平成21(行ケ)10226 SIDAMO事件 判決日:平成22年03月29日
・請求一部認容
・商標法3条1項3号、4条1項16号、請求人適格、産地等を普通に用いられる方法で表示、品質誤認、地理的表示、TRIPs協定
・エチオピア連邦民主共和国 対 社団法人全日本コーヒー協会
原告は、「コーヒー、コーヒー豆」を指定商品とする「SIDAMO」の商標登録を取得した。この商標登録に対し、被告は無効審判を請求したところ、特許庁は、3条1項3号および4条1項16号違反を理由とする無効審決をした。本件はその取消訴訟である。
本件の主な争点は、以下の通りである。
①無効審判の請求人適格を有するか
②3条1項3号(産地等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)該当性の有無
③4条1項16号(商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標)該当性の有無
①について(無効審判の請求人適格を有するか)
この争点に関する原告の主張は、被告自身の社団法人としての性格から,被告は,コーヒーの輸出入ないし販売等の営業には自ら関与しておらず、本件商標の使用に関与する立場にもないことから、本件商標について何らの法律上の利益を有しないとするものである。
この主張に対し、知財高裁は、
・50条1項の取消審判に於いては、「何人も」請求することができると定めている
・特許法123条の特許無効審判では、「何人も」請求できると定めている
・商標に関する審判手続を定めた商標法56条は特許法148条(参加)を準用しており、同審判手続に補助参加人として参加することができる者は「審判の結果について利害関係を有する者」に限られると定めている
・無効審判請求と類似した制度である民訴法の一般原則として,「利益なければ訴権なし」と考えられること
を考慮し、商標法46条の無効審判の請求人は、審判の結果についての法律上の利害関係を有する者に限られると解する、と判示した。
その上で、本件については、本件商標登録の有効性が,被告の会員である「コーヒーの輸出入若しくは卸売を業とする者」及び「コーヒーの製造若しくは加工を業とする者」にとって利害関係があり、また、被告が国内コーヒーの消費振興事業を実施する場合等を考慮すると、本件商標登録の無効審判を請求するにつき利害関係を有し、請求人適格を有すると判示した。
②について(3条1項3号(産地等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)該当性の有無)
知財高裁は、本件商標が,その指定商品である「コーヒー,コーヒー豆」について用いられた場合,取引者・需要者は,コーヒー豆の産地そのものというよりは,エチオピア産(又はエチオピアのシダモ地方産)の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーを指すものと認識すると認定し、本件商標が自他識別力を有すると判断した。 更に、「SIDAMO」又は「シダモ」は,いろいろな業者によって使用されているが,それがエチオピア産(又はエチオピアのシダモ地方産)の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられている限り,原告による品質管理の下でエチオピアから輸出されたコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられていることになるから,商標権者が原告である限り,その独占使用を認めるのを公益上適当としないということもできないと判示し、本件商標登録は、3条1項3号に該当しないと判断した。
③について(4条1項16号(商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標)該当性の有無)
この争点について、知財高裁は、本件商標をエチオピアのシダモ地方産以外のコーヒー,コーヒー豆に使用した場合には,品質誤認を生ずるおそれがあると指摘。
その結果、本件商標は,これをその指定商品中「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆,エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」以外の「コーヒー豆,コーヒー」について使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,4条1項16号の該当性を肯定した審決の判断に誤りはないとした。
本件は、産地を普通に用いられる方法で表示した商標であっても、3条1項3号に該当しない場合があり得ることを示した点で意義がある。
ワイキキ事件最高裁判決(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・判例時報927号233頁参照)は、産地等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標の登録が認められない理由について、特定人によるその独占使用を認めるのが公益上適当でないこと、自他商品識別力を欠いていることを挙げている。
本件は、この2つの観点から3条1項3号の該当性の判断を行っているが、審決と異なる結論となったのは、指定商品「コーヒー、コーヒー豆」における取引者・需要者がどの様な認識を有しているのかの評価の違いによるものであった。
