知財高裁平成23年02月22日判決 平成21(行ケ)10423~10429 環状アミン誘導体事件
・請求棄却
・特許法67条の2、延長登録
(経緯)
被告は、「環状アミン誘導体」の特許発明の特許権者である。被告は、本件特許について、7件の存続期間延長登録を出願し、各出願につき延長の期間を5年とする本件特許権の存続期間の延長登録がなされた。この延長登録に対して、原告らは、本件延長登録に対する無効審判をそれぞれ請求した。
特許庁は、いずれの無効審判においても、請求不成立の審決をした。本件は、これらの請求不成立審決に不服の原告がその取消しを求めて知財高裁に訴えを提起したものである。
(審決)
先の用途である「軽度及び中程度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」と本件延長登録に係る用途である「アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制(但し、軽度及び中程度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制を除く。)」(実質的には「高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」)は実質的に同一ではないから、本件延長登録は、本件特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって政令で定めるものを受ける必要がない場合の出願に対してなされたものではない。
(争点)
本件延長登録に先だってされた延長登録の理由となった処分の対象物について特定された用途と、本件延長登録におけるそれとが実質的に同一であるか否か。
(裁判所の判断)
裁判所は、先ず、先の承認処分の対象となった軽度及び中等度アルツハイマー型認知症と、本件処分の対象となった高度アルツハイマー型認知症の違いについては、各種医学書籍等がアルツハイマー病ないしアルツハイマー型認知症を1つの疾患として扱い、それを初期・中期・後期、あるいは軽度・中等度・高度といった段階に分けていることなどを理由に、「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症」と「高度アルツハイマー型認知症」は実質的に異なる疾患というよりも、アルツハイマー型認知症という1つの疾患を重症度によって区分したものであると判断した。
そして、先の承認処分における用途と本件承認処分における用途の同一性については、
「軽度及び中等度アルツハイマー型認知症と高度アルツハイマー型認知症との差異は、緩やかにかつ不可逆的に進行するアルツハイマー型認知症の重症度による差異であると解されるところ、塩酸ドネペジルが軽度及び中等度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であることが確認されていたとしても、より重症である高度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であるとするには、高度アルツハイマー型認知症の患者を対象に塩酸ドネペジルを投与し、その有効性及び安全性を確認するための臨床試験が必要であったと認められる。
そして、「用途」とは「使いみち。用いどころ。」を意味するものであり、医薬品の「用途」とは医薬品が作用して効能又は効果を奏する対象となる疾患や病症等をいうと解され、「用途」の同一性は、医薬品製造販売承認事項一部変更承認書等の記載から形式的に決するのではなく、先の承認処分と本件承認処分に係る医薬品の適用対象となる疾患の病態(病態生理)、薬理作用、症状等を考慮して実質的に決すべきであると解されるところ、本件のように、対象となる疾患がアルツハイマー型認知症であり、薬理作用はアセチルコリンセルテラーゼの阻害という点では同じでも、先の承認処分と後の処分との間でその重症度に違いがあり、先の承認処分では承認されていないより重症の疾患部分の有効性・安全性確認のために別途臨床試験が必要な場合には、特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって政令で定めるものを受ける必要があった場合に該当するものとして、重症度による用途の差異を認めることができるというべきである。」
と判示し、軽度及び中等度アルツハイマー型認知症と、高度アルツハイマー型認知症とは、疾患としては1つのものとして認められるが、用途についてみれば、先の承認処分における用途である「軽度及び中等度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」と本件承認処分における用途である「高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」が実質的に同一であるといえないとして、請求不成立とした審決を支持した。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110223114428.pdf
知財高裁平成23年02月22日判決 平成21(行ケ)10423~10429 環状アミン誘導体事件
・請求棄却
・特許法67条の2、延長登録
(経緯)
被告は、「環状アミン誘導体」の特許発明の特許権者である。被告は、本件特許について、7件の存続期間延長登録を出願し、各出願につき延長の期間を5年とする本件特許権の存続期間の延長登録がなされた。この延長登録に対して、原告らは、本件延長登録に対する無効審判をそれぞれ請求した。
特許庁は、いずれの無効審判においても、請求不成立の審決をした。本件は、これらの請求不成立審決に不服の原告がその取消しを求めて知財高裁に訴えを提起したものである。
(審決)
先の用途である「軽度及び中程度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」と本件延長登録に係る用途である「アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制(但し、軽度及び中程度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制を除く。)」(実質的には「高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」)は実質的に同一ではないから、本件延長登録は、本件特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって政令で定めるものを受ける必要がない場合の出願に対してなされたものではない。
(争点)
本件延長登録に先だってされた延長登録の理由となった処分の対象物について特定された用途と、本件延長登録におけるそれとが実質的に同一であるか否か。
(裁判所の判断)
裁判所は、先ず、先の承認処分の対象となった軽度及び中等度アルツハイマー型認知症と、本件処分の対象となった高度アルツハイマー型認知症の違いについては、各種医学書籍等がアルツハイマー病ないしアルツハイマー型認知症を1つの疾患として扱い、それを初期・中期・後期、あるいは軽度・中等度・高度といった段階に分けていることなどを理由に、「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症」と「高度アルツハイマー型認知症」は実質的に異なる疾患というよりも、アルツハイマー型認知症という1つの疾患を重症度によって区分したものであると判断した。
そして、先の承認処分における用途と本件承認処分における用途の同一性については、
「軽度及び中等度アルツハイマー型認知症と高度アルツハイマー型認知症との差異は、緩やかにかつ不可逆的に進行するアルツハイマー型認知症の重症度による差異であると解されるところ、塩酸ドネペジルが軽度及び中等度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であることが確認されていたとしても、より重症である高度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であるとするには、高度アルツハイマー型認知症の患者を対象に塩酸ドネペジルを投与し、その有効性及び安全性を確認するための臨床試験が必要であったと認められる。
そして、「用途」とは「使いみち。用いどころ。」を意味するものであり、医薬品の「用途」とは医薬品が作用して効能又は効果を奏する対象となる疾患や病症等をいうと解され、「用途」の同一性は、医薬品製造販売承認事項一部変更承認書等の記載から形式的に決するのではなく、先の承認処分と本件承認処分に係る医薬品の適用対象となる疾患の病態(病態生理)、薬理作用、症状等を考慮して実質的に決すべきであると解されるところ、本件のように、対象となる疾患がアルツハイマー型認知症であり、薬理作用はアセチルコリンセルテラーゼの阻害という点では同じでも、先の承認処分と後の処分との間でその重症度に違いがあり、先の承認処分では承認されていないより重症の疾患部分の有効性・安全性確認のために別途臨床試験が必要な場合には、特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって政令で定めるものを受ける必要があった場合に該当するものとして、重症度による用途の差異を認めることができるというべきである。」
と判示し、軽度及び中等度アルツハイマー型認知症と、高度アルツハイマー型認知症とは、疾患としては1つのものとして認められるが、用途についてみれば、先の承認処分における用途である「軽度及び中等度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」と本件承認処分における用途である「高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」が実質的に同一であるといえないとして、請求不成立とした審決を支持した。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110223114428.pdf