知財高裁平成24年10月17日判決 平成24(行ケ)10056号 電動式の作業機用アクチュエータと旋回駆動装置を備える建設機械事件
・請求認容
・住友建機株式会社 対 特許庁長官
・特許法17条の2第4項、29条2項、補正、進歩性、主引用例の差替え
(経緯)
本件は、「電動式の作業機用アクチュエータと旋回駆動装置を備える建設機械」の発明に関する特許出願について、進歩性欠如を理由に拒絶審決がなされたため、その取消しを求めて知財高裁に訴えを提起したものである。
(争点)
争点は以下の通りである。
・補正の目的要件の判断の誤り(取消事由1)
・本願補正発明の容易想到性の判断に係る手続違背(取消事由2)
・本願発明の容易想到性の判断に係る手続違背(取消事由3)
(裁判所の判断)
上記争点のうち、取消事由3(本願発明の容易想到性の判断に係る手続違背)については、以下の通りである。
・特許庁における手続の経緯
平成21年8月13日 拒絶理由通知
(引用例2を主引用例、周知例3及び2を副引用例として、進歩性欠如)
平成21年10月23日 意見書・手続補正書
平成22年3月25日付 拒絶査定
(引用例2を主引用例、周知例3及び2を副引用例、引用例1を周知の技術事項の例として、進歩性欠如)
平成22年7月16日 拒絶査定不服審判・補正
平成23年1月31日 審尋
(引用例3を主引用例、引用例4及び周知例1を副引用例、周知例3及び2を周知の技術事項の例として、進歩性欠如)
平成23年4月21日 回答書
平成23年11月29日 審決
(引用例1を主引用例とし、引用例2ないし4を副引用例とし、周知例1ないし3を周知の技術事項の例として、進歩性欠如)
上記手続の経緯から分かる通り、本件審決は、本願発明の容易想到性の判断において、拒絶理由通知及び拒絶査定で主引用例とされた引用例2ではなく、拒絶査定で周知の技術事項として例示された引用例1を主引用例に格上げした上で、容易に想到できると判断したものであった。
そのため、原告は、本件において、引用例1を主引用例とし、引用例2ないし4を副引用例とする拒絶の理由を原告に通知せず、また、原告に意見を述べる機会を与えることなく、これを拒絶したものであるから、法159条2項により準用される法50条に違反するとの主張をした。
この点について裁判所は、先ず、一般論として以下のように述べた。
「一般に、本願発明と対比する対象である主引用例が異なれば、一致点及び相違点の認定が異なることになり、これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになる。したがって、拒絶査定と異なる主引用例を引用して判断しようとするときは、主引用例を変更したとしても出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情がない限り、原則として、法159条2項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるものとして法50条が準用されるものと解される。」
本件については、裁判所はまず、引用例1又は2のいずれを主引用例とするかによって、本願発明との一致点又は相違点の認定に差異が生じると指摘した。
さらに、引用発明2を主引用例とする場合には、交流発電機(交流電源)を用いた場合の問題点の解決を課題として考慮すべきであるのに対し、引用発明1を主引用例として本願発明の容易想到性を判断する場合には、引用例2のような交流/直流電源の相違が生じない以上、上記解決課題を考慮する余地はないと述べた。
その結果、引用発明1又は2のいずれを主引用例とするかによって、引用発明2の上記解決課題を考慮する必要性が生じるか否かという点において、容易想到性の判断過程にも実質的な差異が生じることになるとした。
一方、新たに主引用例として用いた引用例1は、既に拒絶査定において周知技術として例示されてはいたが、原告は、いずれの機会においても引用例2との対比判断に対する意見を中心にして検討していた。
そして、引用発明2を主引例として本願商標との相違点を検討することは、引用発明1を主引例とする場合と同視することはできず、さらに、引用例1を主引用例とすることについて、既に通知されていた拒絶理由の内容から容易に予測することもできないと述べた。
その結果、裁判所は、本願発明の容易想到性の判断に係る手続違背は、審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるとして拒絶審決を取り消した。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121102095511.pdf