平成21(行ケ)10226 SIDAMO事件 判決日:平成22年03月29日
・請求一部認容
・商標法3条1項3号、4条1項16号、請求人適格、産地等を普通に用いられる方法で表示、品質誤認、地理的表示、TRIPs協定
・エチオピア連邦民主共和国 対 社団法人全日本コーヒー協会
原告は、「コーヒー、コーヒー豆」を指定商品とする「SIDAMO」の商標登録を取得した。この商標登録に対し、被告は無効審判を請求したところ、特許庁は、3条1項3号および4条1項16号違反を理由とする無効審決をした。本件はその取消訴訟である。
本件の主な争点は、以下の通りである。
①無効審判の請求人適格を有するか
②3条1項3号(産地等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)該当性の有無
③4条1項16号(商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標)該当性の有無
①について(無効審判の請求人適格を有するか)
この争点に関する原告の主張は、被告自身の社団法人としての性格から,被告は,コーヒーの輸出入ないし販売等の営業には自ら関与しておらず、本件商標の使用に関与する立場にもないことから、本件商標について何らの法律上の利益を有しないとするものである。
この主張に対し、知財高裁は、
・50条1項の取消審判に於いては、「何人も」請求することができると定めている
・特許法123条の特許無効審判では、「何人も」請求できると定めている
・商標に関する審判手続を定めた商標法56条は特許法148条(参加)を準用しており、同審判手続に補助参加人として参加することができる者は「審判の結果について利害関係を有する者」に限られると定めている
・無効審判請求と類似した制度である民訴法の一般原則として,「利益なければ訴権なし」と考えられること
を考慮し、商標法46条の無効審判の請求人は、審判の結果についての法律上の利害関係を有する者に限られると解する、と判示した。
その上で、本件については、本件商標登録の有効性が,被告の会員である「コーヒーの輸出入若しくは卸売を業とする者」及び「コーヒーの製造若しくは加工を業とする者」にとって利害関係があり、また、被告が国内コーヒーの消費振興事業を実施する場合等を考慮すると、本件商標登録の無効審判を請求するにつき利害関係を有し、請求人適格を有すると判示した。
②について(3条1項3号(産地等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)該当性の有無)
知財高裁は、本件商標が,その指定商品である「コーヒー,コーヒー豆」について用いられた場合,取引者・需要者は,コーヒー豆の産地そのものというよりは,エチオピア産(又はエチオピアのシダモ地方産)の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーを指すものと認識すると認定し、本件商標が自他識別力を有すると判断した。 更に、「SIDAMO」又は「シダモ」は,いろいろな業者によって使用されているが,それがエチオピア産(又はエチオピアのシダモ地方産)の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられている限り,原告による品質管理の下でエチオピアから輸出されたコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられていることになるから,商標権者が原告である限り,その独占使用を認めるのを公益上適当としないということもできないと判示し、本件商標登録は、3条1項3号に該当しないと判断した。
③について(4条1項16号(商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標)該当性の有無)
この争点について、知財高裁は、本件商標をエチオピアのシダモ地方産以外のコーヒー,コーヒー豆に使用した場合には,品質誤認を生ずるおそれがあると指摘。
その結果、本件商標は,これをその指定商品中「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆,エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」以外の「コーヒー豆,コーヒー」について使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,4条1項16号の該当性を肯定した審決の判断に誤りはないとした。
本件は、産地を普通に用いられる方法で表示した商標であっても、3条1項3号に該当しない場合があり得ることを示した点で意義がある。
ワイキキ事件最高裁判決(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・判例時報927号233頁参照)は、産地等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標の登録が認められない理由について、特定人によるその独占使用を認めるのが公益上適当でないこと、自他商品識別力を欠いていることを挙げている。
本件は、この2つの観点から3条1項3号の該当性の判断を行っているが、審決と異なる結論となったのは、指定商品「コーヒー、コーヒー豆」における取引者・需要者がどの様な認識を有しているのかの評価の違いによるものであった。