知財高裁平成24年03月28日判決 平成23(行ケ)10226 使い捨て吸収性物品形体の配列及び着用者用使い捨て吸収性物品形体を特定するための販売ディスプレーシステム事件
・請求棄却
・ザプロクター アンド ギャンブルカンパニー 対 特許庁長官
・特許法第17条の2第4項、29条2項、53条1項、特許請求の範囲の減縮、補正の却下
(経緯)
原告のザプロクター アンド ギャンブルカンパニーは、平成13年12月7日、発明の名称を「使い捨て吸収性物品形体の配列及び着用者用使い捨て吸収性物品形体を特定するための販売ディスプレーシステム」とする特許を出願したが、平成20年12月10日付けで拒絶査定を受けたので、平成21年3月16日、これに対する不服の審判を請求し、同年4月15日、手続補正をした(以下、「本件補正」という)。
特許庁は、拒絶査定不服審判(不服2009-5748号)において、本件補正を却下した上で、請求不成立審決をした。本件は、この拒絶審決に不服の原告がその取消を求めて知財高裁に訴えを提起したものである。
(本件補正)
本件補正は、請求項の数を22から56に増加させるものであり、請求項1を含む特許請求の範囲についても、下記の通り、大きく変更するものであった。
<補正前>
【請求項1】
発達の種々の段階で着用者に適合するように設計された使い捨て吸収性物品形体の配列であって,
第一吸収性物品形体であって,着用者の発達の第一段階に対応するように設計されたシャーシを含む第一吸収性物品形体と,
第二吸収性物品形体であって,着用者の発達の第二段階に対応するように設計されたシャーシを含む第二吸収性物品形体と,を含み,
前記第一吸収性物品形体と第二吸収性物品形体は,構造的に相違によって識別可能である配列
<補正後>
第一の装着者につけられた第一の吸収性物品を描いた第一のしるしを有する,新生児,歩き始める前の幼児,歩き始めた幼児のための吸収性物品の第一の包装と,
第二の装着者につけられた第二の吸収性物品を描いた第二のしるしを有する,新生児,歩き始める前の幼児,歩き始めた幼児のための吸収性物品の第二の包装と,を有し,
前記第一と第二の吸収性物品は異なる形体を有している,販売ディスプレーシステム
(争点)
本件の争点は、下記の通りである。
・本件補正の却下の適否
・一致点・相違点の認定の誤り
・相違点の判断の誤り
(裁判所の判断)
これらの争点のうち、本件補正の却下の適否については、以下の通り判断されている。
先ず、請求項1に於いて、本願発明の特許請求の範囲の記載にある「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めた点に関し、「配列」の文言は広辞苑を参酌しても、その技術的意義が明らかでないとした。
そして、当該「配列」の文言を「販売ディスプレーシステム」に改めたのは、拒絶理由通知において「なお,本願発明は,店頭等での商品の「配列」(「物」か「方法」か必ずしも明確ではない。)そのものを発明としている。これは,顧客への商品の訴求効果の増大を目的とする商業上の取り決めにすぎないともいえ,本願発明は,特許法が対象とする発明,即ち自然法則を利用した技術的思想の創作であるのかに疑義が残る。」との指摘を受けてなされたものであり、「店舗におけるディスプレー(製品の配列)及び選択装置(しるしの配列)の双方を包含していた本願発明の特許請求の範囲を減縮するため,店舗におけるディスプレー(製品の配列)に限定することを目的としたもの(同項2号)とみることができる。」として、この補正の適否に関する審決の判断は誤りであるとした。
その一方、請求項の数を22から56に増加させた補正については、以下の通り、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえず,法17条の2第4項2号に違反すると判断した。
先ず、拒絶査定不服審判の請求と同時にする補正において、請求項の数を増加させることについては、
「法17条の2第4項2号は,同条1項4号に基づく場合において特許請求の範囲についてする補正について,「特許請求の範囲の縮減(第36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明その補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものと規定しているところ,これは,審判請求に伴ってする補正について,出願人の便宜と迅速,的確かつ公平な審査の実現等との調整という観点から,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内に限って認めることとしたものである。そして,同号かっこ書が,補正前の「当該請求項」に記載された発明と補正後の「当該請求項」に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る旨を規定していることも併せ考えると,同号は,補正前の請求項と補正後の請求項とが,請求項の数の増減はともかく,対応したものとなっていることを前提としているものと解され,構成要件を択一的に記載している補正前の請求項についてその択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする場合あるいはその反対の場合などのように,請求項の数に増減はあっても,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正が行われたといえるような事情のない限り,補正によって新たな発明に関する請求項を追加することを許容するものではないというべきである。」
と述べた。
その上で、本件補正については、「補正前の各請求項には全く存在しない構成を付加することで,新たな発明に関する請求項を多数追加しているから,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正を行っているといえるような事情が見当たらない。 」として、多数の請求項を追加する点について、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえず,法17条の2第4項2号に違反すると判断した。
(参照元) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120330144236.pdf
