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【知財高裁、特許】 均等侵害が認められた裁判例(中間判決) 平成21年(ネ)10006(中空ゴルフクラブヘッド事件)



Date.2012年2月5日

知財高裁平成21629日中間判決 平成21()10006 中空ゴルフクラブヘッド事件

 

・請求認容

・横浜ゴム株式会社 対 ヨネックス株式会社

・特許法65条 補償金請求権、文言侵害、充足性、均等侵害(均等論)、本質的部分、置換可能性、意識的除外

 

(経緯)

 控訴人(一審原告。以下、「原告」という。)の横浜ゴム株式会社は中空ゴルフクラブヘッドに関する特許権(特許第3725481号)を有する特許権者である。

 被控訴人(一審被告。以下、「被告」という。)は被告製品を製造販売していたところ、原告は被告の行為が原告の有する上記特許権を侵害しているとして、出願公開後の警告から設定登録までの間の補償金及びその後の損害賠償金を求めて、東京地裁に訴えを提起した。

 東京地裁は、被告製品は本件発明の構成要件を文言上充足せず、本件発明の構成と均等なものと解することもできず、被告製品は本件発明の技術的範囲に属さないとして、原告の請求を棄却した。

 本件は原判決に不服の原告が知財高裁に控訴したものである。

 

(本件発明)

 本件発明は、中空構造を有するゴルフクラブヘッドであって、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めるようにした中空ゴルフクラブヘッドに関する。請求項1は下記の通りである。

 

【請求項1】

(a) 金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって、

(b) 前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、

(c) 前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、

(d) 該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した

(e) ことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。

 

 本件発明に於いては、金属製の外殻部材(11)と繊維強化プラスチック製の外殻部材(21)との接合強度を高めるために、金属製の外殻部材(11)の接合部(11a)に繊維強化プラスチック製の外殻部材(21)の接合部(21a)を接着すると共に、金属製の外殻部材(11)の接合部(11a)に貫通穴を設け、その貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材(22)を通し、縫合材(22)により繊維強化プラスチック製の外殻部材(21)と金属製の外殻部材(11)とを結合している。

 

(被告製品)

 被告製品は、以下の通りである。

<a> 金属製外殻部材1とFRP製外殻部材9、10とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであり、

<b> 金属製外殻部材1のフランジ部5にFRP製下部外殻部材9、FRP製上部外殻部材10の接合部を接着すると共に、

<c> 金属製外殻部材1のフランジ部5aに透孔7を設け、

<d> 透孔7を介して炭素繊維からなる短小な帯片8を、前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側に通して、前記FRP製上部外殻部材10と金属製外殻部材1とを結合してなる

<e> 中空ゴルフクラブヘッド。

 

(争点)

 本件の争点は、以下の通りである。

(1)構成要件(d) の充足性

(2)均等侵害の成否

(3)進歩性欠如の有無

 

(裁判所の判断)

(1)構成要件(d)の充足性

 原審は、本件発明の構成要件(d)における「縫合材」について、「金属製の外殻部材に設けた複数の貫通穴に、金属製の外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)との間を曲折しながら連続して通した部材を意味するものと解するのが相当である(本件発明の縫合材をこのように解さない限り、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めるという課題を解決するための手段が特許請求の範囲において実質的に特定されていないといわざるを得ないことになる。)。」と判示していた。

 

 しかし、知財高裁は「縫合材」の意味について、明細書の発明の詳細な説明や出願経過を参酌し、「構成要件()における「縫合材」は、そもそも、当該用語が、「複数の対象物のすべてを貫き通すことによって結合させるために用いられる部材」という通常の意味から離れて用いられていることが明らかであるから「縫合材」の通常の語義のみに従って、その内容を限定する合理性はないといえる。」とした。

 

 その上で、本件発明の「縫合材」の意義について、以下の通り解釈した。

「 ところで、①「縫合材」を、金属製外殻部材の複数の貫通穴に、金属製外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)とを曲折させて通すという構成を採用した目的は、金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材との接合強度を高めるためである。②「縫合材」が、そのような結合強度を高める効果を奏するためには、金属製外殻部材の接着界面側の少なくとも2か所で接合(接着)することが必要である(「縫合材」は、金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側で繊維強化プラスチック製外殻部材に接合することになるから、その接着性によって、接合強度を高める効果を生じることになる。)。そして、③「縫合材」を、2か所で接合(接着)するためには、「金属製外殻部材の接着界面側から、貫通穴を通して反対面側に達し、さらに、貫通穴を通して接着界面側に回帰させる態様を含む」ことが必要となる。

