知財高裁平成24年03月08日判決 平成23(行ケ)10184 オゾン&アクアドライ事件
・請求認容
・株式会社ハッピー、株式会社京都産業 対 株式会社きょくとう
・商標法51条1項、56条1項、不正使用取消審判、自他識別機能、手続違背
(経緯)
被告の株式会社きょくとうは、下記登録商標の商標権者である(第4492310号、指定役務:第37類「洗濯、被服のプレス、被服の修理、毛皮製品の手入れ又は修理」)。
原告ら(原告株式会社ハッピー、株式会社京都産業)は、被告が、故意に、指定役務について本件登録商標に類似する商標を使用して、原告らの業務に係る役務と混同を生じる行為をしたなどと主張して、本件登録商標につき、不正使用取消審判を請求した(取消2010-300705号事件)。
これに対し特許庁は、本件審判の請求は、成り立たないとの審決をしたので、原告らはその取消しを求めて知財高裁に訴えを提起した。
(審決)
審決は、被告が使用する下記被告使用商標1ないし5が、原告ハッピーが商標権を有する下記登録商標(登録第4305744号。以下「引用商標」という。)と類似しておらず、被告が下記の被告使用商標1ないし5を使用することによって、引用商標と混同を生じることも、役務の質の誤認を生じることもない、また商標法51条1項所定の「故意」を認めることもできず、本件登録商標を取り消すべきでない、とするものであった。
(争点)
本件の主な争点は、下記の通りである。
1.本件審判手続における手続違背の有無(取消事由4)
2.被告使用商標1ないし5と引用商標との出所の混同に関する判断の誤りの有無(取消事由1)
3.役務の質の誤認に関する判断の誤り(取消事由2)
(裁判所の判断)
本件審判手続の経緯は下記の通りであった。
平成22年 6月25日 原告らが審判請求
平成22年 9月 6日 被告が答弁書を特許庁に提出
平成23年 5月 6日 審決
平成23年 5月13日 審決謄本・答弁書の副本の送達
先ず、知財高裁は、商標法56条1項で準用する特許法134条3項の趣旨について、下記の通り述べている。
「商標法56条1項が準用する特許法134条3項は、審判長は、答弁書を受理したときは、その副本を請求人に送達しなければならないと規定する。同規定は、審判請求手続において、答弁書が提出された場合には、その副本を請求人に送達して、請求人に被請求人の主張の内容を知らせ、請求人にこれに対応する機会を付与するなど、適正な審判手続を実現する趣旨で設けられた規定といえる。」
その上で、本件については、平成22年9月6日に被告から答弁書が出されていたにもかかわらず、答弁書副本が原告らに発送されたのが、答弁書提出から8か月を経過した後である平成23年5月13日であり、しかも、審決書謄本と共に発送されている点を指摘。
「このような手続は、特許法が答弁書副本の送達を義務づけた上記の趣旨に著しく反した措置というべきであり、同法134条3項に違反する。」と判断した。その結果、本件審決は、その審判手続に瑕疵があり、取り消されるべきである、とした。
・本件登録商標と被告使用商標1ないし5の類似性
先ず、本件登録商標については、「オゾンアンドアクアドライ」の称呼を生じるほか、2段に分けて表記されているため、上段の表記から「オゾンアンドアクア」の称呼を生じるとした。また、「オゾン」は酸素の同素体を意味し、「アクア」は他の語と組み合わせて複合的に使用した場合に「水」を意味し、「ドライ」は「ドライクリーニング」を意味すると認められる等として、「オゾン」「アクア」「ドライ」はそれぞれ別個の意味を有する語句であり、これらの語句が結合された本件登録商標から特定の観念は生じないと判断した。
一方、被告使用商標1~5については、「オゾンアンドアクアドライ」、「オゾンアンドアクア」又は「オゾンアクアドライ」の称呼を生じ、かつ、特定の観念を生じないとした。
その結果、被告がクリーニング業において被告使用商標1~5を使用したことは、本件登録商標の指定役務である「洗濯」に本件登録商標に類似する商標を使用したことに該当する。
・引用商標の周知性
