平成23年01月20日 最高裁判所第一小法廷 ロクラク事件(第一審:東京地裁 平成19(ワ)17279、第二審:知財高裁 平成20(ネ)10055、平成20(ネ)10069)
・破棄、差し戻し
・日本放送協会、日本テレビ放送網株式会社、株式会社テレビ朝日、株式会社テレビ東京、株式会社東京放送、株式会社静岡第一テレビ、静岡放送株式会社、株式会社テレビ静岡、株式会社静岡朝日テレビ 対 株式会社日本デジタル家電
・著作権法21条、98条、著作権、著作隣接権、複製権、クラブキャッツアイ事件(カラオケ法理)、複製主体、支配管理性、営業上の利益
最高裁は、本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく、本件番組等の複製主体は被上告人でないとした原審の判断には、明らかな法令の違反があるとして、これを破棄する判決をした。審理は、知財高裁に差し戻された。
(経緯)
被上告人の株式会社日本デジタル家電は、ロクラクⅡを製造、販売、貸与している。ロクラクⅡは、2台の機器の一方を親機とし、他方を子機として用いることができる。親機ロクラクは、地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し、受信した放送番組等をデジタルデータ化して録画する機能や録画に係るデータをインターネットを介して送信する機能を有し、子機ロクラクは、インターネットを介して、親機ロクラクにおける録画を指示し、その後親機ロクラクから録画に係るデータの送信を受け、これを再生する機能を有する。
ロクラクⅡの利用者は、親機ロクラクと子機ロクラクを、インターネットを介して1対1で対応させることにより、親機ロクラクに録画された放送番組等を、これとは別の場所に設置した子機ロクラクにおいて視聴することができる。
被上告人は、親機ロクラク及び子機ロクラクを併せて貸与するサービスや、子機ロクラクを販売し、親機ロクラクのみを貸与するサービスを開始した(本件サービス)。本件サービスの利用者は、子機ロクラクを操作して、親機ロクラクの設置されている地域で放送されている放送番組等の録画の指示をすることにより、当該放送番組等を視聴することができる。
放送事業者である上告人らは、「ロクラクⅡ」を用いた本件サービスを提供する被上告人に対し、各上告人が制作した著作物である放送番組等についての複製権(著作権法21条、98条)を侵害するなどと主張して、放送番組等の複製の差止め、損害賠償の支払等を求めて、東京地裁に訴えを提起した。
一審の東京地裁は、複製主体(著作権侵害者)について、
「カラオケ装置を設置したスナック等の経営者について、客の歌唱についての管理及びそれによる営業上の利益という観点から、演奏の主体について、演奏権侵害の不法行為責任があると認めた『クラブキャッツアイ事件最高裁判決(昭和63年3月15日)』等を踏まえ、提供されるサービスの性質に基づき、支配管理性、利益の帰属等の諸点を総合的に考慮して判断すべき」とし、被上告人は、本件サービスの提供に必要な親機ロクラク等を所有し管理していることなどから、番組及び放送に係る音または影像の複製行為を管理支配しており、それによる利益も得ているなどとして、複製権および著作隣接権としての複製権の侵害を認めた。
二審の知財高裁は、各親機ロクラクが被上告人の管理、支配する場所に設置されているものと仮定した上で、親機ロクラク等を設置・管理することは、利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境条件等を、主として技術的・経済的理由により利用者自身に代わって整備するものに過ぎないとして、支配管理性を否定した。
更に、営業上の利益についても、被上告人が得ている利益は、機器(親子ロクラク又は親機ロクラク)自体の賃貸借及び親機ロクラクの保守・管理等に見合うものであり、当該機器自体の賃料等の対価の趣旨を超え、本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するものとまでは認められないとした。
その結果、知財高裁は、被上告人による本件サービスの提供は、複製権および著作隣接権としての複製権を侵害するものではないとした。
(争点)
争点は、本件サービスにおける複製が、サービス利用者の私的使用を目的とする適法なものであり、被上告人は複製をしていないのか否かである。
(最高裁の判断)
最高裁は、「本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく、親機ロクラクが被上告人の管理、支配する場所に設置されていたとしても本件番組等の複製をしているのは被上告人とはいえない、とした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある」と判示した。
その理由については、下記の通り述べている。
「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には、その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち、複製の主体の判断に当たっては、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ、上記の場合、サービス提供者は、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという、複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており、複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ、当該サービスの利用者が録画の指示をしても、放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり、サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。」