 原告が、構成要件()について、単に「部材」などの語を用いることなく、「縫合材」との語を選択した以上、その内容は、単なる「部材」とは異なり、何らかの限定をして解釈されるべきところ、その限定の内容を技術的な観点をも含めて解釈するならば、「縫合材」とは、「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し、かつ、少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」であると解するのが相当である。

 そうすると、構成要件()を充足するためには、「該貫通穴を介した繊維強化プラスチック製」であり、かつ、「前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」部材であることが必要であるのみならず、さらに、「縫合材」との構成から、「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し、かつ、少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する」部材であることが必要であるといえる。

 

 そして、本件発明の構成要件(d)における「縫合材」文言充足性については、「被告製品の構成〈d〉における「炭素繊維からなる短小な帯片8」は、構成要件(d)の「縫合材」であることの要件(「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し、かつ、少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」を充足しない。」として文言侵害を否定した。

 

(2)均等侵害の成否

 原審は、「本件発明の構成中の被告製品と異なる部分である「縫合材」は、本件発明の本質的部分であるから、本件発明の「縫合材」を備えていない被告製品を本件発明と均等なものと解することはできない。」と判示していた。

 しかし、知財高裁は「被告製品の構成〈d〉における「(炭素繊維からなる短小な)帯片8」は本件発明の構成要件(d)における (繊維強化プラスチック製の)縫合材」の均等物であると判断する。」として、以下の通り、均等侵害を認めた。

 

 (a)置換可能性

 知財高裁は、「本件発明の構成要件()において「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」を用いたことによる目的、作用効果(ないし課題の解決原理)は、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにある」とし、被告製品においても、「前方フランジ部5aにおいて、炭素繊維からなる帯片8は、一つの貫通穴に通され、上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着されることにより、金属製の外殻部材(金属製外殻部材1)と繊維強化プラスチック製の外殻部材(FRP製上部外殻部材10)との接合強度を高める効果を奏して」おり、この効果は、「本件発明において「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」を用いたことによる目的、作用効果と共通するものである」と判断した。

 その結果、「本件発明の構成要件(d)における「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」と被告製品の構成〈d〉における「(炭素繊維からなる)短小な帯片8」とは、目的、作用効果(ないし課題解決原理)を共通にするものであるから、置換可能性がある。」とした。

 

 (b)置換容易性

 「本件発明においても、被告製品においても、金属製外殻部材に設けられた貫通穴に繊維強化プラスチック製の部材を通すことは共通であり、金属製外殻部材の複数の貫通穴に複数回通し、少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材を、一つの貫通穴に1回だけ通し、金属製外殻部材の上下において上部繊維強化プラスチック製外殻部材及び下部繊維強化プラスチック製外殻部材と各1か所で接着する部材に置き換えることは、被告製品の製造の時点において、当業者が容易に想到することができたものと認められる。したがって、置換容易性は認められる。」

 

 (c)本質的部分

 上述の通り、原審では構成要件(d)の「縫合材」は本件発明の本質的部分であるとしていたが、知財高裁は以下の点を挙げて、「本件発明の課題解決のための手段を基礎づける技術的思想の中核的、特徴的な部分であると解することはできない。」と判断した。

 

①本件発明の課題解決のための重要な部分は、構成要件()中の「該貫通穴を介して「前記金属製外殻」部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成部分にある。

②本件発明の「縫合材」の語は、繊維強化プラスチック製の部材を金属製外殻部材に通す形状ないし態様から用いられたものであって、通常の意味とは明らかに異なる用いられ方をしているから、「縫合」の語義を重視するのは、妥当とはいえない。

③前記のとおり、「縫合材」の意味は、技術的な観点を入れると、「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し、かつ、少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」と解すべきであるが、当該要件中の「一つの貫通穴ではなく複数の(二つ以上の)貫通穴に」との要件部分、「少なくとも2か所で(接合(接着)する)」との要件部分は、本件発明を特徴付けるほどの重要な部分であるとはいえない。

 

 (d)容易推考性

 「被告製品が、本件特許の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものであるとは認められない。」

 

 (e)意識的除外

 「出願経過及びその過程で提出された手続補正書や意見書の内容に照らして、原告が、本件特許の出願経過において、本件発明の「縫合材」を、一つの貫通穴を通し、金属製外殻部材の上下のFRP製外殻部材と各1か所で接着した部材に置換する構成を意識的に除外したと認めることはできない。」

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090630100213.pdf