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判例・実務情報

【知財高裁、特許】 引用発明が本願発明の課題を有しないとしても、異なる技術的課題の解決を目的として同じ解決手段に到達することはあり得るとして、進歩性を否定した事例 平成23(行ケ)10298



Date.2012年6月6日

知財高裁平成24年05月23日判決 平成23(行ケ)10298 マルチレイヤー記録担体及び、その製造方法及びその記録方法事件

 

・請求棄却

・コーニンクレッカ フィリップス  エレクトロニクス エヌ ヴィ 対 特許庁長官

・特許法29条2項、進歩性、容易想到性、動機づけ、異なる技術的課題、周知技術

 

 

(経緯)

 本件は、発明が「マルチレイヤー記録担体及び、その製造方法及びその記録方法」の特許出願に関し、特許庁により進歩性違反を理由に拒絶審決がなされたので、その取消しを求めて、原告が知財高裁に訴えを提起したものである。

 

(本件発明)

 少なくとも2つの実質的に平行な情報層が設けられたマルチレイヤー記録担体において、ギャップの有無により上方層の透過特性又は透過率が異なることは、光ディスクの容積容量の最大化の観点から好ましいものではない。

 

 本件発明は、データブロックの先頭にダミーデータを含む第1のガードフィールドを書き込み、データブロックの最後にダミーデータを含む第2のガードフィールドを書き込んだ上、先行するデータブロックの第2のガードフィールドの終了位置を連続するデータブロックの第1のガードフィールドの領域内に配置することにより、隣接データクラスタ又はデータブロック間のギャップを解消して均一な透過特性又は透過率を達成し、下方情報層上のデータ書き込みに悪影響を与えないようにして、光ディスクのディスク容積容量を最大にするというものである。

 

【請求項4】

 少なくとも2つの実質的に平行な情報層が設けられたマルチレイヤー記録担体にデータを記録する方法であって、前記方法は、

 a)前記少なくとも2つの情報層のトラック上にデータブロックの単位でデータを書き込む第1の書き込みステップと、

 b)データブロックの先頭にダミーデータを含む第1のガードフィールドを書き込み、データブロックの最後にダミーデータを含む第2のガードフィールドを書き込む第2の書き込みステップと、/を有し、/前記方法は更に、

 c)先行するデータブロックの前記第2のガードフィールドの終了位置が、連続するデータブロックの前記第1のガードフィールドの領域内に配置されるように、前記第1と前記第2のガードフィールドの長さを設定する設定ステップを有することを特徴とする方法

 

(引用発明)

 審決が認定した引用発明は、以下の通りである。

 

 所定のデータ量(例えば32セクタ+リンキング用の数セクタ)単位で記録媒体である光磁気ディスクに対して記録を行うディスク記録再生装置による記録再生動作方法であって、記録データは、一定数(32個)のセクタ毎にクラスタ化され、これらのクラスタの間にそれぞれ5個のリンキング用セクタL1ないしL5が配されて隣のクラスタと連結され、リンキング用セクタL1ないしL5には、例えば0等のダミーデータが配され、1つのクラスタ、例えばk番目のクラスタCkを記録する場合には、このクラスタCkの32個のセクタのみならず、前後それぞれ3セクタずつのリンキング用セクタ、すなわちクラスタCk-1側の3個のセクタL3ないしL5(ラン-インブロック)と、クラスタCk+1側の3個のセクタL1ないしL3(ラン-アウトブロック)とを含めて、計38セクタを単位として記録を行うようにし、このとき、これらの38セクタ分の記録データがメモリからエンコーダに送られ、このエンコーダでインターリーブ処理が行われることにより、最大108フレーム(約1.1セクタに相当)の距離の並べ換えが行われ、次のクラスタCk+1を記録するときには、クラスタCkとの間の5個のリンキング用セクタL1ないしL5の内の3個のセクタL3ないしL5がラン-インブロックとして用いられるから、セクタL3は重複して記録されるディスク記録再生装置による記録再生動作方法

 

(本件発明と引用発明の相違点)

 審決が認定した相違点は、以下の通りである。

 

相違点1

 記録担体につき、本件補正発明は、「少なくとも2つの実質的に平行な」情報層が設けられた「マルチレイヤー」記録担体との特定を有するのに対し、引用発明は、そのような特定を有しない点

 

相違点2

 第1の書き込みステップにつき、本件補正発明は、前記「少なくとも2つの」情報層のトラック上にデータブロックの単位でデータを書き込むとの特定を有するのに対し、引用発明は、そのような特定を有しない点

 

(審決)

