縮小カラーコピーを作製した。亡Aの相続人である長男の亡B、養子(亡Bの長男)の被控訴人は、本件絵画の縮小カラーコピーを作製したことは、亡Aの著作権(複製権)を侵害するものであるとして、東京地裁に損害賠償請求(著作権法114条2項又は3項)の訴えを提起した。

 

 東京地裁は、控訴人が、本件絵画のコピーを作製したことは、亡B及び被控訴人が相続した著作権(複製権)を侵害するものであるとして、被控訴人の請求を一部認容した。控訴人は、この判決を不服として、知財高裁に控訴した。

 

 争点は、以下の通りである。

 ①鑑定証書に添付した本件絵画の縮小カラーコピーを作製した行為が、著作権法2条1項15号規定の著作物の複製に該当するか

 ②当該行為が著作権法32条1項の引用に該当するか

 

著作物の複製著作物の複製の該当性 

 本件コピーは、本件絵画の縮小カラーコピーであり、大きさは自ずと異なるが、本件各絵画と同一性の確認ができるものであるなどとして、著作権法上の「複製」に該当することは明らかとした。

 控訴人は、美術の著作物の複製が著作権法上の「複製」に該当するためには、鑑賞性を備えることが必要と主張したが、「絵画は、絵画の描く対象、構図、色彩、筆致等によって構成されるものであり、一般的に創作的要素を具備するものであって、それ自体が控訴人の主張する鑑賞性を備えるものであるから、当該絵画の内容及び形式を覚知できるものを再製した以上、その絵画が有する鑑賞性も備えるものであって、絵画の複製に該当するか否かの判断において、絵画の内容及び形式を覚知させるものを再製したか否かという要件とは別個に、鑑賞性を備えるか否かという要件を定立する必要はなく、控訴人の主張は採用することができない。」と判示した。

 

著作権法32条1項の引用の該当性

 著作権法上の引用に該当性について、知財高裁は、

 「他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であり、著作権法の上記目的をも念頭に置くと、引用としての利用に当たるか否かの判断においては、他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない。」と判示した。

 その上で、本件については、

 ①本件各鑑定証書に本件各コピーを添付したのは、その鑑定対象である絵画を特定し、かつ、当該鑑定証書の偽造を防ぐためであること

 ②一般的にみても、鑑定対象である絵画のカラーコピーを添付することが確実であって、添付の必要性・有用性も認められること

 ③著作物の鑑定業務が適正に行われることは、贋作の存在を排除し、著作物の価値を高め、著作権者等の権利の保護を図ることにもつながるものであること

を挙げて、本件各鑑定証書の作製に際して、本件各絵画を複製した本件各コピーを添付することは、その方法ないし態様としてみても、社会通念上、合理的な範囲内にとどまると判断した。

 

 また、32条1項における引用として適法とされるためには、利用者が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件でないと解されるべきものであって、本件各鑑定証書それ自体が著作物でないとしても、そのことから本件各鑑定証書に本件各コピーを添付してこれを利用したことが引用に当たるとした前記判断が妨げられるものではない、と判示した。

 結論として、知財高裁は、原判決中の控訴人の敗訴部分を取り消す判決をした。