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判例・実務情報

(東京地裁、特許) 本件発明の本質的部分は「縫合材」を備える点にあるとして、均等侵害を否定した事例



Date.2011年2月15日

東京地裁平成201209日判決 平成19()28614 中空ゴルフクラブヘッド事件

 

・請求棄却

・横浜ゴム株式会社 対 ヨネックス株式会社

・特許法65条 補償金請求権、文言侵害、充足性、均等侵害(均等論)、本質的部分

 

(経緯)

 原告の横浜ゴム株式会社は中空ゴルフクラブヘッドに関する特許権(特許第3725481号)を有する特許権者である。

 被告は被告製品を製造販売していたところ、原告は被告の行為が原告の有する上記特許権を侵害しているとして、出願公開後の警告から設定登録までの間の補償金及びその後の損害賠償金を求めて、東京地裁に訴えを提起した。

 

(本件発明)

 本件発明は、中空構造を有するゴルフクラブヘッドであって、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めるようにした中空ゴルフクラブヘッドに関する。

 

【請求項1】

(a) 金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって、

(b) 前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、

(c) 前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、

(d) 該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した

(e) ことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。

 

 本件発明に於いては、金属製の外殻部材(11)と繊維強化プラスチック製の外殻部材(21)との接合強度を高めるために、金属製の外殻部材(11)の接合部(11a)に繊維強化プラスチック製の外殻部材(21)の接合部(21a)を接着すると共に、金属製の外殻部材(11)の接合部(11a)に貫通穴を設け、その貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材(22)を通し、縫合材(22)により繊維強化プラスチック製の外殻部材(21)と金属製の外殻部材(11)とを結合している。

 

(被告製品)

 被告製品は、以下の通りである。

<a> 金属製外殻部材1とFRP製外殻部材9、10とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであり、

<b> 金属製外殻部材1のフランジ部5にFRP製下部外殻部材9、FRP製上部外殻部材10の接合部を接着すると共に、

<c> 金属製外殻部材1のフランジ部5aに透孔7を設け、

<d> 透孔7を介して炭素繊維からなる短小な帯片8を、前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側に通して、前記FRP製上部外殻部材10と金属製外殻部材1とを結合してなる

<e> 中空ゴルフクラブヘッド。

 

(争点)

 本件の争点は、以下の通りである。

(1)構成要件(d) の充足性

(2)均等侵害の成否

(3)進歩性欠如の有無

(4)原告の補償金等

 

(裁判所の判断)

 上記争点のうち裁判所において判断されたのは、争点(1)と争点(2)である。

 

(1)構成要件(d)の充足性

 構成要件(d)の充足性に関する争点は、端的に言えば、「炭素繊維からなる短小な帯片8」が本件発明の「縫合材」に該当するか否かである。

 裁判所は、本件明細書を参酌し、「本件発明における「縫合材」によって金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合強度を高めて結合する原理については、繊維強化プラスチック製の縫合材22は、同種素材である繊維強化プラスチック製の外殻部材21とは相互に接着性が良好であるものの、異種素材である金属製の外殻部材11とは接着しただけでは接合強度が不十分であるから、上記のように縫合材22を金属製の外殻部材11の貫通穴13に接着界面側とその反対面側との間を曲折しながら連続して通した上で、縫合材22と繊維強化プラスチック製の外殻部材21とを接着することにより、金属製の外殻部材11に対して繊維強化プラスチック製の外殻部材21を強固に結合するものと理解することができる。」とした。

 さらに、「本件発明のこのような理解に立って、前記(1)イのような「縫合材」における「縫合」ないし「縫う」の辞書的な語義のうち、「物と物との間を左右に曲折しながら通る。」(【縫う】の広辞苑における語義④)の意味内容を勘案しつつ、本件明細書に開示された課題と特許請求の範囲に開示された構成との関係を整合的にとらえるならば、本件発明における「縫合材」は、金属製の外殻部材に設けた複数の貫通穴に、金属製の外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)との間を曲折しながら連続して通した部材を意味するものと解するのが相当である(本件発明の縫合材をこのように解さない限り、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めるという課題を解決するための手段が特許請求の範囲において実質的に特定されていないといわざるを得ないことになる。)。

 被告製品は、各透孔7毎に分離した炭素繊維からなる短小な帯片8(短小帯状片)があるものの、これは上記のような意味における「縫合材」に当たらないことが明らかであるから、被告製品は、本件発明の構成要件(d) を充足しないものというべきである。」と判示した。

 

(2)均等侵害の成否

 先ず、裁判所は、被告製品が本件発明と異なる点について、本件発明の「縫合材」を備えていない点を認定した。

 そして、本件発明の「縫合材」が本質的部分であるか否かについて、下記の通り判断した。

 「本件発明は、前記1(2)のとおり、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めるという課題を解決するための手段として、請求項1に記載の構成を採用し、「金属製の外殻部材の接合部に繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材を通し、該縫合材により繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材とを結合したことにより、これら異種素材からなる外殻部材の接合強度を高めること」(本件明細書【0006】)を可能にしたものである。すなわち、金属製の外殻部材の接合部と繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部とを接着するだけでは十分な接合強度が得られないため、接着に加え、前記1(2)のとおりの構成態様における縫合材を用いることにより、両者の外殻部材を結合して接合強度を高めたものである。

そうすると、本件発明においては、縫合材により、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを結合したことが課題を解決するための特徴的な構成であって、このような縫合材は、本件発明の本質的部分というべきである。

 したがって、本件発明の構成中の被告製品と異なる部分である「縫合材」は、本件発明の本質的部分であるから、本件発明の「縫合材」を備えていない被告製品を本件発明と均等なものと解することはできない。」

 その結果、裁判所は被告製品の均等侵害についても否定した。

  

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081218172148.pdf