知財高裁平成24年2月22日判決、平成23(行ケ)10178、セルロースアシレート、セルロースアシレート溶液およびその調製方法事件
・請求棄却
・株式会社ダイセル、富士フィルム株式会社 対 特許庁長官
・特許法17条の2第4項、29条2項、36条5項、補正の却下、限定的減縮、進歩性、容易想到性、発明の効果
(経緯)
原告らは、「セルロースアシレート、セルロースアシレート溶液およびその調製方法」の発明に関し、特許出願をしたが、平成20年2月22日付けで拒絶査定を受けた。そのため、原告らは、拒絶査定不服審判を請求するとともに、手続補正書を提出して本願請求項2の補正をした。
これに対し、特許庁は、本件補正を却下した上で、請求不成立の審決をした。本件は、この審決に不服の原告らがその取消しを求めて知財高裁に訴えを提起したものである。
(本願発明及び引用発明)
補正前の本願発明は、以下の通りである。
【請求項1】 2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレート
補正後の本願発明は、以下の通りである。
【請求項1】 ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフイルムを製造するためのセルロースアシレートであって、2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレート
また、審決が認定した引用発明は、以下の通りである。
引用発明:2位と3位のアセチル置換度の合計が1.91、かつ、6位のアセチル置換度が0.89であるセルロースアセテート
(相違点)
審決が認定した補正前の本願発明と引用発明の相違点は、以下の通りである。
相違点:2位、3位のアシル置換度の合計が、本願発明では、「1.70以上1.90以下」であるのに対し、引用発明では、「1.91」である点
(争点)
争点は、以下の通りである。
(1) 本件補正を却下した判断に誤りがあるか否か(取消事由1)
(2) 本願発明の進歩性に係る判断に誤りがあるか否か(取消事由2)
(裁判所の判断)
知財高裁は、先ず、17条の2第4項に基づく補正に関し、以下の通り判示した。
「法17条の2第4項に基づく補正は、法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる(法17条の2第4項2号)。すなわち、補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであることが必要である。」
そして、本件については、
「本件補正事項に係る「ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフイルムを製造するためのセルロースアシレート」とは、セルロースアシレートがフィルムという物品を製造するための原料であり、そのフィルムの製造方法がソルベントキャスト法であることを特定するものであるが、補正前の請求項1には、セルロースアシレートが何らかの物品を製造するための原料であることや、その物品の製造方法に関して何ら特定する事項がない。よって、本件補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当しない。」
として、17条の2第4項違反を理由に補正を却下したことについては、誤りがないと判断した。
・容易想到性
裁判所は、本願発明と引用発明はセルロースアシレートの特定方法が異なり、直接比較することができないとしながらも、両者には重複する範囲があるとし、また引用発明は、「セルロースアシレートに関して「2位、3位および6位のアセチル置換度の合計が2.67以上であり、かつ2位および3位のアセチル置換度の合計が1.97以下」の範囲を特定するものであり、その範囲のセルロースアセテートが製造可能であることは、引用例の記載及び技術常識に照らして明らかであるから、引用例に特定される要件を満足する範囲の中で、セルロースアシレートを特定すること、またそのように特定したセルロースアシレートを用いて引用例に記載された方法によってドープを調製し、フイルムを製膜してみることは、当業者が容易に想到し得ることである。」とした。
そして、本願発明がそのような引用例の記載から当業者が容易に発明できるセルロースアシレートを包含していることは明らかであると判断した。
・発明の効果
原告らは、引用例で広く規定された数値範囲と一部重複するものの、引用例の実施例とは重複していないこと、本願発明は引用発明と技術的思想が異なり、かつ異質で顕著な効果を奏しており、数値範囲の重複は特許性を認められない理由にはならないことを主張した。
この主張に対し、裁判所は、引用例に特定される範囲のセルロースアシレートのうち、引用例に実施例として記載されていないものについては、引用例に特定される範囲の中で、セルロースアシレートという化学物質を単に特定したり、さらにより限定された範囲を単に特定してみたりすることにより、当業者が適宜想到し得るとした。
また、本願明細書において確認されているのは、特定の条件で製造されたドープや当該ドープから製造されたフィルムの性能のみであり、本願発明の範囲に含まれるセルロースアシレートという化学物質を特定したことによって、当業者が予測できない効果を奏することに関しては明らかにされていないとした。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120306154027.pdf
