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(知財高裁、特許) 特許法67条2項の「政令で定める処分の対象」となった有効成分が、特許請求の範囲に構成要件として明確に特定されていなくてもよいとされた事例



Date.2011年1月4日

平成21年(行ケ)第10062号、急速崩壊性多粒子状錠剤事件、平成22年12月22日判決

 

 ・請求認容

 ・エティファーム 対 特許庁長官

 ・特許法67条2項、68条の2、存続期間の延長、政令で定める処分の対象、有効成分

 

(概要)

 原告のエティファームは,「急速崩壊性多粒子状錠剤」に関する特許の特許権者である。本件特許の請求項1は、下記の通りである。

 

【請求項1】

 投与前に水中に分散させることなく経口投与する錠剤であって,味覚マスクするように被覆層(ただし,当該被覆層はステアリン酸,ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸亜鉛及びタルクからなる群から選択される潤滑剤の有効量を含む潤滑コーティング表層膜を含まない)で被覆された微結晶または微粒子形態の有効物質と,賦形剤混合物とを含む材料を圧縮して得られ,前記賦形剤混合物がカルボキシメチルセルロース又は錠剤の全重量に対して13.3%以下の不溶網状PVPを含む少なくとも1つの崩壊剤,及び,澱粉,加工澱粉,あるいは微結晶セルロースから選択され,水と接触して高粘度を生じない少なくとも1つの膨張剤を含み,発泡剤及び遊離の有機酸を含まず,口中で唾液の存在下で咀嚼無しに60秒より短い時間で崩壊する急速崩壊性多粒子錠剤。

 

 原告は、本件特許について、存続期間の延長登録出願をした。当該出願は,本件特許の専用実施権者である武田薬品が受けた錠剤「タケプロンOD錠15」(販売名)に関する薬事法上の承認に基づくものであった。

 

 この出願に対し、特許庁は、「医薬品についての処分が特許発明の実施に必要であったというためには,少なくともその処分によって特定される「物」,すなわち,「有効成分」が特許発明の構成要件として明確に特定されていることを要する。」とした上で、本件特許については、「本件特許発明の請求項1及び2に係る発明は,錠剤の発明であるが,錠剤に含有される有効成分については「味覚マスクするように被覆層(ただし,当該被覆層はステアリン酸,ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸亜鉛及びタルクからなる群から選択される潤滑剤の有効量を含む潤滑コーティング表層膜を含まない)で被覆された微結晶または微粒子形態の有効物質」と記載されているが,どのような物質を使用するのかは特定されていない。」などとして、拒絶審決をした。

 

(裁判所の判断)

 先ず、知財高裁は、特許法68条の2の解釈について、以下の通り判示している。

 

「 この規定の趣旨は、特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は,その特許発明の全範囲に及ぶものではなく,「政令で定める処分の対象」となった「物」(その処分においてその物に使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)についてのみ及ぶというものである。これは,特許請求の範囲の記載によって特定される特許発明は,様々な上位概念で記載されることがあり,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された「物」又は「物及び用途」よりも広いことが少なくないため,「政令で定める処分」を受けることが必要なために特許権者がその特許発明を実施することができなかった「物」又は「物及び用途」を超えて,延長された特許権の効力が及ぶとすることは,特許発明の実施が妨げられる場合に存続期間の延長を認めるという特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨に反することとなるからである。」

 

 その上で、「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」については、特許請求の範囲に記載の特許発明が上位概念で記載され、それらが構成要件として明確に特定されていなくても、客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識できるのであれば、それで足りると判断した。

 

「 このように,「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」に限定して特許権の存続期間の延長が認められるのであるから,特許権の存続期間満了後に当該特許発明を実施しようとする第三者に対して不測の不利益を与えないという観点から,存続期間の延長登録出願が適法であるためには,「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」についてみれば,それらが客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」を基準とし,「発明の詳細な説明」の記載に照らして認識できるものでなければならず,また,それで足りるということができる。すなわち,存続期間の延長登録出願に際し,「政令で定める処分」を前提として,その対象となった「物」又は「物及び用途」が,客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,上記の手法に基づいて認識できるような場合には,当該「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された行為に,「特許発明の実施」に当たる行為の部分があると客観的に判断することができるからである。そして,特許請求の範囲の記載によって特定される特許発明が,様々な上位概念で記載され,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された「物」又は「物及び用途」よりも広い場合であっても,当該「物」又は「物及び用途」が,客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識できるのであれば足りるのであり,上記の禁止が解除された「物」又は「物及び用途」が,特許発明のうちの特定の構成として明文上区分されている必要まではない。」

 

 本件処分(承認)の対象物は,ランソプラゾールを有効成分とするタケプロンOD錠15(販売名)の錠剤であり,処分の対象となった物について特定された用途は,「非びらん性胃食道逆流症」であった。

 知財高裁は、上記ランソプラゾールが本件明細書の発明の詳細な説明において有効物質として例示された「制酸薬」又は「胃腸鎮静薬」に該当し,本件特許発明の特許請求の範囲請求項1記載の「有効物質」に該当すると認定。

 その結果、本件特許の存続期間の延長登録出願に際し,その対象となった「物及び用途」は,客観的に明確に記載され,かつ,本件特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識でき,これに基づいて,本件の承認を受けることによって禁止が解除された行為に,本件特許発明の実施に当たる行為の部分があるか否かを客観的に判断することができるとして、原告の請求を認めた。

 

 本件と同旨の裁判例としては、知財高裁平成20(行ケ)10476、平成20(行ケ)10477、平成20(行ケ)10478があり、「「政令で定める処分」の対象となった「物」(又は「物」及び「用途」)が,客観的な要素によって特定され,かつ,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載及び技術常識に基づいて,十分に認識,理解できることが必要となるとはいい得ても,特許請求の範囲によって明確に記載されていることが必要となるとはいえない。」と判示している。

 特許権の延長登録の対象については、過去に、「政令で定める処分」の対象となった「物」が、医薬品の「有効成分」なのか、或いは同処分の対象となった「品目」であるのかが論点となっていたが、平成18(行ケ)10311、平成19年(行ケ)10016は、特許法68条の2にいう「物」が「有効成分」を,「用途」が「効能・効果」を意味すると判示した。しかし、「用法・用量」は除外されていた。

 その後、裁判所は、この点についても運用を改め、特許法68条の2にいう「物」を、「有効成分」のみならず処分の対象となった「品目」でも捉えることにより、新たな「用法・用量」に基づく処分に対しても特許権の存続期間の延長登録を認めることとしている(平成20(行ケ)10458、平成20(行ケ)10459、平成20(行ケ)10460)。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101224102745.pdf