広告等には、引用商標である「アクアドライ」が表記されているが、文字を拡大したり、太文字にしたり、色彩を変えたりするなど、看者の注意を引くような態様で表記されていないものも多い点、新聞や雑誌等に掲載された原告らに関する記事についても、原告らが提供する洗浄方法やサービス、原告らの営業方針等に関する記事の一部に、「アクアドライ」が表記されているものも多く、引用商標が、看者の記憶に残るように表記されているわけではない点、引用商標が使用されたアンケート葉書やハッピー通信は、既に原告らと取引を行っている顧客らに送付されるものである点を考慮し、引用商標が特定のクリーニング業者の提供する洗濯(洗浄方法)を表示するものとして、周知であったとは認め難いと判断した。
・被告使用商標1~5との出所の混同の有無
先ず、引用商標については、、「アクアドライ」の称呼を生じ、かつ、「アクアドライ」はこれらを結合した造語であるから、特別な観念を生じないと認定した。
その上で、被告使用商標1~5との出所の混同の有無については、称呼及び外観が異なることから、被告が、被告使用商標1ないし5を使用することによって、原告らの業務に係る役務と混同を生じるとは認められない、と判断した。
尚、原告らは、被告使用商標1~5における自他識別力を有する部分は、「AQUADRY」「アクアドライクリーニング」又は「アクアドライ」部分であると主張したが、裁判所は、
①引用商標である「アクアドライ」は、「アクア」と「ドライ」の2語を結合させた造語であって、引用商標が周知であるとは認められないこと、
②被告使用商標1ないし4における「オゾンアンドアクア」の称呼は音数もそれほど多くなく、一連に称呼し得るものであること、
③被告は、被告使用商標1ないし5を使用して、オゾンのドライクリーニングに水を加えて洗う洗浄方法を提供していること
を理由に、原告らの主張は採用できないとした。
被告使用商標1ないし5は特別な観念を生じるものではなく、これらを使用することにより、被告の提供する役務の質の誤認を生じさせると認めることはできないと判断した。
以上の通り、本件においては、原告ら主張の取消事由4について理由があるとして、審決が取り消された。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120309094552.pdf
知財高裁平成24年03月08日判決 平成23(行ケ)10184 オゾン&アクアドライ事件
・請求認容
・株式会社ハッピー、株式会社京都産業 対 株式会社きょくとう
・商標法51条1項、56条1項、不正使用取消審判、自他識別機能、手続違背
(経緯)
被告の株式会社きょくとうは、下記登録商標の商標権者である(第4492310号、指定役務:第37類「洗濯、被服のプレス、被服の修理、毛皮製品の手入れ又は修理」)。
原告ら(原告株式会社ハッピー、株式会社京都産業)は、被告が、故意に、指定役務について本件登録商標に類似する商標を使用して、原告らの業務に係る役務と混同を生じる行為をしたなどと主張して、本件登録商標につき、不正使用取消審判を請求した(取消2010-300705号事件)。
これに対し特許庁は、本件審判の請求は、成り立たないとの審決をしたので、原告らはその取消しを求めて知財高裁に訴えを提起した。
(審決)
審決は、被告が使用する下記被告使用商標1ないし5が、原告ハッピーが商標権を有する下記登録商標(登録第4305744号。以下「引用商標」という。)と類似しておらず、被告が下記の被告使用商標1ないし5を使用することによって、引用商標と混同を生じることも、役務の質の誤認を生じることもない、また商標法51条1項所定の「故意」を認めることもできず、本件登録商標を取り消すべきでない、とするものであった。
(争点)
本件の主な争点は、下記の通りである。
1.本件審判手続における手続違背の有無(取消事由4)
2.被告使用商標1ないし5と引用商標との出所の混同に関する判断の誤りの有無(取消事由1)
3.役務の質の誤認に関する判断の誤り(取消事由2)
(裁判所の判断)
1.本件審判手続における手続違背の有無(取消事由4)
本件審判手続の経緯は下記の通りであった。
平成22年 6月25日 原告らが審判請求
平成22年 9月 6日 被告が答弁書を特許庁に提出
平成23年 5月 6日 審決
平成23年 5月13日 審決謄本・答弁書の副本の送達
先ず、知財高裁は、商標法56条1項で準用する特許法134条3項の趣旨について、下記の通り述べている。
