平成23年10月04日判決 平成22(行ケ)10298(逆転洗濯方法および伝動機事件)
・請求認容
・海尓集団公司、海尓電器国際股份有限公司 対 特許庁長官
・特許法29条2項、50条、159条2項、法令違背、補正の却下、意見書提出の機会、審尋、進歩性、技術分野の共通性、課題の共通性、組み合わせの動機づけ
(経緯)
原告は、「逆転洗濯方法および伝動機」の発明に関して、日本等を指定国とするPCT出願をした。しかし、その後、拒絶査定を受けたので、これに対する不服審判をするとともに、明細書を対象とする本件補正を行った。
特許庁は、審判官による審理において審尋をし、原告はこれに対して回答書を提出したが、特許庁は本件補正を却下するとともに、請求不成立の審決をした。
本件は、この審決に不服の原告が知財高裁に訴えを提起した事案である。
(争点)
争点は、以下の通りである。
・審判手続の法令違背
・相違点2についての進歩性判断の誤り
(裁判所の判断)
上記争点のうち、審判手続の法令違背については、以下のようなが判断がなされている。
先ず、拒絶査定および審尋書において、特許庁が引用した引用文献は下記の通りであった。
・拒絶査定
刊行物1(特開昭59-171588号公報)、特開昭53-25072号公報、特表平9-500709号公報、実願平4-27639号
・審尋書(前置報告書)
刊行物1、刊行物2(実願昭61-179182号)、実願昭63-111582号
上記の審尋書に対し原告は、回答書において、本件補正は独立特許要件を充足すること、補正案を示して更に請求項1を補正する機会を与えてほしいことを述べた。しかし、特許庁は、補正の機会を与えることなく拒絶審決をした。
上記のような経緯において、本件訴訟では、原告は以下の様な主張をした。
「審決が、拒絶査定における引用文献と異なる引用文献を用いて補正発明の進歩性を否定したものであり、原告には、拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由について意見書を提出する機会が与えられなかったから、審判手続には特許法159条2項で準用する同法50条の規定に違反する瑕疵があり、当該瑕疵は審決の結論に影響を及ぼす違法なものである。」
このような原告の主張に対し、裁判所は、先ず以下のように判示した。
「・・・同法53条は、同法17条の2第1項2号に係る補正が、同条3項から第5項までの規定に違反している場合には、決定をもってその補正を却下すべきものとし、同条は、同法159条1項で読み替えて拒絶査定不服審判に準用される。また、同法50条ただし書は、拒絶査定をする場合であっても、補正の却下をするときは、拒絶理由を通知する必要はないものとし、同条ただし書は、同法159条2項で読み替えて拒絶査定不服審判に準用される。したがって、拒絶査定不服審判請求に際して行われた補正については、いわゆる新規事項の追加に該当する場合や補正の目的に反する場合だけでなく、新規性、進歩性等の独立特許要件を欠く場合であっても、これを却下すべきこととされ、その場合、拒絶理由を通知することは必要とされていない。
ところで、平成6年法50条本文は、拒絶査定をしようとする場合は、出願人に対し拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し、同法17条の2第1項1号に基づき、出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えられ、これらの規定は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。審査段階と異なり、審判手続では拒絶理由通知がない限り補正の機会がなく(もとより審決取消訴訟においては補正をする余地はない。)、拒絶査定を受けたときとは異なり拒絶査定不服審判請求を不成立とする審決(拒絶審決)を受けたときにはもはや再補正の機会はないので、この点において出願人である審判請求人にとって過酷である。特許法の前記規定によれば、補正が独立特許要件を欠く場合にも、拒絶理由通知をしなくとも審決に際し補正を却下することができるのであるが、出願人である審判請求人にとって上記過酷な結果が生じることにかんがみれば、特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念を欠くものとして、審判手続を含む特許出願審査手続における適正手続違反があったものとすべき場合もあり得るというべきである。」
その上で、本件においては、
① 本件補正の内容となる構成が補正前の構成に比して大きく限定されていたこと
② 審尋で提示された公知文献はそれまでの拒絶理由通知では提示されていなかったものであること
③ 審尋の結果、原告は具体的に再補正案を示して改めて拒絶理由を通知してほしい旨の意見書を提出したこと
④ 新たに提示された刊行物2の記載事項を適用することは是認できないこと
を考慮して、拒絶理由を通知することなく、審決で、従前引用された文献や周知技術とは異なる刊行物2を審尋書で示しただけのままで進歩性欠如の理由として本件補正を却下したのは、特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念が欠けたものとして適正手続違反があるとせざるを得ないと判断した。
被告は、原告が回答書において意見を述べる機会が与えられていたと主張したが、裁判所は、拒絶理由を通知して意見書の提出を求めたものではないから、補正案を示して補正の機会を与えるよう要望し、新たに示された刊行物2に対応した補正を予定していた原告の手続保障に欠けるものであり、適正な審判の実現と発明の保護を図るという観点を欠くものであると判断した。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111006132823.pdf
