1.1 発明の新規性喪失の例外規定の見直し
① 発明者等により公表された場合であれば、その公表態様を問わず、発明が公知になった後でも特許権の取得が可能になります。
(改正前)
以下の行為により公開された発明に対し適用。
・試験の実施 ・刊行物への発表 ・電気通信回線を通じての発表 ・特許庁長官が指定する学会での文書発表、特定の博覧会への出品等
(改正後)
特許を受ける権利を有する者の行為に起因して、新規性を喪失した発明に対し適用。
具体的には、これまで適用対象ではなかった、集会・セミナー等(特許庁長官の指定のない学会等)で公開された発明、テレビ・ラジオ等で公開された発明、及び販売によって公開された発明等が、新たに適用対象になりました。
尚、特許を受ける権利を有する者に意に反して新規性を喪失した発明については、これまでと同様、新規性を喪失した日から6ヶ月以内に出願をすることにより救済されます。
② 留意点
(a) 第三者が先に出願、公開した場合
本規定は、特許出願より前に公開された発明は特許を受けることができないという原則に対する例外であることに留意する必要があります。従って、例えば、本規定の適用を受けたとしても、独自に発明をした第三者が先に特許出願していたり、先に公開していた場合には、特許を受けることができません。
(b) 外国出願
外国出願に対しては、本規定が適用されません。外国出願については、各国で定める規定に従うことになります。
新規性喪失の例外規定を受けるための手続や、各国における新規性喪失の例外規定の状況など、さらに詳しくお知りになりたい方は、こちらまでお問合せ下さい。
1.2 出願人・特許権者の救済手続の見直し
① 特許料等追納の期間徒過の場合における追納期間の延長
原特許権者の責めに帰することができない理由がなくなった日から14日以内で、その期間の経過後6ヶ月以内
特許料および割増特許料を納付できなかった正当な理由がなくなった日から2ヶ月以内で、その期間の経過後1年以内
改正法では、追納を認める要件を、「原特許権者の責めに帰することができない理由」から「納付できなかった正当な理由」に変更されています。これは、追納を認める理由を、従来よりも緩和することを意味しています。
従って、今回の改正により、これまで追納が認められなかった理由でも、救済される可能性ができてきました。
どのような場合に救済されることになるのかについて、さらに詳しく知りたい方は、こちらまでお問合せ下さい。
② 国際特許出願の翻訳文提出期間の緩和
ナシ
翻訳文を提出しなかったことにより、見なし取下とされた国際特許出願について、提出できなかった正当な理由がなくなった日から2ヶ月以内で、その期間の経過後1年以内に限り、明細書等の翻訳文を提出することができるようになります。
1.3 商標権消滅後1年間の登録排除規定の廃止
商標権が消滅した後、1年間は、他人による当該商標の登録をすることはできませんでした。
商標権が消滅した後、1年以内でも、その商標を他人が登録できることになりました。
2.1 特許出願の審査請求料の減額(2011年8月1日から施行)
新料金
現行料金
通常出願
\118,000+請求項数×\4,000
\168,600+請求項数×\4,000
特許庁が国際調査報告を作成した国際特許出願
\71,000+請求項数×\2,400
\101,200+請求項数×\2,400
特許庁以外が国際調査報告を作成した国際特許出願
\106,000+請求項数×\3,600
\151,700+請求項数×\3,600
特定登録調査機関が交付した調査報告書を提示した特許出願
\94,000+請求項数×\3,200
\134,900+請求項数×\3,200
2.2 特許料等の減免制度の拡充
・中小企業や大学等に対する特許料の減免期間を3年から10年へ延長。
・対象となる中小企業の範囲を拡大
対象者
減免期間
改正前
改正後
資力に乏しい個人・法人→対象拡大
1-3年目
1-10年目
研究開発型中小企業
大学・独法等
2.3 意匠の11-20年目における登録料の引き下げ
意匠登録料
毎年 \8,500
4-10年目
毎年\16,900
11-20年目
毎年\33,800
2.4 国際出願手数料の引下げ
特許庁が国際調査をする場合の国際調査手数料+送付手数料
¥110,000
¥80,000
送付手数料*
¥13,000
¥10,000
調査の追加手数料(1発明毎)
¥78,000
¥60,000
予備審査手数料
¥36,000
¥26,000
予備審査の追加手数料
¥21,000
¥15,000
*特許庁以外の国際調査機関が国際調査を実施する場合
3.1 当然対抗制度の導入
通常実施権を受けた者は、特許庁にその登録をしていない場合、破産や事業譲渡等により特許権が第三者に移転し、その第三者から差止請求や損害賠償請求などを受けると、事業継続ができなくなるという問題がありました。
また、特許権者は通常実施権の登録に協力する義務もありませんので、通常実施権者の地位は不安定なものでした。
特許庁に登録していなくても、通常実施権を有していることを証明すれば、第三者に対抗することができる当然対抗制度が導入されました。