知財高裁平成24年03月28日判決 平成23(行ケ)10226 使い捨て吸収性物品形体の配列及び着用者用使い捨て吸収性物品形体を特定するための販売ディスプレーシステム事件
・請求棄却
・ザプロクター アンド ギャンブルカンパニー 対 特許庁長官
・特許法第17条の2第4項、29条2項、53条1項、特許請求の範囲の減縮、補正の却下
(経緯)
原告のザプロクター アンド ギャンブルカンパニーは、平成13年12月7日、発明の名称を「使い捨て吸収性物品形体の配列及び着用者用使い捨て吸収性物品形体を特定するための販売ディスプレーシステム」とする特許を出願したが、平成20年12月10日付けで拒絶査定を受けたので、平成21年3月16日、これに対する不服の審判を請求し、同年4月15日、手続補正をした(以下、「本件補正」という)。
特許庁は、拒絶査定不服審判(不服2009-5748号)において、本件補正を却下した上で、請求不成立審決をした。本件は、この拒絶審決に不服の原告がその取消を求めて知財高裁に訴えを提起したものである。
(本件補正)
本件補正は、請求項の数を22から56に増加させるものであり、請求項1を含む特許請求の範囲についても、下記の通り、大きく変更するものであった。
<補正前>
【請求項1】
発達の種々の段階で着用者に適合するように設計された使い捨て吸収性物品形体の配列であって,
第一吸収性物品形体であって,着用者の発達の第一段階に対応するように設計されたシャーシを含む第一吸収性物品形体と,
第二吸収性物品形体であって,着用者の発達の第二段階に対応するように設計されたシャーシを含む第二吸収性物品形体と,を含み,
前記第一吸収性物品形体と第二吸収性物品形体は,構造的に相違によって識別可能である配列
<補正後>
【請求項1】
第一の装着者につけられた第一の吸収性物品を描いた第一のしるしを有する,新生児,歩き始める前の幼児,歩き始めた幼児のための吸収性物品の第一の包装と,
第二の装着者につけられた第二の吸収性物品を描いた第二のしるしを有する,新生児,歩き始める前の幼児,歩き始めた幼児のための吸収性物品の第二の包装と,を有し,
前記第一と第二の吸収性物品は異なる形体を有している,販売ディスプレーシステム
(争点)
本件の争点は、下記の通りである。
・本件補正の却下の適否
・一致点・相違点の認定の誤り
・相違点の判断の誤り
(裁判所の判断)
これらの争点のうち、本件補正の却下の適否については、以下の通り判断されている。
先ず、請求項1に於いて、本願発明の特許請求の範囲の記載にある「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めた点に関し、「配列」の文言は広辞苑を参酌しても、その技術的意義が明らかでないとした。
そして、当該「配列」の文言を「販売ディスプレーシステム」に改めたのは、拒絶理由通知において「なお,本願発明は,店頭等での商品の「配列」(「物」か「方法」か必ずしも明確ではない。)そのものを発明としている。これは,顧客への商品の訴求効果の増大を目的とする商業上の取り決めにすぎないともいえ,本願発明は,特許法が対象とする発明,即ち自然法則を利用した技術的思想の創作であるのかに疑義が残る。」との指摘を受けてなされたものであり、「店舗におけるディスプレー(製品の配列)及び選択装置(しるしの配列)の双方を包含していた本願発明の特許請求の範囲を減縮するため,店舗におけるディスプレー(製品の配列)に限定することを目的としたもの(同項2号)とみることができる。」として、この補正の適否に関する審決の判断は誤りであるとした。
その一方、請求項の数を22から56に増加させた補正については、以下の通り、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえず,法17条の2第4項2号に違反すると判断した。
先ず、拒絶査定不服審判の請求と同時にする補正において、請求項の数を増加させることについては、
「法17条の2第4項2号は,同条1項4号に基づく場合において特許請求の範囲についてする補正について,「特許請求の範囲の縮減(第36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明その補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものと規定しているところ,これは,審判請求に伴ってする補正について,出願人の便宜と迅速,的確かつ公平な審査の実現等との調整という観点から,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内に限って認めることとしたものである。そして,同号かっこ書が,補正前の「当該請求項」に記載された発明と補正後の「当該請求項」に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る旨を規定していることも併せ考えると,同号は,補正前の請求項と補正後の請求項とが,請求項の数の増減はともかく,対応したものとなっていることを前提としているものと解され,構成要件を択一的に記載している補正前の請求項についてその択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする場合あるいはその反対の場合などのように,請求項の数に増減はあっても,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正が行われたといえるような事情のない限り,補正によって新たな発明に関する請求項を追加することを許容するものではないというべきである。」
と述べた。
その上で、本件補正については、「補正前の各請求項には全く存在しない構成を付加することで,新たな発明に関する請求項を多数追加しているから,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正を行っているといえるような事情が見当たらない。 」として、多数の請求項を追加する点について、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえず,法17条の2第4項2号に違反すると判断した。
(参照元) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120330144236.pdf