知財高裁平成24年10月17日判決 平成24(行ケ)10056号 電動式の作業機用アクチュエータと旋回駆動装置を備える建設機械事件
・請求認容
・住友建機株式会社 対 特許庁長官
・特許法17条の2第4項、29条2項、補正、進歩性、主引用例の差替え
(経緯)
本件は、「電動式の作業機用アクチュエータと旋回駆動装置を備える建設機械」の発明に関する特許出願について、進歩性欠如を理由に拒絶審決がなされたため、その取消しを求めて知財高裁に訴えを提起したものである。
(争点)
争点は以下の通りである。
・補正の目的要件の判断の誤り(取消事由1)
・本願補正発明の容易想到性の判断に係る手続違背(取消事由2)
・本願発明の容易想到性の判断に係る手続違背(取消事由3)
(裁判所の判断)
上記争点のうち、取消事由3(本願発明の容易想到性の判断に係る手続違背)については、以下の通りである。
・特許庁における手続の経緯
平成21年8月13日 拒絶理由通知
(引用例2を主引用例、周知例3及び2を副引用例として、進歩性欠如)
平成21年10月23日 意見書・手続補正書
平成22年3月25日付 拒絶査定
(引用例2を主引用例、周知例3及び2を副引用例、引用例1を周知の技術事項の例として、進歩性欠如)
平成22年7月16日 拒絶査定不服審判・補正
平成23年1月31日 審尋
(引用例3を主引用例、引用例4及び周知例1を副引用例、周知例3及び2を周知の技術事項の例として、進歩性欠如)
平成23年4月21日 回答書
平成23年11月29日 審決
(引用例1を主引用例とし、引用例2ないし4を副引用例とし、周知例1ないし3を周知の技術事項の例として、進歩性欠如)
上記手続の経緯から分かる通り、本件審決は、本願発明の容易想到性の判断において、拒絶理由通知及び拒絶査定で主引用例とされた引用例2ではなく、拒絶査定で周知の技術事項として例示された引用例1を主引用例に格上げした上で、容易に想到できると判断したものであった。
そのため、原告は、本件において、引用例1を主引用例とし、引用例2ないし4を副引用例とする拒絶の理由を原告に通知せず、また、原告に意見を述べる機会を与えることなく、これを拒絶したものであるから、法159条2項により準用される法50条に違反するとの主張をした。
この点について裁判所は、先ず、一般論として以下のように述べた。
「一般に、本願発明と対比する対象である主引用例が異なれば、一致点及び相違点の認定が異なることになり、これに基づいて行われる容易想到性の判断の内容も異なることになる。したがって、拒絶査定と異なる主引用例を引用して判断しようとするときは、主引用例を変更したとしても出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情がない限り、原則として、法159条2項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるものとして法50条が準用されるものと解される。」
本件については、裁判所はまず、引用例1又は2のいずれを主引用例とするかによって、本願発明との一致点又は相違点の認定に差異が生じると指摘した。
さらに、引用発明2を主引用例とする場合には、交流発電機(交流電源)を用いた場合の問題点の解決を課題として考慮すべきであるのに対し、引用発明1を主引用例として本願発明の容易想到性を判断する場合には、引用例2のような交流/直流電源の相違が生じない以上、上記解決課題を考慮する余地はないと述べた。
その結果、引用発明1又は2のいずれを主引用例とするかによって、引用発明2の上記解決課題を考慮する必要性が生じるか否かという点において、容易想到性の判断過程にも実質的な差異が生じることになるとした。
一方、新たに主引用例として用いた引用例1は、既に拒絶査定において周知技術として例示されてはいたが、原告は、いずれの機会においても引用例2との対比判断に対する意見を中心にして検討していた。
そして、引用発明2を主引例として本願商標との相違点を検討することは、引用発明1を主引例とする場合と同視することはできず、さらに、引用例1を主引用例とすることについて、既に通知されていた拒絶理由の内容から容易に予測することもできないと述べた。
その結果、裁判所は、本願発明の容易想到性の判断に係る手続違背は、審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるとして拒絶審決を取り消した。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121102095511.pdf