これにより、特許権が第三者に移転した場合にも、差止請求等を受ける心配がなくなり、安定して事業を継続できるようになりました。
尚、当然対抗制度の導入により、通常実施権の移転等についても、その登録がされていなくても、第三者に対抗できるようになりました。
例えば、下記の様に、通常実施権者1から通常実施権が移転された通常実施権者2は、特許権が第三者に移転しても、差止請求等を受ける心配がなくなり、安定して事業を継続できるようになりました。
3.2 留意点
当然対抗制度の導入により、実務面においては、以下の点に留意する必要があります。
① 通常実施権者による許諾日の仮装を防止しておく。
② 通常実施権者によるサブライセンスが適切に保護されるようにするために、必要な書面を揃えておく。
③ 仮通常実施権についても、当然対抗制度を導入
④ 特定通常実施権登録制度の廃止
⑤ 改正前に許諾された通常実施権についても適用
⑥ 無効審判が請求された場合、特許庁から通常実施権者にその通知がされません。従って、通常実施権者は、無効審判が請求されたときはそのことが分かる様に、その対策を立てておく必要があります。
⑦ 実用新案法においても同様の改正がなされています。
通常実施権者による許諾日の仮装を防止するための方法や、サブライセンスの適切な保護のための方策、通常実施権者が無効審判の請求があったことを知るための方法などについて、さらに詳しくお知りになりたい方は、こちらまでお問合せ下さい。
4.1 特許権の移転請求制度の導入
自ら出願をしていなくても、真の発明者は、冒認出願者または共同出願違反者に対し、特許権の移転請求が可能になります。
正当な権原を持たない者が特許権を取得したり、共同発明者が他の共同発明者に無断で特許権を取得した場合には、そのような特許を無効にしたり損害賠償を請求できても、自ら権利を取得することができない場合がありました。
特許権の移転請求制度は、真の権利者が冒認出願者や共同出願違反者に対し、特許権の移転請求を可能にするものです。
4.2 特許権の移転請求権制度における留意点
① 移転後の特許権は、初めから、真の発明者に帰属していたものとして扱われる。
② 冒認を理由とする無効審判の審判請求人は、真の発明者に限定。
③ 冒認者等により権利行使を受けた場合、冒認を理由とする無効の抗弁は、真の発明者に限定されず、主張できる。
④ 冒認者から冒認に係る特許権を譲り受けた者、実施許諾を受けた者、質権の設定を受けた者は、それらの権利を失う。
また、上記の他に、特許権の移転請求制度に於いては、冒認者が、自らした発明も付加して特許権を取得していた場合に、その特許発明についても移転が認められるのかという問題があります。移転を認めた場合、真の権利者に対して、自らがした発明以上のものを取り戻すことを認めることになるからです。
特許権の移転請求のための具体的な手続など、さらに詳しくお知りになりたい方は、こちらまでお問合せ下さい。
4.3 特許権の移転の登録前の実施による通常実施権の新設
特許権の移転請求権制度の導入に伴い、特許権の移転登録前の実施による通常実施権が新たに新設されました。
これは、特許権の移転の登録の際現にその特許権、その特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有していた者に対して、
①その特許権の移転の登録前に 、共同出願違反または冒認出願であることを知らないで、
②日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしていたときは、
③その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、
その特許権についての通常実施権を認めるとするものです。
尚、移転登録後の特許権者は、上記通常実施権者に対し、相当の対価を受ける権利を有すると規定されています。
5.1 審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求禁止
無効審判の審決取消訴訟の訴え提起後の訂正審判が禁止されます。その一方で、無効審判における審決の予告後に訂正請求が可能となりました。
尚、審決の予告は、審判長が、当該事件が審決をするのに熟しており、かつ、審判の請求に理由があると認めるときその他経産省令に定めるときにしなければならないとされています(164条の2第1項)。
「審判の請求に理由があると認めるとき」とありますので、審判請求された全ての請求項について無効理由がないと認められたときは、審決が予告されないと考えられます。
また、経産省令に定めるときについては、下記の通り特許法施行規則において定められています。
被請求人が審決の予告を希望しない旨を申し出なかったときであって、下記の場合に該当するとき(特許法施行規則50条の6の2)。