また、金築誠志判事は、下記の通り補足意見を述べている。
・カラオケ法理について
「著作権法21条以下に規定された「複製」、「上演」、「展示」、「頒布」等の行為の主体を判断するに当たっては、もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れた解釈は避けるべきであるが、単に物理的、自然的に観察するだけで足りるものではなく、社会的、経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって、このことは、著作物の利用が社会的、経済的側面を持つ行為であることからすれば、法的判断として当然のことであると思う。
このように、「カラオケ法理」は、法概念の規範的解釈として、一般的な法解釈の手法の一つにすぎないのであり、これを何か特殊な法理論であるかのようにみなすのは適当ではないと思われる。したがって、考慮されるべき要素も、行為類型によって変わり得るのであり、行為に対する管理、支配と利益の帰属という二要素を固定的なものと考えるべきではない。この二要素は、社会的、経済的な観点から行為の主体を検討する際に、多くの場合、重要な要素であるというにとどまる。にもかかわらず、固定的な要件を持つ独自の法理であるかのように一人歩きしているとすれば、その点にこそ、「カラオケ法理」について反省すべきところがあるのではないかと思う。」
・本件について
「ロクラクⅡの機能からすると、これを利用して提供されるサービスは、わが国のテレビ放送を自宅等において直接受信できない海外居住者にとって利用価値が高いものであることは明らかであるが、そのような者にとって、受信可能地域に親機を設置し自己管理することは、手間や費用の点で必ずしも容易ではない場合が多いと考えられる。そうであるからこそ、この種の業態が成り立つのであって、親機の管理が持つ独自の社会的、経済的意義を軽視するのは相当ではない。本件システムを、単なる私的使用の集積とみることは、実態に沿わないものといわざるを得ない。」
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110120144645.pdf
平成23年01月20日 最高裁判所第一小法廷 ロクラク事件(第一審:東京地裁 平成19(ワ)17279、第二審:知財高裁 平成20(ネ)10055、平成20(ネ)10069)
・破棄、差し戻し
・日本放送協会、日本テレビ放送網株式会社、株式会社テレビ朝日、株式会社テレビ東京、株式会社東京放送、株式会社静岡第一テレビ、静岡放送株式会社、株式会社テレビ静岡、株式会社静岡朝日テレビ 対 株式会社日本デジタル家電
・著作権法21条、98条、著作権、著作隣接権、複製権、クラブキャッツアイ事件(カラオケ法理)、複製主体、支配管理性、営業上の利益
最高裁は、本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく、本件番組等の複製主体は被上告人でないとした原審の判断には、明らかな法令の違反があるとして、これを破棄する判決をした。審理は、知財高裁に差し戻された。
(経緯)
被上告人の株式会社日本デジタル家電は、ロクラクⅡを製造、販売、貸与している。ロクラクⅡは、2台の機器の一方を親機とし、他方を子機として用いることができる。親機ロクラクは、地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し、受信した放送番組等をデジタルデータ化して録画する機能や録画に係るデータをインターネットを介して送信する機能を有し、子機ロクラクは、インターネットを介して、親機ロクラクにおける録画を指示し、その後親機ロクラクから録画に係るデータの送信を受け、これを再生する機能を有する。
ロクラクⅡの利用者は、親機ロクラクと子機ロクラクを、インターネットを介して1対1で対応させることにより、親機ロクラクに録画された放送番組等を、これとは別の場所に設置した子機ロクラクにおいて視聴することができる。
被上告人は、親機ロクラク及び子機ロクラクを併せて貸与するサービスや、子機ロクラクを販売し、親機ロクラクのみを貸与するサービスを開始した(本件サービス)。本件サービスの利用者は、子機ロクラクを操作して、親機ロクラクの設置されている地域で放送されている放送番組等の録画の指示をすることにより、当該放送番組等を視聴することができる。
放送事業者である上告人らは、「ロクラクⅡ」を用いた本件サービスを提供する被上告人に対し、各上告人が制作した著作物である放送番組等についての複製権(著作権法21条、98条)を侵害するなどと主張して、放送番組等の複製の差止め、損害賠償の支払等を求めて、東京地裁に訴えを提起した。
一審の東京地裁は、複製主体(著作権侵害者)について、
