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判例・実務情報

【知財高裁、商標】 知財高裁が、ゴルチェの香水瓶は自他商品識別力を有するとして、立体商標の登録を認める判決



Date.2011年5月2日

知財高裁平成23年4月21日判決 平成22(行ケ)10366 ジャンポール・ゴルチエ「クラシック」事件

 

・請求認容

・ボーテ プレスティージュ アンテルナショナル 対 特許庁長官

・商標法3条1項3号、立体商標

 

 

(経緯)

 原告のボーテ プレスティージュ アンテルナショナルは、指定商品を「美容製品、せっけん、香料類及び香水類、化粧品」とする下記の立体商標について、商標登録出願をしたが、拒絶査定を受けた。これに不服の原告は、拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁は3条1項3号違反を理由に、拒絶審決をした。

 本件は、この審決に不服の原告が、その取消しを求めて知財高裁に訴えを提起した事案である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(争点)

 争点は、下記の通りである。

 1.商標法3条1項3号に該当するとした判断の誤り

 2.商標法3条2項に該当しないとした判断の誤り

 

(裁判所の判断)

 1.商標法3条1項3号に該当するとした判断の誤り

 

 先ず、知財高裁は、立体商標における商品等の形状が、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、3条1項3号に該当すると判示した。

 

 「客観的に見て、商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当することになる。

 また、商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは、公益上適当でない。

 よって、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、同号に該当するものというべきである。」

 

 そして、本件商標については、

 「本願商標の立体的形状のうち、上部の蓋部兼噴霧器部分は、液体である香水を収納し、これを取り出すという容器の基本的な形状であって、スプレーという機能をより効果的に発揮させるものであり、その下の容器部分の形状は、容器の輪郭の美感をより優れたものにするためのものであることが認められる。なお、本願商標に係る立体的形状は、一定の特徴を有するものではあるが、女性の身体をモチーフした香水の容器は、他にもあり、香水の容器において通常採用されている形状の範囲を大きく超えるものとまでは認められない。

 そうすると、本願商標の立体的形状は、本件審決時を基準として客観的に見れば、香水の容器について、機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められ、また、香水の容器の形状として、需要者において、機能又は美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当するというべきである。」

 

 この点に関し、原告は、本願商標のような形状は、それまで何人も着想しなかったものであり、また、製造する上での困難性を伴うから、一般的に使用されるものではなく、自他商品識別力を有すると主張したが、裁判所は、「原告の主観的な意図が、本願商標の形状に自他商品識別力を持たせることを目的とするものであったとしても、そのことにより、本願商標の立体的形状が有する客観的な性質に関する判断が左右されるものではない。」と判断した。

 また、「本件審決の時点で、現に、人間の身体等をモチーフとした香水が他にも相当数存在し、女性の身体をモチーフとした香水の容器も存在することに照らすと、本願商標の形状が予測し得る範囲を超えるということはできない。」とも述べた。

 

 2.商標法3条2項に該当しないとした判断の誤り

 

 先ず、裁判所は、立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、

①当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否、

②当該商標が使用された期間、商品の販売数量、広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情

を総合考慮して判断すべきとした。

 

 そして本願商標については、香水の容器の形状として通常採用されている範囲を大きく超えるものとまでは認められず、需要者において予測可能な範囲内のものではあるが、「女性の身体をモチーフとした香水の容器の中でも、本願商標のような人間の胸部に該当する部分に2つの突起を有し、そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し、そこから下部にかけて、なだらかに膨らみを有した形状は、他に見当たらない。」などとして、一定の特異性を有し、その立体的形状は需要者の目につきやすく、強い印象を与えるものであると指摘。

 

 本願商標の立体的形状は独立して自他商品識別力を獲得するに至っており、香水等の取引者・需要者がこれをみれば、原告の販売に係る香水等であることを識別することができるとして、商標法3条2項の要件を充足すると判断した。

 

 この点に関し、被告は、本願商標に係る香水の販売地や販売地域、販売数量や宣伝広告費が不明で、市場占有率も高くないから、香水の一般的な需要者が、本願商標が、原告の出所に係る商品であると認識し得るものではないと主張したが、裁判所は、「販売地域、販売数量や宣伝広告費等が明らかにされることが望ましいものの、それらが必ずしも明らかではないとしても、その形状の特徴から自他商品識別力を獲得することはあり得るし、香水は安価な日用品とは異なるものであり、香水専門誌やファッション雑誌等による宣伝広告をみた需要者は、その特徴的な容器の形状から、原告の出所に係る商品であることを認識し得るということができる。」と判示した。

 

 また、被告は、香水以外の他の商品については、自体商品識別力を有することの主張・立証がなされていないことを理由に、本願商標は、使用により識別力を有するに至ったとはいえないと主張したが、裁判所は、「本願商標が香水について自他商品識別力を有するに至った結果、これと極めて密接な関係にある化粧品等の本願の前記限定された指定商品に、本願商標が使用された場合にも、香水に係る取引者・需要者と重なる上記指定商品の取引者・需要者において、上記商品が香水に係る「ジャンポール・ゴルチエ」ブランドを販売する原告の販売に係る商品であることを認識することができるというべきである。」と判示した。

 

 以上から、裁判所は、特許庁の拒絶審決を取消し、原告の請求を認容した。

 

 

 尚、本件と類似の事件(知財高裁平成22(行ケ)10406、平成23年4月21日判決)が、本件と同じ日に判決されているが、この事件では原告の請求は棄却されている。

 この事件で問題となった立体商標は、下記の通りである。また、指定商品は、「洗濯用漂白剤その他の洗濯用剤、清浄剤、つや出し剤、擦り磨き剤及び研磨剤、美容製品、せっけん、香料類及び香水類、精油、化粧品、ヘアーローション、歯磨き」であり、本件商標の指定商品には洗濯用漂白剤等が指定されている。

 この事件では、原告は取消事由として、当該立体商標が商標法3条1項3号に該当するとした判断の誤りのみを主張し、商標法3条2項に該当しないとした判断の誤りについては争わなかった。裁判所は、なお書きに於いてこの点を指摘した上で、さらに「本願商標が「洗濯用漂白剤その他の洗濯用剤、清浄剤、つや出し剤、擦り磨き剤及び研磨剤」等の商品を含む指定商品に使用された場合、原告の販売に係る商品であることを認識することができると認めるに足りない。」と述べている。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110428145021.pdf