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判例・実務情報

【知財高裁、特許】 共有に係る権利の共有者全員の代理人から審判請求書が提出された場合に、共有者全員が「共同して請求した」といえるかどうかについては、単に審判請求書の請求人欄の記載のみによって判断すべきものではなく、その請求書の全趣旨や当該出願について特許庁が知り得た事情等を勘案して、総合的に判断すべき、とされた事例。 平成22(行ケ)10363



Date.2011年6月13日

知財高裁平成23年05月30日判決 平成22(行ケ)10363 チオキサントン誘導体、およびカチオン光開始剤としてのそれらの使用事件 

 

・請求認容

・サン ケミカル コーポレーション、A、B 対 特許庁長官

・特許法123条3項、共同審判、共有者、拒絶査定不服審判

 

(経緯)

 原告のサン ケミカル コーポレーション、原告A及び原告Bは、本願発明の特許を受ける権利の共有者である。

 

 本件出願はPCT出願であり、その国内移行の際には、【特許出願人】の欄に原告サンケミカルの名称のみを記載した国内書面を提出していた。このとき、特許庁は、【特許出願人】の欄を正確に記載するよう手続補正指令書を通知し、代理人は、原告A及び原告Bを国内書面の出願人に追加する旨の手続補正書を提出している。

 

 その後、特許庁は、実体審査において本件出願を拒絶査定としたが、代理人はこれを不服として拒絶査定不服審判を特許庁に請求し。このときの審判請求書においても、代理人は、原告のサンケミカル コーポレーションのみを【審判請求人】欄に記載し、原告AおよびBについては記載していなかった。

 

 このため、特許庁は、特許法第132条第3項の規定により、上記共有者の全員が共同して拒絶査定不服審判の請求をしなければならないところ、本件は、その一部の者である「サン・ケミカル・コーポレーション」によってなされたものであるから不適法な請求であって、その補正をすることができないものであるとして、請求却下の審決をした。

 本件は、この審決に不服の原告らがその取消を求めた知財高裁に訴えを提起したものである。

 

(裁判所の判断)

 知財高裁は、先ず、共有に係る権利の共有者全員の代理人から審判請求書が提出された場合、共有者全員が「共同して請求した」といえるかどうかについては、単に審判請求書の請求人欄の記載のみによって判断すべきもでなく、その請求書の全趣旨や当該出願について特許庁が知り得た事情等を勘案して、総合的に判断すべきと述べた。

 

「 (1) 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができず(特許法38条)、その共有に係る権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない(同法132条3項)。

 また、特許を受けようとする者は、特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならず(同法36条1項)、拒絶査定に対して不服審判を請求する者は、当事者及び代理人の氏名又は名称及び住所又は

居所を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならないとされている(同法131条1項)。したがって、共有者の全員が一人の代理人に対して拒絶査定不服審判の請求を委任し、その代理人が、共有者のために拒絶査定不服審判を請求する際には、審判請求書に請求人として共有者全員の氏名を記載することが求められる。

 (2) 上記規定によれば、審判請求書には審判請求人全員の氏名を記載しなければならないのであるが、他方、共有に係る権利の共有者全員の代理人から審判請求書が提出された場合において、共有者全員が「共同して請求した」といえるかどうかについては、単に審判請求書の請求人欄の記載のみによって判断すべきものではなく、その請求書の全趣旨や当該出願について特許庁が知り得た事情等を勘案して、総合的に判断すべきである。」

 

 その上で、代理人が、共有者全員から拒絶査定不服審判請求について委任を受けているにもかかわらず、共有者の一部の者のみを代理して拒絶査定不服審判を請求している行為、共有者全員の利益を害するものであり、通常は考えられないとして、そのような審判請求書は、誤記に基づくものであると判断するのが合理的であると述べた。

 

 「共有に係る特許を受ける権利についての審判請求のように、共有者全員が共同して請求しなければならないと規定されている場合に、代理人が、共有者全員から拒絶査定不服審判請求について委任を受けているにもかかわらず、共有者の一部の者のみを代理して拒絶査定不服審判を請求することは、あえて不適法な審判請求をすることとなり、そのような行為は、不自然かつ不合理であるといえるから、代理人がそのような共有者全員の利益を害するような行為を行うことは、通常考えられない。そうだとすると、その代理人から審判請求書を受理する特許庁としては、代理人がこのような不合理な行為を行うやむを得ない特段の事情が推認される場合はさておき、そのような事情がない限り、審判請求書の記載上、共有者の一部の者のためにのみする旨の表示となっている場合があったとしても、そのような審判請求書は、誤記に基づくものであると判断するのが合理的である。

 

 そして、本件に於いては、

 ①原告らは、いずれも日本国内に営業所又は住所若しくは居所を有しない者であり、特許に関する代理人である特許管理人によらなければ特許法に基づく諸手続を行うことができず、しかも、特許管理人は原則として一切の手続について本人を代理するという包括的な代理権を有していること(特許法8条1項、2項)、

 ②原告らは、本願発明に係る特許法に基づく諸手続を辻永弁理士に委任しており、同弁理士は原告らの特許管理人であったこと、

 ③特許庁は、特許出願過程において、原告A及び原告Bが発明者であると共に出願人でもあると理解した上、国内書面の特許出願人の欄を補正するよう手続補正を指令し、これに応じて、代理人は、原告A及び原告Bを国内書面の特許出願人に追加する旨の手続補正を行ったこと、

 ④特許庁は、本件出願の拒絶査定書に於いて、特許出願人として「サン・ケミカル・コーポレーション(外2名)」と記載し、前記代理人の氏名も記載したことを認定した。

 

 その結果、本件の審判請求は、前記代理人が原告ら全員の意志によってなされたものであることが明らかであり、特許庁もその意志を十分に知り得たとして、審判長は、133条1項に基づき、原告らの代理人に対して、相当の期間を定めてその補正をすべきことを命じなければならなかったと判断した。

 

これにより、本件審決は、補正命令をすることなく本件審判請求を却下したものであり、違法であるから取り消されるべきであると判示した。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110531121332.pdf