1.審判の請求があつて審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合にあつては、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき又は特許法第134条の2第1項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項に係るものに限る。)を認めないとき。
2.特許法第181条第2項の規定により審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合にあつては、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき又は特許法第134条の2第1項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項に係るものに限る。)を認めないとき。
3.前二号に掲げるいずれかのときに審決の予告をした後であつて事件が審決をするのに熟した場合にあつては、当該審決の予告をしたときまでに当事者若しくは参加人が申し立てた理由又は特許法第153条第2項の規定により審理の結果が通知された理由(当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないものに限る。)によつて、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき。
また、審決の予告に於いては、訂正請求のための期間が指定されるとされています(同条第2項)。
さらに、審決の予告後、被請求人が訂正の請求を行い、それに対し、請求人が審判請求書における請求の理由を補正した場合、被請求人に防御の機会を与える必要があるときは、答弁書を提出する機会が付与されるとともに(特許法第134条第2項)訂正の機会が与えられる(特許法第134条の2第1項)ことになるので、被請求人が不利に取り扱われることはないとされています(省令案の意見募集に対する特許庁の回答)。
5.2 訂正審判・訂正請求
現行制度では、無効審判における訂正請求と訂正審判で、判断や確定の単位が請求項ごとに行われるのか、一体不可分なのか、一貫性がありませんでした。
今回の改正では、下記表の通り、判断の単位および確定の単位を全て請求項ごとに行うことに改められました。
5.3 侵害訴訟の判決確定後の特許無効等による再審の取扱い
① 再審における主張の制限
侵害訴訟で差止めや損害賠償請求された後に、特許が無効にされたり、訂正により侵害するものでなくなった場合、侵害訴訟の確定判決を再審により取り消すことができました(特許法171条1項)。
再審請求において、無効審決等が確定したことの主張が制限されます。
② 主張の制限の対象となる審決(特許法施行令13条の4各号)
1.特許法第百四条の四の訴訟の確定した終局判決が特許権者、専用実施権者又は補償金の支払の請求をした者の勝訴の判決である場合においては、当該訂正が当該訴訟において立証された事実以外の事実を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするためのものである審決
2.特許法第百四条の四の訴訟の確定した終局判決が特許権者、専用実施権者又は補償金の支払の請求をした者の敗訴の判決である場合においては、当該訂正が当該訴訟において立証された事実を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするためのものである審決
③ 留意点
・侵害訴訟での認容判決の確定により、すでに特許権者が損害賠償金を受け取っていても、これを返還する必要はありません。
但し、差止めは解除されます。
・侵害訴訟での認容判決が確定しているが、特許権者が損害賠償金をまだ受け取っていない場合は、特許無効等が確定しても、再審を請求することはできず、損害賠償をしなければなりません。
・侵害訴訟での棄却判決の確定後、訂正により無効理由が解消された場合に、被告製品が当該特許権を侵害することになっても、あらためて損害賠償等が命じられることはありません。
・侵害訴訟による差止等の確定判決後に、延長登録無効審決が確定した場合も、再審請求は制限されます。
・補償金請求訴訟においても、上記と同様、再審における主張が制限されます。
・実用新案法でも同様の改正がなされています。
5.4 第三者に対する一事不再理の廃止
何人も同一の事実・同一の証拠に基づく無効審判の請求が禁止されていました(特許法167条)。
第三者に対する一事不再理は廃止されました。
また、延長登録無効審判について、同一人に対する一事不再理が適用されるようになりました。
但し、同一人による、同一の事実・同一の証拠に基づく無効審判の請求は、これまでと同様、禁止されています。
平成23年改正特許法等の施行に関連する政令が閣議決定され、公布は平成23年12月2日(金)、施行は平成24年4月1日(日)となりました。
1. 手続の見直し
1.1 発明の新規性喪失の例外規定の見直し
① 発明者等により公表された場合であれば、その公表態様を問わず、発明が公知になった後でも特許権の取得が可能になります。
(改正前)