「商標法56条1項が準用する特許法134条3項は、審判長は、答弁書を受理したときは、その副本を請求人に送達しなければならないと規定する。同規定は、審判請求手続において、答弁書が提出された場合には、その副本を請求人に送達して、請求人に被請求人の主張の内容を知らせ、請求人にこれに対応する機会を付与するなど、適正な審判手続を実現する趣旨で設けられた規定といえる。」
その上で、本件については、平成22年9月6日に被告から答弁書が出されていたにもかかわらず、答弁書副本が原告らに発送されたのが、答弁書提出から8か月を経過した後である平成23年5月13日であり、しかも、審決書謄本と共に発送されている点を指摘。
「このような手続は、特許法が答弁書副本の送達を義務づけた上記の趣旨に著しく反した措置というべきであり、同法134条3項に違反する。」と判断した。その結果、本件審決は、その審判手続に瑕疵があり、取り消されるべきである、とした。
2.被告使用商標1ないし5と引用商標との出所の混同に関する判断の誤りの有無(取消事由1)
・本件登録商標と被告使用商標1ないし5の類似性
先ず、本件登録商標については、「オゾンアンドアクアドライ」の称呼を生じるほか、2段に分けて表記されているため、上段の表記から「オゾンアンドアクア」の称呼を生じるとした。また、「オゾン」は酸素の同素体を意味し、「アクア」は他の語と組み合わせて複合的に使用した場合に「水」を意味し、「ドライ」は「ドライクリーニング」を意味すると認められる等として、「オゾン」「アクア」「ドライ」はそれぞれ別個の意味を有する語句であり、これらの語句が結合された本件登録商標から特定の観念は生じないと判断した。
一方、被告使用商標1~5については、「オゾンアンドアクアドライ」、「オゾンアンドアクア」又は「オゾンアクアドライ」の称呼を生じ、かつ、特定の観念を生じないとした。
その結果、被告がクリーニング業において被告使用商標1~5を使用したことは、本件登録商標の指定役務である「洗濯」に本件登録商標に類似する商標を使用したことに該当する。
・引用商標の周知性
広告等には、引用商標である「アクアドライ」が表記されているが、文字を拡大したり、太文字にしたり、色彩を変えたりするなど、看者の注意を引くような態様で表記されていないものも多い点、新聞や雑誌等に掲載された原告らに関する記事についても、原告らが提供する洗浄方法やサービス、原告らの営業方針等に関する記事の一部に、「アクアドライ」が表記されているものも多く、引用商標が、看者の記憶に残るように表記されているわけではない点、引用商標が使用されたアンケート葉書やハッピー通信は、既に原告らと取引を行っている顧客らに送付されるものである点を考慮し、引用商標が特定のクリーニング業者の提供する洗濯(洗浄方法)を表示するものとして、周知であったとは認め難いと判断した。
・被告使用商標1~5との出所の混同の有無
先ず、引用商標については、、「アクアドライ」の称呼を生じ、かつ、「アクアドライ」はこれらを結合した造語であるから、特別な観念を生じないと認定した。
その上で、被告使用商標1~5との出所の混同の有無については、称呼及び外観が異なることから、被告が、被告使用商標1ないし5を使用することによって、原告らの業務に係る役務と混同を生じるとは認められない、と判断した。
尚、原告らは、被告使用商標1~5における自他識別力を有する部分は、「AQUA
DRY」「アクアドライクリーニング」又は「アクアドライ」部分であると主張したが、裁判所は、
①引用商標である「アクアドライ」は、「アクア」と「ドライ」の2語を結合させた造語であって、引用商標が周知であるとは認められないこと、
②被告使用商標1ないし4における「オゾンアンドアクア」の称呼は音数もそれほど多くなく、一連に称呼し得るものであること、
③被告は、被告使用商標1ないし5を使用して、オゾンのドライクリーニングに水を加えて洗う洗浄方法を提供していること
を理由に、原告らの主張は採用できないとした。
3.役務の質の誤認に関する判断の誤り(取消事由2)
被告使用商標1ないし5は特別な観念を生じるものではなく、これらを使用することにより、被告の提供する役務の質の誤認を生じさせると認めることはできないと判断した。
以上の通り、本件においては、原告ら主張の取消事由4について理由があるとして、審決が取り消された。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120309094552.pdf