知財高裁平成24年10月17日判決 平成24(行ケ)10134号 省エネ行動シート事件
・請求棄却
・日本テクノ株式会社 対 特許庁長官
・特許法29条1項柱書、産業上利用性、発明該当性、自然法則の利用
(経緯)
本件は、「省エネ行動シート」の発明に関する特許出願について、特許庁が産業上利用することができる発明に該当せず、また進歩性が欠如しているとして拒絶審決をしたため、原告がその取消しを求めて知財高裁に訴えを提起した事件である。
(本願発明)
本願発明は以下の通りである。
建物内の複数の場所名と、軸方向の長さでその各場所にて節約可能な単位時間当たりの電力量とを表した第一場所軸と、
時刻を目盛に入れた時間を表す第一時間軸と、
取るべき省エネ行動を第一場所軸と第一時間軸によって特定される一定領域に示すための第一省エネ行動配置領域と、
からなり、
第一省エネ行動配置領域に省エネ行動により節約可能な単位時間当たりの電力量を第一場所軸方向の長さ、省エネ行動の継続時間を第一時間軸の軸方向の長さとする第一省エネ行動識別領域をさらに有し、
該当する第一省エネ行動識別領域に示される省エネ行動と、その省エネ行動によって節約できる概略電力量(省エネ行動により節約可能な単位時間当たりの電力量と省エネ行動の継続時間との積算値である面積によって把握可能な電力量)を示す省エネ行動シート。
本願発明は、①場所名と、単位時間当たりの電力量とを表した第一場所軸と、②時間を表す第一時間軸と、③取るべき省エネ行動を第一場所軸と第一時間軸によって特定される一定領域に示すための第一省エネ行動配置領域と、からなり、④第一省エネ行動配置領域に第一省エネ行動識別領域を設け、⑤該当する第一省エネ行動識別領域に示される省エネ行動を取ることで節約できる概略電力量を示すものである。
これにより、省エネ行動を取るべき時間と場所を一見して把握することが可能になり、かつ、各省エネ行動を取ることにより節約できる概略電力量を把握することが可能になる。
(争点)
本件の争点は以下の通りである。
・発明該当性に係る判断の誤り(取消事由1)
・容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)
(裁判所の判断)
裁判所は取消事由1(発明該当性に係る判断の誤り)についてのみ判断をした。
先ず、自然法則の利用に関し、裁判所は以下の通り判示した。
「特許法2条1項は、発明について、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定するところ、人は、自由に行動し、自己決定することができる存在である以上、人の特定の精神活動、意思決定、行動態様等に有益かつ有用な効果が認められる場合があったとしても、人の特定の精神活動、意思決定や行動態様等自体は、直ちには自然法則の利用とはいえない。
したがって、ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が、いかに、具体的であり有益かつ有用なものであったとしても、その課題解決に当たって、専ら、人間の精神的活動を介在させた原理や法則、社会科学上の原理や法則、人為的な取り決めや、数学上の公式等を利用したものであり、自然法則を利用した部分が全く含まれない場合には、そのような技術的思想の創作は、同項所定の「発明」には該当しない。」
その上で、本願発明については、「本願発明の「省エネ行動シート」は、人間に提示するものであり、何らかの装置に読み取らせることなどを予定しているものではない。そして、人間に提示するための手段として、紙などの媒体に記録したり、ディスプレイ画面に表示したりする態様などについて、何らかの技術的な特定をするものではないから、一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴が存するとはいえない。」とした。
また、本願発明の作用効果は、「一方の軸と、他方の軸の両方向への広がり(面積)を有する「領域」を見た人間が、その領域の面積の大小に応じた大きさを認識し、把握することができること、さらに「軸」や「領域」に名称や意味が付与されていれば、その「領域」の意味を理解することができる、という心理学的な法則(認知のメカニズム)を利用するものである。このような心理学的な法則により、領域の大きさを認識・把握し、その大きさの意味を理解することは、専ら人間の精神活動に基づくものであって、自然法則を利用したものとはいえない。」とした。
その結果、本願発明の「省エネ行動シート」は、専ら、人間の精神活動そのものを対象とする創作であり、自然法則を利用した技術的思想の創作とはいえず、また、本願発明の奏する作用効果も、自然法則を利用した効果とはいえないから、本願発明に係る「省エネ行動シート」は、特許法2条1項にいう「発明」に該当しないとした。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121221092431.pdf