以下の行為により公開された発明に対し適用。
・試験の実施 ・刊行物への発表 ・電気通信回線を通じての発表 ・特許庁長官が指定する学会での文書発表、特定の博覧会への出品等
(改正後)
特許を受ける権利を有する者の行為に起因して、新規性を喪失した発明に対し適用。
具体的には、これまで適用対象ではなかった、集会・セミナー等(特許庁長官の指定のない学会等)で公開された発明、テレビ・ラジオ等で公開された発明、及び販売によって公開された発明等が、新たに適用対象になりました。
尚、特許を受ける権利を有する者に意に反して新規性を喪失した発明については、これまでと同様、新規性を喪失した日から6ヶ月以内に出願をすることにより救済されます。
② 留意点
(a) 第三者が先に出願、公開した場合
本規定は、特許出願より前に公開された発明は特許を受けることができないという原則に対する例外であることに留意する必要があります。従って、例えば、本規定の適用を受けたとしても、独自に発明をした第三者が先に特許出願していたり、先に公開していた場合には、特許を受けることができません。
(b) 外国出願
外国出願に対しては、本規定が適用されません。外国出願については、各国で定める規定に従うことになります。
新規性喪失の例外規定を受けるための手続や、各国における新規性喪失の例外規定の状況など、さらに詳しくお知りになりたい方は、こちらまでお問合せ下さい。
1.2 出願人・特許権者の救済手続の見直し
① 特許料等追納の期間徒過の場合における追納期間の延長
(改正前)
原特許権者の責めに帰することができない理由がなくなった日から14日以内で、その期間の経過後6ヶ月以内
(改正後)
特許料および割増特許料を納付できなかった正当な理由がなくなった日から2ヶ月以内で、その期間の経過後1年以内
改正法では、追納を認める要件を、「原特許権者の責めに帰することができない理由」から「納付できなかった正当な理由」に変更されています。これは、追納を認める理由を、従来よりも緩和することを意味しています。
従って、今回の改正により、これまで追納が認められなかった理由でも、救済される可能性ができてきました。
どのような場合に救済されることになるのかについて、さらに詳しく知りたい方は、こちらまでお問合せ下さい。
② 国際特許出願の翻訳文提出期間の緩和
(改正前)
ナシ
(改正後)
翻訳文を提出しなかったことにより、見なし取下とされた国際特許出願について、提出できなかった正当な理由がなくなった日から2ヶ月以内で、その期間の経過後1年以内に限り、明細書等の翻訳文を提出することができるようになります。
1.3 商標権消滅後1年間の登録排除規定の廃止
(改正前)
商標権が消滅した後、1年間は、他人による当該商標の登録をすることはできませんでした。
(改正後)
商標権が消滅した後、1年以内でも、その商標を他人が登録できることになりました。
2. 料金の見直し
2.1 特許出願の審査請求料の減額(2011年8月1日から施行)
新料金
現行料金
通常出願
\118,000+請求項数×\4,000
\168,600+請求項数×\4,000
特許庁が国際調査報告を作成した国際特許出願
\71,000+請求項数×\2,400
\101,200+請求項数×\2,400
特許庁以外が国際調査報告を作成した国際特許出願
\106,000+請求項数×\3,600
\151,700+請求項数×\3,600
特定登録調査機関が交付した調査報告書を提示した特許出願
\94,000+請求項数×\3,200
\134,900+請求項数×\3,200
2.2 特許料等の減免制度の拡充
・中小企業や大学等に対する特許料の減免期間を3年から10年へ延長。
・対象となる中小企業の範囲を拡大
対象者
減免期間
改正前
改正後
資力に乏しい個人・法人→対象拡大
1-3年目
1-10年目
研究開発型中小企業
大学・独法等
2.3 意匠の11-20年目における登録料の引き下げ
意匠登録料
改正前
改正後
1-3年目
毎年 \8,500
毎年 \8,500
4-10年目
毎年\16,900
毎年\16,900
11-20年目
毎年\33,800
2.4 国際出願手数料の引下げ
改正前
改正後
特許庁が国際調査をする場合の国際調査手数料+送付手数料
¥110,000
¥80,000
送付手数料*
¥13,000
¥10,000
調査の追加手数料(1発明毎)
¥78,000
¥60,000
予備審査手数料
¥36,000
¥26,000
予備審査の追加手数料
¥21,000
¥15,000
*特許庁以外の国際調査機関が国際調査を実施する場合
3. 通常実施権の登録制度の見直し
3.1 当然対抗制度の導入
(改正前)
通常実施権を受けた者は、特許庁にその登録をしていない場合、破産や事業譲渡等により特許権が第三者に移転し、その第三者から差止請求や損害賠償請求などを受けると、事業継続ができなくなるという問題がありました。
また、特許権者は通常実施権の登録に協力する義務もありませんので、通常実施権者の地位は不安定なものでした。
(改正後)
