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判例・実務情報

【知財高裁、特許】 引用刊行物としての適格性が争われた事例



Date.2012年1月13日

平成23年10月31日判決 平成23(行ケ)10189 牛,鶏,豚の生物の疾病に対して塩化マグネシウムを利用する方法事件

・請求棄却

・X 対 特許庁長官

・特許法29条1項3号、2項、進歩性、引用発明の適格性、刊行物


(経緯)

 原告は、「牛,鶏,豚の生物の疾病に対して塩化マグネシウムを利用する方法」の発明に関する特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。しかし、特許庁は拒絶審決をしたので、原告はその取消を求めて知財高裁に訴えを提起した。

 尚、拒絶査定不服審判では、本件発明が、原告の著書である引用例に基づき進歩性を有するか否かが問題となった。また、原告は,薬事法違反で起訴され,実刑判決を受けており、その刑事事件において、裁判所は本件の引用例が全くでたらめな内容の本であると判断した経緯がある。

(裁判所の判断)

 本件においては、いくつかの争点があるが、本件の引用例に対する引用文献としての適格性については、以下の様な判断がなされている。

 先ず、原告は、以下の点を根拠に、本件の引用例が引用文献としての適格性を欠いていると主張している。

①刑事事件において裁判所が引用例の内容をでたらめと判断し,これを刊行物として認めなかった

②A教授が,引用例の内容をでたらめと判断した

③引用例が絶版となった

 このような原告の主張に対し、裁判所は、「仮に刑事事件において裁判所が引用例の内容をでたらめと判断し,あるいはA教授が引用例の内容をでたらめと判断し,さらには引用例とされた刊行物が絶版になった事実が認められたとしても,当該刊行物が出版されたという事実自体が消滅するものではなく,引用例は特許法29条1項3号所定の「特許出願前に日本国内・・・において,頒布された刊行物」に該当する。」と判示した。

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111102150035.pdf