「カラオケ装置を設置したスナック等の経営者について、客の歌唱についての管理及びそれによる営業上の利益という観点から、演奏の主体について、演奏権侵害の不法行為責任があると認めた『クラブキャッツアイ事件最高裁判決(昭和63年3月15日)』等を踏まえ、提供されるサービスの性質に基づき、支配管理性、利益の帰属等の諸点を総合的に考慮して判断すべき」とし、被上告人は、本件サービスの提供に必要な親機ロクラク等を所有し管理していることなどから、番組及び放送に係る音または影像の複製行為を管理支配しており、それによる利益も得ているなどとして、複製権および著作隣接権としての複製権の侵害を認めた。
二審の知財高裁は、各親機ロクラクが被上告人の管理、支配する場所に設置されているものと仮定した上で、親機ロクラク等を設置・管理することは、利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境条件等を、主として技術的・経済的理由により利用者自身に代わって整備するものに過ぎないとして、支配管理性を否定した。
更に、営業上の利益についても、被上告人が得ている利益は、機器(親子ロクラク又は親機ロクラク)自体の賃貸借及び親機ロクラクの保守・管理等に見合うものであり、当該機器自体の賃料等の対価の趣旨を超え、本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するものとまでは認められないとした。
その結果、知財高裁は、被上告人による本件サービスの提供は、複製権および著作隣接権としての複製権を侵害するものではないとした。
(争点)
争点は、本件サービスにおける複製が、サービス利用者の私的使用を目的とする適法なものであり、被上告人は複製をしていないのか否かである。
(最高裁の判断)
最高裁は、「本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく、親機ロクラクが被上告人の管理、支配する場所に設置されていたとしても本件番組等の複製をしているのは被上告人とはいえない、とした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある」と判示した。
その理由については、下記の通り述べている。
「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には、その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち、複製の主体の判断に当たっては、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ、上記の場合、サービス提供者は、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという、複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており、複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ、当該サービスの利用者が録画の指示をしても、放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり、サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。」
また、金築誠志判事は、下記の通り補足意見を述べている。
・カラオケ法理について
「著作権法21条以下に規定された「複製」、「上演」、「展示」、「頒布」等の行為の主体を判断するに当たっては、もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れた解釈は避けるべきであるが、単に物理的、自然的に観察するだけで足りるものではなく、社会的、経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって、このことは、著作物の利用が社会的、経済的側面を持つ行為であることからすれば、法的判断として当然のことであると思う。
このように、「カラオケ法理」は、法概念の規範的解釈として、一般的な法解釈の手法の一つにすぎないのであり、これを何か特殊な法理論であるかのようにみなすのは適当ではないと思われる。したがって、考慮されるべき要素も、行為類型によって変わり得るのであり、行為に対する管理、支配と利益の帰属という二要素を固定的なものと考えるべきではない。この二要素は、社会的、経済的な観点から行為の主体を検討する際に、多くの場合、重要な要素であるというにとどまる。にもかかわらず、固定的な要件を持つ独自の法理であるかのように一人歩きしているとすれば、その点にこそ、「カラオケ法理」について反省すべきところがあるのではないかと思う。」
・本件について
「ロクラクⅡの機能からすると、これを利用して提供されるサービスは、わが国のテレビ放送を自宅等において直接受信できない海外居住者にとって利用価値が高いものであることは明らかであるが、そのような者にとって、受信可能地域に親機を設置し自己管理することは、手間や費用の点で必ずしも容易ではない場合が多いと考えられる。そうであるからこそ、この種の業態が成り立つのであって、親機の管理が持つ独自の社会的、経済的意義を軽視するのは相当ではない。本件システムを、単なる私的使用の集積とみることは、実態に沿わないものといわざるを得ない。」
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110120144645.pdf