平成22(行ケ)10124号 信号調整装置事件 判決日:平成22年11月30日
・請求認容
・特許法29条2項、159条条2項、50条、手続違背、意見書提出の機会
・マイクロ・モーション・インコーポレーテッド 対 特許庁長官
原告の出願発明は、「コリオリ流量計の本質的に安全な信号調整装置」に関するものである。特許庁は、請求項45~50に記載の発明は進歩性を欠くとして拒絶審決をした。
請求項45は下記の通りである。
【請求項45】 流量計信号処理システムであって、 信号調整装置(201)と、 前記信号調整装置(201)に遠隔結合されたホスト・システム(200)と、を具備し、前記信号調整装置(201)と前記ホスト・システム(200)とが本質的に安全な閾値内で動作し、 前記信号調整装置(201)が、流量計組立体(10)に結合された流量計組立体保護回路(330)と、前記ホスト・システム(200)に結合されたホスト側保護回路(320)とを備える流量計信号処理システム。
知財高裁の判断は、特許庁が新たな拒絶理由通知をしたにも関わらず、原告に意見書提出の機会を与えなかったとして、特許法159条2項、および50条の手続違背があるというものであった。
審決が、拒絶理由通知又は拒絶査定に於いて示された理由付けを付加又は変更する場合には、特段の事情がある場合を除き、原則として、意見書提出の機会を付与しなければならない(159条2項、50条)。
本判決では、上記の特段の事情について、手続の公正および当事者(請求人)の利益を害さない場合を挙げている。また、利益を害さない場合とは、進歩性判断における容易想到性の有無については、「本願発明が容易想到とされるに至る基礎となる技術の位置づけ、重要性、当事者(請求人)が実質的な防御の機会を得ていたかなど諸般の事情を総合的に勘案して、判断すべきである。」と判示している。
その上で、本件に於いては、以下の点を考慮して、本件に於いては、原告に意見書提出の機会を与えることが不可欠であり、その機会を奪うことは手続の公正及び原告の利益を害する手続上の瑕疵があると判断した。
①引用発明との相違点1に係る構成である「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする技術」が、出願当初から明示的に記載されていた。
②相違点1に係る構成は、本願発明の課題解決手段と結びついた特徴的な構成である。
③審決で初めて、相違点1に係る構成は、周知技術を適用することによって容易に想到できると判断した。
④周知技術であると認定した証拠は、審決において、初めて原告に示した。
⑤本件全証拠によっても、相違点1に係る構成が、専門技術分野や出願時期を問わず、周知であることが明らかであるとはいえない。
⑥原告は、審査段階で提出した意見書において、専ら、本願発明と引用発明との間の相違点1を認定していない瑕疵がある旨の反論を述べただけであり、相違点1に係る構成が容易想到でないことについての意見は述べていない。
例えば、上記⑥において、原告が容易想到性についてもさらに踏み込んで反論をしていた場合は、結論が違っていた可能性がある。この場合には、実質的に原告に反論の機会が与えられていたとして、手続の公正および原告の利益を害していないと判断され得るからである。
この点に関連する裁判例として、知財高裁平成20年2月21日判決 平成18年(行ケ)第10538号がある。この事件では、審査段階に於いて、引用文献2(引用刊行物)を引用文献として掲げながらも、審査官は、引用文献2(引用刊行物)を実質的には拒絶理由としておらず、また、拒絶査定においては、引用文献2について何ら言及することなく、備考欄でも引用文献3(周知例1)を中心として拒絶すべき理由を説明していた。ところが、審決では、引用文献2(引用刊行物)を主引用例として拒絶審決をしていた。しかし、出願人は、引用文献2についても意見・反論をしていたことから、裁判所は原告には具体的な不利益がなかったとして、手続違背でないと判断した。
尚、本件に類似の裁判例としては、知財高裁平成20年6月16日判決 平成19年(行ケ)第10244号(セルロースパルプ製造装置のスクリーン板事件)がある。当該事件に於いて、本願発明の引用発明との相違点に係る構成の容易想到性について、拒絶理由通知および拒絶査定では具体的に言及されていなかった。
裁判所は、容易想到性の存在が当業者にとって根拠を示すまでもなく自明であるとは認められず、原告が、本願当初発明又は本願発明と引用発明との間に相違点が存在することを認識し、かつ、審査官が当該相違点の構成について当業者が容易に想到し得るものと判断していることを理解することができたとしても、そのことをもって、原告が、本願当初発明又は本願発明が引用発明を根拠に特許法29条2項の規定に該当するとの拒絶理由の通知を受けたものと評価することはできない、と判示している。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101201151923.pdf