知財高裁平成24年2月22日判決、平成23(行ケ)10178、セルロースアシレート、セルロースアシレート溶液およびその調製方法事件
・請求棄却
・株式会社ダイセル、富士フィルム株式会社 対 特許庁長官
・特許法17条の2第4項、29条2項、36条5項、補正の却下、限定的減縮、進歩性、容易想到性、発明の効果
(経緯)
原告らは、「セルロースアシレート、セルロースアシレート溶液およびその調製方法」の発明に関し、特許出願をしたが、平成20年2月22日付けで拒絶査定を受けた。そのため、原告らは、拒絶査定不服審判を請求するとともに、手続補正書を提出して本願請求項2の補正をした。
これに対し、特許庁は、本件補正を却下した上で、請求不成立の審決をした。本件は、この審決に不服の原告らがその取消しを求めて知財高裁に訴えを提起したものである。
(本願発明及び引用発明)
補正前の本願発明は、以下の通りである。
【請求項1】
2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレート
補正後の本願発明は、以下の通りである。
【請求項1】
ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフイルムを製造するためのセルロースアシレートであって、2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレート
また、審決が認定した引用発明は、以下の通りである。
引用発明:2位と3位のアセチル置換度の合計が1.91、かつ、6位のアセチル置換度が0.89であるセルロースアセテート
(相違点)
審決が認定した補正前の本願発明と引用発明の相違点は、以下の通りである。
相違点:2位、3位のアシル置換度の合計が、本願発明では、「1.70以上1.90以下」であるのに対し、引用発明では、「1.91」である点
(争点)
争点は、以下の通りである。
(1) 本件補正を却下した判断に誤りがあるか否か(取消事由1)
(2) 本願発明の進歩性に係る判断に誤りがあるか否か(取消事由2)
(裁判所の判断)
(1) 本件補正を却下した判断に誤りがあるか否か(取消事由1)
知財高裁は、先ず、17条の2第4項に基づく補正に関し、以下の通り判示した。
「法17条の2第4項に基づく補正は、法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる(法17条の2第4項2号)。すなわち、補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであることが必要である。」
そして、本件については、
「本件補正事項に係る「ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフイルムを製造するためのセルロースアシレート」とは、セルロースアシレートがフィルムという物品を製造するための原料であり、そのフィルムの製造方法がソルベントキャスト法であることを特定するものであるが、補正前の請求項1には、セルロースアシレートが何らかの物品を製造するための原料であることや、その物品の製造方法に関して何ら特定する事項がない。よって、本件補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当しない。」
として、17条の2第4項違反を理由に補正を却下したことについては、誤りがないと判断した。
(2) 本願発明の進歩性に係る判断に誤りがあるか否か(取消事由2)
・容易想到性
裁判所は、本願発明と引用発明はセルロースアシレートの特定方法が異なり、直接比較することができないとしながらも、両者には重複する範囲があるとし、また引用発明は、「セルロースアシレートに関して「2位、3位および6位のアセチル置換度の合計が2.67以上であり、かつ2位および3位のアセチル置換度の合計が1.97以下」の範囲を特定するものであり、その範囲のセルロースアセテートが製造可能であることは、引用例の記載及び技術常識に照らして明らかであるから、引用例に特定される要件を満足する範囲の中で、セルロースアシレートを特定すること、またそのように特定したセルロースアシレートを用いて引用例に記載された方法によってドープを調製し、フイルムを製膜してみることは、当業者が容易に想到し得ることである。」とした。
そして、本願発明がそのような引用例の記載から当業者が容易に発明できるセルロースアシレートを包含していることは明らかであると判断した。
・発明の効果
原告らは、引用例で広く規定された数値範囲と一部重複するものの、引用例の実施例とは重複していないこと、本願発明は引用発明と技術的思想が異なり、かつ異質で顕著な効果を奏しており、数値範囲の重複は特許性を認められない理由にはならないことを主張した。
この主張に対し、裁判所は、引用例に特定される範囲のセルロースアシレートのうち、引用例に実施例として記載されていないものについては、引用例に特定される範囲の中で、セルロースアシレートという化学物質を単に特定したり、さらにより限定された範囲を単に特定してみたりすることにより、当業者が適宜想到し得るとした。
また、本願明細書において確認されているのは、特定の条件で製造されたドープや当該ドープから製造されたフィルムの性能のみであり、本願発明の範囲に含まれるセルロースアシレートという化学物質を特定したことによって、当業者が予測できない効果を奏することに関しては明らかにされていないとした。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120306154027.pdf