 審決は、

 ①ディスク記録再生装置の記録媒体について、大容量化したいとの課題は普通に存在する、

 ②光ディスク(光磁気ディスクを含む。)において、大容量化のため、2つの平行な情報層を設けることは周知である、

 ③情報層が1つの記録媒体に対して普通に行われている記録動作について、それを変更すべき事情がない限り、情報層を2つとしても同様の記録動作を行うことは自然なことである

として、引用例に記載された発明の「記録媒体である光磁気ディスク」につき、大容量化のため、周知技術である2つの平行な情報層を設けて、本件発明の「少なくとも2つの実質的に平行な」情報層が設けられた「マルチレイヤー」記録担体とすることは、容易想到であると判断した。また、この際、引用例に記載された発明の計38セクタを単位として行う記録が、2つの平行な情報層において行われることも当然であると判断した。

 

(争点)

 本件における争点は、以下の通りである。

1.引用発明の認定の誤り

2.一致点の認定の誤り

3.相違点1及び2に係る判断の誤り

 

(裁判所の判断)

 上記争点のうち、相違点1及び2に係る判断の誤りについて、裁判所は以下の通り判示している。

 

相違点1について

 先ず、裁判所は、「光ディスクや光磁気ディスクの技術分野においては、ディスク1枚当たりの記録容量の増加を図ることは周知の技術課題」であり、「その容量を増加させる手段として、実質的に平行な複数の情報層を設け、ディスクの片側からの光入射により記録、再生がされる構成とすることは、本件特許出願の優先権主張日当時、当該技術分野における周知技術である」と認定した。

 そして、「記録媒体である光磁気ディスクに対して記録を行うディスク記録再生装置による記録再生動作方法である引用発明においても、ディスク1枚当たりの記録容量を増加させるため、前記・・・周知技術を適用し、実質的に平行な複数の情報層を設け、ディスクの片側からの光入射により記録、再生がされる構成とすることの動機付けはあるということができる。」と判断した。

 その結果、引用発明について、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到することができたものである、と判断した。

 

相違点2について

 先ず、裁判所は、2層の情報層を備えたマルチレイヤーの記録担体において,各情報層の記録方法を1層の情報層を備えた記録担体における記録方法と共通にすることが,互換性の観点から好ましいものであることは,当業者の技術常識であると認定した。

 また、「引用発明は,上記記録方法を採用することにより,他のクラスタとの間でのインターリーブによる相互干渉を考慮する必要がなくなり,データ処理が大幅に簡略化されることや,フォーカス外れ,トラッキングずれ,その他の誤動作等により,記録時に記録データが正常に記録できなかった場合にはクラスタ単位で再記録を行うことができ,再生時に有効なデータ読み取りが行えなかった場合には,クラスタ単位で再読み取りを行うことができるという作用効果を奏するものであるが,このような作用効果は,引用発明における記録担体(光磁気ディスク)が1層の情報層が設けられた構成であるか,少なくとも2つの実質的に平行な情報層が設けられたマルチレイヤーの構成であるかに関係なく,引用発明の上記記録方法によって得られるものである。」とした。

 そのため、「引用発明について,前記・・・周知技術を適用し,少なくとも2つの実質的に平行な情報層が設けられたマルチレイヤー記録担体とする際に,各情報層への記録を,引用発明における上記記録方法によって行うことは,引用発明の上記作用効果を奏するために,当業者が当然に行うものである」と判断した。

 その結果、「引用発明において,少なくとも2つの情報層のトラック上にデータブロックの単位でデータを書き込むようにすること,すなわち,相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは,上記周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものである」と判断した。

 

・原告の主張について

 原告は、「引用発明には上方情報層及び下方情報層という複数層の概念が存在しないから,均一な光透過率とすることにより,下方情報層へのデータ書き込みに悪影響を与えないようにするという2層構造に特有の本件補正発明の課題は,引用発明からは着想することはできない」などと主張した。

 

 しかし,本件発明が「均一な光透過率とすることにより,下方情報層へのデータ書き込みに悪影響を与えないようにするという」という課題を有するものであり,他方,引用発明は,このような課題を有するものではないとしても,異なる技術的課題の解決を目的として同じ解決手段(構成)に到達することはあり得るのであり,実際,引用発明に上記周知技術を適用することにより,相違点1に係る本件補正発明の構成とした場合には,各情報層はギャップが存在しないものとなる以上,引用発明が複数の情報層を備えていないからといって,本件補正発明と同様の構成とすることが想到し得ないということはできない,として原告の主張を採用しなかった。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120525141843.pdf