平成22(行ケ)10124号 信号調整装置事件 判決日:平成22年11月30日
・請求認容
・特許法29条2項、159条条2項、50条、手続違背、意見書提出の機会
・マイクロ・モーション・インコーポレーテッド 対 特許庁長官
原告の出願発明は、「コリオリ流量計の本質的に安全な信号調整装置」に関するものである。特許庁は、請求項45~50に記載の発明は進歩性を欠くとして拒絶審決をした。
請求項45は下記の通りである。
【請求項45】 流量計信号処理システムであって、 信号調整装置(201)と、 前記信号調整装置(201)に遠隔結合されたホスト・システム(200)と、を具備し、前記信号調整装置(201)と前記ホスト・システム(200)とが本質的に安全な閾値内で動作し、 前記信号調整装置(201)が、流量計組立体(10)に結合された流量計組立体保護回路(330)と、前記ホスト・システム(200)に結合されたホスト側保護回路(320)とを備える流量計信号処理システム。
知財高裁の判断は、特許庁が新たな拒絶理由通知をしたにも関わらず、原告に意見書提出の機会を与えなかったとして、特許法159条2項、および50条の手続違背があるというものであった。
審決が、拒絶理由通知又は拒絶査定に於いて示された理由付けを付加又は変更する場合には、特段の事情がある場合を除き、原則として、意見書提出の機会を付与しなければならない(159条2項、50条)。
本判決では、上記の特段の事情について、手続の公正および当事者(請求人)の利益を害さない場合を挙げている。また、利益を害さない場合とは、進歩性判断における容易想到性の有無については、「本願発明が容易想到とされるに至る基礎となる技術の位置づけ、重要性、当事者(請求人)が実質的な防御の機会を得ていたかなど諸般の事情を総合的に勘案して、判断すべきである。」と判示している。
その上で、本件に於いては、以下の点を考慮して、本件に於いては、原告に意見書提出の機会を与えることが不可欠であり、その機会を奪うことは手続の公正及び原告の利益を害する手続上の瑕疵があると判断した。
①引用発明との相違点1に係る構成である「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする技術」が、出願当初から明示的に記載されていた。
②相違点1に係る構成は、本願発明の課題解決手段と結びついた特徴的な構成である。
③審決で初めて、相違点1に係る構成は、周知技術を適用することによって容易に想到できると判断した。
④周知技術であると認定した証拠は、審決において、初めて原告に示した。
⑤本件全証拠によっても、相違点1に係る構成が、専門技術分野や出願時期を問わず、周知であることが明らかであるとはいえない。
⑥原告は、審査段階で提出した意見書において、専ら、本願発明と引用発明との間の相違点1を認定していない瑕疵がある旨の反論を述べただけであり、相違点1に係る構成が容易想到でないことについての意見は述べていない。
例えば、上記⑥において、原告が容易想到性についてもさらに踏み込んで反論をしていた場合は、結論が違っていた可能性がある。この場合には、実質的に原告に反論の機会が与えられていたとして、手続の公正および原告の利益を害していないと判断され得るからである。
この点に関連する裁判例として、知財高裁平成20年2月21日判決 平成18年(行ケ)第10538号がある。この事件では、審査段階に於いて、引用文献2(引用刊行物)を引用文献として掲げながらも、審査官は、引用文献2(引用刊行物)を実質的には拒絶理由としておらず、また、拒絶査定においては、引用文献2について何ら言及することなく、備考欄でも引用文献3(周知例1)を中心として拒絶すべき理由を説明していた。ところが、審決では、引用文献2(引用刊行物)を主引用例として拒絶審決をしていた。しかし、出願人は、引用文献2についても意見・反論をしていたことから、裁判所は原告には具体的な不利益がなかったとして、手続違背でないと判断した。
尚、本件に類似の裁判例としては、知財高裁平成20年6月16日判決 平成19年(行ケ)第10244号(セルロースパルプ製造装置のスクリーン板事件)がある。当該事件に於いて、本願発明の引用発明との相違点に係る構成の容易想到性について、拒絶理由通知および拒絶査定では具体的に言及されていなかった。
裁判所は、容易想到性の存在が当業者にとって根拠を示すまでもなく自明であるとは認められず、原告が、本願当初発明又は本願発明と引用発明との間に相違点が存在することを認識し、かつ、審査官が当該相違点の構成について当業者が容易に想到し得るものと判断していることを理解することができたとしても、そのことをもって、原告が、本願当初発明又は本願発明が引用発明を根拠に特許法29条2項の規定に該当するとの拒絶理由の通知を受けたものと評価することはできない、と判示している。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101201151923.pdf