平成23年10月04日判決 平成22(行ケ)10298(逆転洗濯方法および伝動機事件)
・請求認容
・海尓集団公司、海尓電器国際股份有限公司 対 特許庁長官
・特許法29条2項、50条、159条2項、法令違背、補正の却下、意見書提出の機会、審尋、進歩性、技術分野の共通性、課題の共通性、組み合わせの動機づけ
(経緯)
原告は、「逆転洗濯方法および伝動機」の発明に関して、日本等を指定国とするPCT出願をした。しかし、その後、拒絶査定を受けたので、これに対する不服審判をするとともに、明細書を対象とする本件補正を行った。
特許庁は、審判官による審理において審尋をし、原告はこれに対して回答書を提出したが、特許庁は本件補正を却下するとともに、請求不成立の審決をした。
本件は、この審決に不服の原告が知財高裁に訴えを提起した事案である。
(争点)
争点は、以下の通りである。
・審判手続の法令違背
・相違点2についての進歩性判断の誤り
(裁判所の判断)
上記争点のうち、審判手続の法令違背については、以下のようなが判断がなされている。
先ず、拒絶査定および審尋書において、特許庁が引用した引用文献は下記の通りであった。
・拒絶査定
刊行物1(特開昭59-171588号公報)、特開昭53-25072号公報、特表平9-500709号公報、実願平4-27639号
・審尋書(前置報告書)
刊行物1、刊行物2(実願昭61-179182号)、実願昭63-111582号
上記の審尋書に対し原告は、回答書において、本件補正は独立特許要件を充足すること、補正案を示して更に請求項1を補正する機会を与えてほしいことを述べた。しかし、特許庁は、補正の機会を与えることなく拒絶審決をした。
上記のような経緯において、本件訴訟では、原告は以下の様な主張をした。
「審決が、拒絶査定における引用文献と異なる引用文献を用いて補正発明の進歩性を否定したものであり、原告には、拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由について意見書を提出する機会が与えられなかったから、審判手続には特許法159条2項で準用する同法50条の規定に違反する瑕疵があり、当該瑕疵は審決の結論に影響を及ぼす違法なものである。」
このような原告の主張に対し、裁判所は、先ず以下のように判示した。
「・・・同法53条は、同法17条の2第1項2号に係る補正が、同条3項から第5項までの規定に違反している場合には、決定をもってその補正を却下すべきものとし、同条は、同法159条1項で読み替えて拒絶査定不服審判に準用される。また、同法50条ただし書は、拒絶査定をする場合であっても、補正の却下をするときは、拒絶理由を通知する必要はないものとし、同条ただし書は、同法159条2項で読み替えて拒絶査定不服審判に準用される。したがって、拒絶査定不服審判請求に際して行われた補正については、いわゆる新規事項の追加に該当する場合や補正の目的に反する場合だけでなく、新規性、進歩性等の独立特許要件を欠く場合であっても、これを却下すべきこととされ、その場合、拒絶理由を通知することは必要とされていない。
ところで、平成6年法50条本文は、拒絶査定をしようとする場合は、出願人に対し拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し、同法17条の2第1項1号に基づき、出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えられ、これらの規定は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。審査段階と異なり、審判手続では拒絶理由通知がない限り補正の機会がなく(もとより審決取消訴訟においては補正をする余地はない。)、拒絶査定を受けたときとは異なり拒絶査定不服審判請求を不成立とする審決(拒絶審決)を受けたときにはもはや再補正の機会はないので、この点において出願人である審判請求人にとって過酷である。特許法の前記規定によれば、補正が独立特許要件を欠く場合にも、拒絶理由通知をしなくとも審決に際し補正を却下することができるのであるが、出願人である審判請求人にとって上記過酷な結果が生じることにかんがみれば、特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念を欠くものとして、審判手続を含む特許出願審査手続における適正手続違反があったものとすべき場合もあり得るというべきである。」
その上で、本件においては、
① 本件補正の内容となる構成が補正前の構成に比して大きく限定されていたこと
② 審尋で提示された公知文献はそれまでの拒絶理由通知では提示されていなかったものであること
③ 審尋の結果、原告は具体的に再補正案を示して改めて拒絶理由を通知してほしい旨の意見書を提出したこと
④ 新たに提示された刊行物2の記載事項を適用することは是認できないこと
を考慮して、拒絶理由を通知することなく、審決で、従前引用された文献や周知技術とは異なる刊行物2を審尋書で示しただけのままで進歩性欠如の理由として本件補正を却下したのは、特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念が欠けたものとして適正手続違反があるとせざるを得ないと判断した。
被告は、原告が回答書において意見を述べる機会が与えられていたと主張したが、裁判所は、拒絶理由を通知して意見書の提出を求めたものではないから、補正案を示して補正の機会を与えるよう要望し、新たに示された刊行物2に対応した補正を予定していた原告の手続保障に欠けるものであり、適正な審判の実現と発明の保護を図るという観点を欠くものであると判断した。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111006132823.pdf