特許庁に登録していなくても、通常実施権を有していることを証明すれば、第三者に対抗することができる当然対抗制度が導入されました。
これにより、特許権が第三者に移転した場合にも、差止請求等を受ける心配がなくなり、安定して事業を継続できるようになりました。
尚、当然対抗制度の導入により、通常実施権の移転等についても、その登録がされていなくても、第三者に対抗できるようになりました。
例えば、下記の様に、通常実施権者1から通常実施権が移転された通常実施権者2は、特許権が第三者に移転しても、差止請求等を受ける心配がなくなり、安定して事業を継続できるようになりました。
3.2 留意点
当然対抗制度の導入により、実務面においては、以下の点に留意する必要があります。
① 通常実施権者による許諾日の仮装を防止しておく。
② 通常実施権者によるサブライセンスが適切に保護されるようにするために、必要な書面を揃えておく。
③ 仮通常実施権についても、当然対抗制度を導入
④ 特定通常実施権登録制度の廃止
⑤ 改正前に許諾された通常実施権についても適用
⑥ 無効審判が請求された場合、特許庁から通常実施権者にその通知がされません。従って、通常実施権者は、無効審判が請求されたときはそのことが分かる様に、その対策を立てておく必要があります。
⑦ 実用新案法においても同様の改正がなされています。
通常実施権者による許諾日の仮装を防止するための方法や、サブライセンスの適切な保護のための方策、通常実施権者が無効審判の請求があったことを知るための方法などについて、さらに詳しくお知りになりたい方は、こちらまでお問合せ下さい。
4. 冒認、共同出願違反に対する救済
4.1 特許権の移転請求制度の導入
自ら出願をしていなくても、真の発明者は、冒認出願者または共同出願違反者に対し、特許権の移転請求が可能になります。
正当な権原を持たない者が特許権を取得したり、共同発明者が他の共同発明者に無断で特許権を取得した場合には、そのような特許を無効にしたり損害賠償を請求できても、自ら権利を取得することができない場合がありました。
特許権の移転請求制度は、真の権利者が冒認出願者や共同出願違反者に対し、特許権の移転請求を可能にするものです。
4.2 特許権の移転請求権制度における留意点
① 移転後の特許権は、初めから、真の発明者に帰属していたものとして扱われる。
② 冒認を理由とする無効審判の審判請求人は、真の発明者に限定。
③ 冒認者等により権利行使を受けた場合、冒認を理由とする無効の抗弁は、真の発明者に限定されず、主張できる。
④ 冒認者から冒認に係る特許権を譲り受けた者、実施許諾を受けた者、質権の設定を受けた者は、それらの権利を失う。
また、上記の他に、特許権の移転請求制度に於いては、冒認者が、自らした発明も付加して特許権を取得していた場合に、その特許発明についても移転が認められるのかという問題があります。移転を認めた場合、真の権利者に対して、自らがした発明以上のものを取り戻すことを認めることになるからです。
特許権の移転請求のための具体的な手続など、さらに詳しくお知りになりたい方は、こちらまでお問合せ下さい。
4.3 特許権の移転の登録前の実施による通常実施権の新設
特許権の移転請求権制度の導入に伴い、特許権の移転登録前の実施による通常実施権が新たに新設されました。
これは、特許権の移転の登録の際現にその特許権、その特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有していた者に対して、
①その特許権の移転の登録前に 、共同出願違反または冒認出願であることを知らないで、
②日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしていたときは、
③その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、
その特許権についての通常実施権を認めるとするものです。
尚、移転登録後の特許権者は、上記通常実施権者に対し、相当の対価を受ける権利を有すると規定されています。
5. 審判制度の見直し
5.1 審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求禁止
無効審判の審決取消訴訟の訴え提起後の訂正審判が禁止されます。その一方で、無効審判における審決の予告後に訂正請求が可能となりました。
(改正前)
(改正後)
尚、審決の予告は、審判長が、当該事件が審決をするのに熟しており、かつ、審判の請求に理由があると認めるときその他経産省令に定めるときにしなければならないとされています(164条の2第1項)。
「審判の請求に理由があると認めるとき」とありますので、審判請求された全ての請求項について無効理由がないと認められたときは、審決が予告されないと考えられます。
また、経産省令に定めるときについては、下記の通り特許法施行規則において定められています。
被請求人が審決の予告を希望しない旨を申し出なかったときであって、下記の場合に該当するとき(特許法施行規則50条の6の2)。
