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判例・実務情報

【東京地裁、商標】 商標権侵害差止請求事件 「ゆうメール」事件



Date.2012年2月3日

平成22()10785 商標権侵害差止請求事件 東京地方裁判所 

(平成24112日判決言渡)  

 

・差止請求一部認容

・原告:株式会社札幌メールサービス 対 被告:郵便事業株式会社

・商標権侵害 

 

(事件の概要) 

 この事件は,ダイレクトメールの企画及び発送代行業,広告代理業等並びにこれらに付帯する事業を行う株式会社札幌メールサービス(原告)が、郵便事業株式会社(被告)に対し、原告の商標権を侵害するとして、「ゆうメール」又は「配達地域指定ゆうメール」の各標章の使用差止とスタンプ等の廃棄を求めた事件である。

 

・郵便事業株式会社(被告)は、郵政民営化により設立され、日本郵政公社から引き継いだ、郵便法の規定により行う郵便の事業及びこれに付帯する業務等を行う株式会社である。

・被告の標章は、「ゆうメール」の標章(被告標章1)と「配達地域指定ゆうメール」の標章(被告標章2)であり、これらの標章を使用して役務を提供している(判決文の中で、被告標章1を使用する役務を「被告役務1」、被告標章2を使用する役務を「被告役務2」といっている)

 

・原告の商標権は、以下のものである。(以下、商標公報より一部を抜粋した)

(190)【発行国】日本国特許庁(JP)

(450)【発行日】平成16年7月27日(2004.7.27)

【公報種別】商標公報

(111)【登録番号】商標登録第4781631号(T4781631)

(151)【登録日】平成16年6月25日(2004.6.25)

(541)【登録商標(標準文字)】ゆうメール

(500)【商品及び役務の区分の数】1

(511)【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】

 第35類 各戸に対する広告物の配布,広告,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,広告用具の貸与

【国際分類第8版】

(210)【出願番号】商願2003-35266(T2003-35266)

(220)【出願日】平成15年4月30日(2003.4.30)

(732)【商標権者】

【識別番号】503160261

【氏名又は名称】株式会社札幌メール・サービス

・・・以下略・・・

 

(争点)

・被告が被告各標章を被告各役務に使用することは原告の本件商標権を侵害するか(争点1)

・本件商標は商標登録無効審判により無効にされるべきもので、原告の本件商標権の行使は許されないか(争点2)

・原告の本件商標権の行使が権利の濫用に当たり許されないか(争点3)

 

(裁判所の判断)

 争点1(商標権を侵害するか)について

 東京地裁は、以下のように、本件商標権の指定役務と被告役務との関係が類似関係にあると判断した。

「被告役務1の配達の対象が広告物であるときは,被告役務1は,利用者が指定した荷受人の住所又は居所に広告物を配達する,すなわち,広告物を配り届ける役務である。

 これに対して,本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは,広告物を広く行き渡るように家々に配ることを意味するから,配達の対象が広告物であるときの被告役務1とは,「広告物を配る」という点において共通し,両役務は類似する関係にあるといえる。さらに,被告役務1の利用者が,多数の家々に広告物を配る際に被告役務1を利用すると,被告役務1は,広告物を広く家々に配り届ける役務となる。このような場合において,本件指定役務と被告役務1とは,ほぼ同一の内容となる。

 以上検討したところによれば,被告役務1の配達の対象が広告物である場合には,被告役務1と本件指定役務の「各戸に対する広告物の配布」とは,少なくとも類似の関係にあるといえる。」(東京地裁は、被告役務2も同様の趣旨で類似すると判断した。)

 

 また、東京地裁は、本件商標と被告各商標が類似するか否かについて、被告標章1は同一の商標であり、被告標章2は、要部(「ゆうメール」の部分)の外観、称呼、観念が同一であるので類似の商標であると判断した。

 また、被告が被告各標章を用いて被告各役務を提供する行為が商標法2条3項の使用に該当するかについて、以下のように、該当すると判断し、原告商標権の侵害行為であると判断した。

「被告は,被告各役務の対象が広告物である場合,本件商標と同一又は類似の被告各標章を用いて,本件指定役務である「各戸に対する広告物の配布」と類似する被告各役務を提供している。

 そして,・・・被告は,被告各役務の提供において,利用者に対して,荷物の表面の見やすいところに被告各標章(ゆうメールないし配達地域指定ゆうメール)を明瞭に記載することを求めており,これは法2条3項6号(役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為)の使用に該当する。

 また,証拠(甲4の1ないし3,6の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,商品カタログ類などが送付の対象となる被告役務1(ゆうメール)について説明する記載を含むカタログを頒布し,また,広告物の送付に係る被告各役務の広告を内容とする情報に,被告各標章を付して電磁的方法により提供していることが認められ,これは,同項8号の使用に該当する。」

 

 争点2(無効理由により商標権の行使は許されないか)について

 東京地裁は、原告商標権に、商標法4条1項15号、4条1項7号、4条1項19号、4条1項16号の各無効理由はないと判断した。例えば、東京地裁は、商標法4条1項7号について、郵政省が昭和58年に「ゆうパック」を採用していたとしても、「ゆう」のみが共通するだけであり、原告出願当時に郵政公社が「ゆうメール」の標章を使用することについて、具体的な話がされていたことをうかがわせる事実等が認められないので、本件商標の商標出願に不正の目的があったことを認めることができないと判断した。

 

 争点3(商標権の行使が権利の濫用に当たるか)について 

 東京地裁は、郵政公社が商標登録出願の拒絶理由で原告商標権の存在を認識していたこと等を根拠に、権利濫用に当たらないと判断した。

「郵政公社は,自らの第35類の広告等を指定役務とする「ゆうメール」の商標登録出願が,本件商標の存在を理由に拒絶されたことを認識しており,その上で,郵政公社から事業を引き継いだ被告があえて被告標章1(ゆうメール)を使用して,本件指定役務と類似する役務を行っているのであり,このような事情の下では,その結果として,被告標章1が全国の需要者に広く認識されることになっているとしても,原告による本件商標権の行使が権利の濫用に当たるということはできないというべきである。」

 

判決文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120120170250.pdf