知財高裁平成24年11月07日判決 平成24(行ケ)10222号 北斎事件
・請求認容
・株式会社アドバンス 対 特許庁長官
・商標法4条1項7号、公序良俗、歴史上の人物名からなる商標
(経緯)
原告の株式会社アドバンスは,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品とする下記商標(以下「本願商標」という。)の商標登録出願(商願2007-117902)をしたところ、特許庁より拒絶査定を受けたのでこれに対する不服審判をした。
しかし特許庁は、本願商標が商標法4条1項7号に該当するとして、請求不成立審決をした。本件はその審決に不服の原告が、その取消を求めて知財高裁に訴えを起こしたものである。
(本願商標)
本願商標は以下の通り、「北斎」との筆書風の漢字と,葛飾北斎が用いた落款と同様の形状をした本件図形からなる。
(審決)
本願商標は,商標法4条1項7号(公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標)に該当するから,登録を受けることができない,というものであった。
尚、原告は,審判段階において,以下のような主張を行っている。
①本願商標は「北斎」の漢字を特定の書体で縦書きし,その左側部に朱印の印が押された構成よりなる結合商標であって,それ以上でもそれ以下でもない。
②本願商標に係る標章は,これら縦書き文字と印の二者で構成されるものであって,単純に「北斎」の名前を独占しようとするような類いのものでは全くない。
③本願商標の効力が土産物に及ぶのは,本願商標と完全に同じ商標,あるいは本願商標を構成する二つの部分(漢字文字,本件図形)の配置に変更を加えてなる商標などのように,本願商標と類似する商標を土産物に付した場合などの極めて特異なケースに限られるものである。
④これらの原告の主張は,実質的に,本願商標の効力範囲が,漢字文字の「北斎」のみからなる商標には及ばないことを自覚し,これを宣言するものである。
(裁判所の判断)
裁判所は、先ず、本願商標がその指定商品について使用する場合に、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するものといえるか否かについて検討している。
すなわち、「葛飾北斎の出身地である東京都墨田区や国内各地のゆかりの地においては,当該地域のまちづくりや観光振興のシンボルとして,同人の名を用いた施設の整備や催し物の開催等が行われているところであって,「北斎」の名称は,それぞれの地域における公益的事業の遂行と密接な関係を有している。したがって,原告が本願商標の商標登録を取得し,本件指定商品について,本願商標を独占的に使用する結果となることは,上記のような各地域における公益的事業において,土産物等の販売について支障を生ずる懸念がないとはいえない。 」としながらも、裁判所は、「しかしながら,…,原告が本件指定商品について本願商標に基づき主張することができる禁止権の範囲は,「北斎」との筆書風の漢字と本件図形からなる構成に限定されると考えられることからすれば,当該公益的事業の遂行に生じ得る支障も限定的なものにとどまるというべきである。 」判示とした。
また、「葛飾北斎は,日本国内外で周知,著名な歴史上の人物であるところ,周知,著名な歴史上の人物名からなる商標について,特定の者が登録出願したような場合に,その出願経緯等の事情いかんによっては,何らかの不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるため,当該商標の使用が社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反する場合が存在しないわけではない。 」としながらも、この点については、「原告による本願商標の出願について,上記のような公益的事業の遂行を阻害する目的など,何らかの不正の目的があるものと認めるに足りる証拠はないし,その他,本件全証拠によっても,出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない。 」とした。
その結果、「本願商標の商標登録によって公益的事業の遂行に生じ得る影響は限定的であり,また,本願商標の出願について,原告に不正の目的があるとはいえず,その他,出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない」として、「原告が葛飾北斎と何ら関係を有しない者であったとしても,原告が本件指定商品について本願商標を使用することが,社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するものとまでいうことはできない。 」と結論付けた。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121122131019.pdf
知財高裁平成24年11月07日判決 平成24(行ケ)10222号 北斎事件
・請求認容
・株式会社アドバンス 対 特許庁長官
・商標法4条1項7号、公序良俗、歴史上の人物名からなる商標
(経緯)
原告の株式会社アドバンスは,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品とする下記商標(以下「本願商標」という。)の商標登録出願(商願2007-117902)をしたところ、特許庁より拒絶査定を受けたのでこれに対する不服審判をした。
しかし特許庁は、本願商標が商標法4条1項7号に該当するとして、請求不成立審決をした。本件はその審決に不服の原告が、その取消を求めて知財高裁に訴えを起こしたものである。
(本願商標)
本願商標は以下の通り、「北斎」との筆書風の漢字と,葛飾北斎が用いた落款と同様の形状をした本件図形からなる。
(審決)
本願商標は,商標法4条1項7号(公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標)に該当するから,登録を受けることができない,というものであった。
尚、原告は,審判段階において,以下のような主張を行っている。
①本願商標は「北斎」の漢字を特定の書体で縦書きし,その左側部に朱印の印が押された構成よりなる結合商標であって,それ以上でもそれ以下でもない。
②本願商標に係る標章は,これら縦書き文字と印の二者で構成されるものであって,単純に「北斎」の名前を独占しようとするような類いのものでは全くない。
③本願商標の効力が土産物に及ぶのは,本願商標と完全に同じ商標,あるいは本願商標を構成する二つの部分(漢字文字,本件図形)の配置に変更を加えてなる商標などのように,本願商標と類似する商標を土産物に付した場合などの極めて特異なケースに限られるものである。
④これらの原告の主張は,実質的に,本願商標の効力範囲が,漢字文字の「北斎」のみからなる商標には及ばないことを自覚し,これを宣言するものである。
(裁判所の判断)
裁判所は、先ず、本願商標がその指定商品について使用する場合に、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するものといえるか否かについて検討している。
すなわち、「葛飾北斎の出身地である東京都墨田区や国内各地のゆかりの地においては,当該地域のまちづくりや観光振興のシンボルとして,同人の名を用いた施設の整備や催し物の開催等が行われているところであって,「北斎」の名称は,それぞれの地域における公益的事業の遂行と密接な関係を有している。したがって,原告が本願商標の商標登録を取得し,本件指定商品について,本願商標を独占的に使用する結果となることは,上記のような各地域における公益的事業において,土産物等の販売について支障を生ずる懸念がないとはいえない。 」としながらも、裁判所は、「しかしながら,…,原告が本件指定商品について本願商標に基づき主張することができる禁止権の範囲は,「北斎」との筆書風の漢字と本件図形からなる構成に限定されると考えられることからすれば,当該公益的事業の遂行に生じ得る支障も限定的なものにとどまるというべきである。 」判示とした。
また、「葛飾北斎は,日本国内外で周知,著名な歴史上の人物であるところ,周知,著名な歴史上の人物名からなる商標について,特定の者が登録出願したような場合に,その出願経緯等の事情いかんによっては,何らかの不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるため,当該商標の使用が社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反する場合が存在しないわけではない。 」としながらも、この点については、「原告による本願商標の出願について,上記のような公益的事業の遂行を阻害する目的など,何らかの不正の目的があるものと認めるに足りる証拠はないし,その他,本件全証拠によっても,出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない。 」とした。
その結果、「本願商標の商標登録によって公益的事業の遂行に生じ得る影響は限定的であり,また,本願商標の出願について,原告に不正の目的があるとはいえず,その他,出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない」として、「原告が葛飾北斎と何ら関係を有しない者であったとしても,原告が本件指定商品について本願商標を使用することが,社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するものとまでいうことはできない。 」と結論付けた。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121122131019.pdf