1.審判の請求があつて審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合にあつては、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき又は特許法第134条の2第1項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項に係るものに限る。)を認めないとき。
2.特許法第181条第2項の規定により審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合にあつては、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき又は特許法第134条の2第1項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項に係るものに限る。)を認めないとき。
3.前二号に掲げるいずれかのときに審決の予告をした後であつて事件が審決をするのに熟した場合にあつては、当該審決の予告をしたときまでに当事者若しくは参加人が申し立てた理由又は特許法第153条第2項の規定により審理の結果が通知された理由(当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないものに限る。)によつて、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき。
また、審決の予告に於いては、訂正請求のための期間が指定されるとされています(同条第2項)。
さらに、審決の予告後、被請求人が訂正の請求を行い、それに対し、請求人が審判請求書における請求の理由を補正した場合、被請求人に防御の機会を与える必要があるときは、答弁書を提出する機会が付与されるとともに(特許法第134条第2項)訂正の機会が与えられる(特許法第134条の2第1項)ことになるので、被請求人が不利に取り扱われることはないとされています(省令案の意見募集に対する特許庁の回答)。
5.2 訂正審判・訂正請求
現行制度では、無効審判における訂正請求と訂正審判で、判断や確定の単位が請求項ごとに行われるのか、一体不可分なのか、一貫性がありませんでした。
今回の改正では、下記表の通り、判断の単位および確定の単位を全て請求項ごとに行うことに改められました。
(改正前)
(改正後)
5.3 侵害訴訟の判決確定後の特許無効等による再審の取扱い
① 再審における主張の制限
(改正前)
侵害訴訟で差止めや損害賠償請求された後に、特許が無効にされたり、訂正により侵害するものでなくなった場合、侵害訴訟の確定判決を再審により取り消すことができました(特許法171条1項)。
(改正後)
再審請求において、無効審決等が確定したことの主張が制限されます。
② 主張の制限の対象となる審決(特許法施行令13条の4各号)
1.特許法第百四条の四の訴訟の確定した終局判決が特許権者、専用実施権者又は補償金の支払の請求をした者の勝訴の判決である場合においては、当該訂正が当該訴訟において立証された事実以外の事実を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするためのものである審決
2.特許法第百四条の四の訴訟の確定した終局判決が特許権者、専用実施権者又は補償金の支払の請求をした者の敗訴の判決である場合においては、当該訂正が当該訴訟において立証された事実を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするためのものである審決
③ 留意点
・侵害訴訟での認容判決の確定により、すでに特許権者が損害賠償金を受け取っていても、これを返還する必要はありません。
但し、差止めは解除されます。
・侵害訴訟での認容判決が確定しているが、特許権者が損害賠償金をまだ受け取っていない場合は、特許無効等が確定しても、再審を請求することはできず、損害賠償をしなければなりません。
・侵害訴訟での棄却判決の確定後、訂正により無効理由が解消された場合に、被告製品が当該特許権を侵害することになっても、あらためて損害賠償等が命じられることはありません。
・侵害訴訟による差止等の確定判決後に、延長登録無効審決が確定した場合も、再審請求は制限されます。
・補償金請求訴訟においても、上記と同様、再審における主張が制限されます。
・実用新案法でも同様の改正がなされています。
5.4 第三者に対する一事不再理の廃止
(改正前)
何人も同一の事実・同一の証拠に基づく無効審判の請求が禁止されていました(特許法167条)。
(改正後)
第三者に対する一事不再理は廃止されました。
また、延長登録無効審判について、同一人に対する一事不再理が適用されるようになりました。
但し、同一人による、同一の事実・同一の証拠に基づく無効審判の請求は、これまでと同様、禁止されています。
6. 施行期日
平成23年改正特許法等の施行に関連する政令が閣議決定され、公布は平成23年12月2日(金)、施行は平成24年4月1日(日)となりました。