知財高裁平成24年10月17日判決 平成24(行ケ)10134号 省エネ行動シート事件
・請求棄却
・日本テクノ株式会社 対 特許庁長官
・特許法29条1項柱書、産業上利用性、発明該当性、自然法則の利用
(経緯)
本件は、「省エネ行動シート」の発明に関する特許出願について、特許庁が産業上利用することができる発明に該当せず、また進歩性が欠如しているとして拒絶審決をしたため、原告がその取消しを求めて知財高裁に訴えを提起した事件である。
(本願発明)
本願発明は以下の通りである。
建物内の複数の場所名と、軸方向の長さでその各場所にて節約可能な単位時間当たりの電力量とを表した第一場所軸と、
時刻を目盛に入れた時間を表す第一時間軸と、
取るべき省エネ行動を第一場所軸と第一時間軸によって特定される一定領域に示すための第一省エネ行動配置領域と、
からなり、
第一省エネ行動配置領域に省エネ行動により節約可能な単位時間当たりの電力量を第一場所軸方向の長さ、省エネ行動の継続時間を第一時間軸の軸方向の長さとする第一省エネ行動識別領域をさらに有し、
該当する第一省エネ行動識別領域に示される省エネ行動と、その省エネ行動によって節約できる概略電力量(省エネ行動により節約可能な単位時間当たりの電力量と省エネ行動の継続時間との積算値である面積によって把握可能な電力量)を示す省エネ行動シート。
本願発明は、①場所名と、単位時間当たりの電力量とを表した第一場所軸と、②時間を表す第一時間軸と、③取るべき省エネ行動を第一場所軸と第一時間軸によって特定される一定領域に示すための第一省エネ行動配置領域と、からなり、④第一省エネ行動配置領域に第一省エネ行動識別領域を設け、⑤該当する第一省エネ行動識別領域に示される省エネ行動を取ることで節約できる概略電力量を示すものである。
これにより、省エネ行動を取るべき時間と場所を一見して把握することが可能になり、かつ、各省エネ行動を取ることにより節約できる概略電力量を把握することが可能になる。
(争点)
本件の争点は以下の通りである。
・発明該当性に係る判断の誤り(取消事由1)
・容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)
(裁判所の判断)
裁判所は取消事由1(発明該当性に係る判断の誤り)についてのみ判断をした。
先ず、自然法則の利用に関し、裁判所は以下の通り判示した。
「特許法2条1項は、発明について、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定するところ、人は、自由に行動し、自己決定することができる存在である以上、人の特定の精神活動、意思決定、行動態様等に有益かつ有用な効果が認められる場合があったとしても、人の特定の精神活動、意思決定や行動態様等自体は、直ちには自然法則の利用とはいえない。
したがって、ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が、いかに、具体的であり有益かつ有用なものであったとしても、その課題解決に当たって、専ら、人間の精神的活動を介在させた原理や法則、社会科学上の原理や法則、人為的な取り決めや、数学上の公式等を利用したものであり、自然法則を利用した部分が全く含まれない場合には、そのような技術的思想の創作は、同項所定の「発明」には該当しない。」
その上で、本願発明については、「本願発明の「省エネ行動シート」は、人間に提示するものであり、何らかの装置に読み取らせることなどを予定しているものではない。そして、人間に提示するための手段として、紙などの媒体に記録したり、ディスプレイ画面に表示したりする態様などについて、何らかの技術的な特定をするものではないから、一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴が存するとはいえない。」とした。
また、本願発明の作用効果は、「一方の軸と、他方の軸の両方向への広がり(面積)を有する「領域」を見た人間が、その領域の面積の大小に応じた大きさを認識し、把握することができること、さらに「軸」や「領域」に名称や意味が付与されていれば、その「領域」の意味を理解することができる、という心理学的な法則(認知のメカニズム)を利用するものである。このような心理学的な法則により、領域の大きさを認識・把握し、その大きさの意味を理解することは、専ら人間の精神活動に基づくものであって、自然法則を利用したものとはいえない。」とした。
その結果、本願発明の「省エネ行動シート」は、専ら、人間の精神活動そのものを対象とする創作であり、自然法則を利用した技術的思想の創作とはいえず、また、本願発明の奏する作用効果も、自然法則を利用した効果とはいえないから、本願発明に係る「省エネ行動シート」は、特許法2条1項にいう「発明」に該当しないとした。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121221092431.pdf