E

判例・実務情報

【大阪地裁、商標】 ハウスマークの使用差止等が認められた事例 平成22(ワ)4461 モンシュシュ事件



Date.2012年6月20日

 大阪地裁平成23年6月30日判決 平成22年(ワ)第4461号 モンシュシュ事件

 

 ・請求認容

・ゴンチャロフ製菓株式会社 対 株式会社モンシュシュ

・商標法36条1項、26条1項1号、同条2項、38条、商標権の侵害、結合商標、損害不発生の抗弁、ハウスマーク、商号商標

 

 (経緯)

 原告は、「菓子、パン」(第30類)を指定商品とする下記登録商標(登録番号第1474596号)の商標権者である。

 

 

 

  被告は、平成15年9月に有限会社サンドゥルオンとして設立され、その後、平成19年7月に、現商号である株式会社モンシュシュに商号変更した、洋菓子の製造販売等を業とする株式会社である。

 被告は、被告商品を販売するにあたり、下記被告標章を被告商品の包装や店舗、広告等に使用していた。

 

 

  そのため、原告は、本件商標権に基づき、被告各標章の使用禁止、被告各標章の抹消ないし被告各標章を付した物の廃棄を求めると共に、不法行為(本件商標権侵害)に基づ損害賠償等を求めて、大阪地裁に訴えを提起した。

 

 

 (争点)

 主な争点は、以下の通りである。

(1) 被告各標章は、本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているか(争点1)

(2) 被告標章1及び5ないし9は、本件商標に類似するか(争点2)

(3) 被告標章4は商標として使用されているか (争点3)

(4) 被告標章2ないし4は、被告の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものか(商標法26条1項1号)(争点4)

(5) 仮に(4)が認められるとして、被告は、被告標章2ないし4を、不正競争の目的で用いたか(商標法26条2項)(争点5)

(6) 原告の損害の発生の有無 (争点6)

(7) 原告の請求は権利濫用か (争点7)

(8) 原告の損害額 (争点8)

 

 

(裁判所の判断)

 上記の争点のうち、主なものに対する裁判所の判断は以下の通りである。

 

・争点2(被告標章1及び5ないし9は、本件商標に類似するか)

 

 被告標章1及び8の要部を認定するにあたり、裁判所は以下のように判示した。

 「複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

 この点、被告標章1の図形部分は、花というオーソドックスなモチーフを使用したデザインであって、出所表示となるような特段の意味づけがされているとは認められないし、被告の使用する標章に一律に使用されているものでもない。したがって、被告標章1は、全体が1つのマークとして認識されるのではなく、図形部分は飾りであると認識されると考えられ、図形部分からは、出所識別標識としての称呼、観念は生じないと認められる。

 以上のとおりであるから、被告標章1の要部である「Mon chouchou」の部分だけを抽出し、本件商標と比較して類否を判断すべきである。」

 

 また、被告標章8の要部の認定においては、以下の通り判示した。

「 被告標章8は、被告標章1のうち、図形の花をつぼみに変え、茎を増やした上(なお、被告標章1に比べ、花の茎は、「M」の文字の左端と明確につながっているが、一見したところでは、両者の違いはほとんど目立たない。)、蝶などの図形と、「baby」の文字、「from Tokyo」の記載を付加したものであって、被告標章1をアレンジしたものといえる。

 そのうち「baby」の部分は、筆記体で記載された「Mon chouchou」の部分とは異なって楷書体で記載され、記載態様も、飾り文字である「M」の左上に、小さく付加された形であるため、「Mon chouchou」の部分が、強く印象づけられているといえる。

 また、「baby」は、その意味内容が広く知られ、日常的に使用されている英単語であるところ、形容詞として使用される場合は、「ミニ」や「プチ」などと同じく、小さいものを表す修飾語として、他の言葉と組み合わせて使用されており、単独で出所識別標識としての称呼や観念を生じるものではない。「from Tokyo」の部分も、地域を示す表示であるから、やはり、単独で出所識別標識としての称呼や観念を生じるものではない。

 そして、花や蝶などの図形部分は、被告標章1と同様、飾りとして認識されると考えられ、そこから出所識別標識としての称呼や観念は生じない。

 以上のとおりであるから、被告標章8は、「Mon chouchou」の部分が、取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えており、「Mon chouchou」以外の部分から、出所識別標識としての称呼、観念は生じないと認められる。

 したがって、被告標章8の要部である「Mon chouchou」の部分だけを抽出し、本件商標と比較して類否を判断すべきである。」

 

 そして、本件商標と各被告標章との類否を判断するにあたっては、知名度の違いや販売形態(商品・販路)の違いを検討して、本件においては出所混同のおそれを否定するような取引の実情は存在しないとした上で、本件商標と被告標章1、5ないし8との類否については、称呼・観念において、本件商標と同一であり、外観の違いも、本件商標をデザインし、文字装飾を施したと認識される程度のものといえるから、両者は類似すると判断した。

 また、本件商標と被告標章9の類否については、称呼・観念が本件商標と同一であり、外観も本件商標と類似しているから、両者は類似すると判断した。

 

・争点4(被告標章2ないし4は、被告の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものか(商標法26条1項1号)


 被告は、被告標章2ないし4が被告の略称であり、この略称が著名であるとして、商標法26条1項1号に基づく抗弁を主張した。

 

 この被告の主張に対し、裁判所は以下の通り判示した。

「 しかしながら、本件訴訟提起を報じた平成22年1月21日付け新聞記事の見出しのうち被告に関する記載は、読売新聞が「堂島ロール製造モンシュシュを提訴」(乙207の1)、産経新聞が「堂島ロール販売元を損賠提訴」(乙207の2)、毎日新聞が「堂島ロールのモンシュシュを訴え」(乙207の4)、日刊スポーツ新聞が「『堂島ロール』の会社を提訴」(乙207の5)、神戸新聞が「『堂島ロール』社を提訴」(乙207の6)、日本経済新聞が「『堂島ロール』の会社を提訴」(乙207の7)というものである。このように、全国紙を含む各紙が、見出しにおいて、被告を「堂島ロールの会社」あるいは「堂島ロールを製造販売しているモンシュシュ」として扱っていることからは、この時点で、「モンシュシュ」が、被告を指す名称として一般には認知されていなかったことが窺われる。日本経済新聞の記事には、堂島ロールとの関連づけを行うことなく「モンシュシュ」の名称が見出しに出ているものも存在するが(乙72、170)、これらは経済界向けの記事であり、需要者である一般消費者向けの記事ではない。

 また、前記1(3)イで述べたとおり、平成22年9月段階で行われた、週に1回以上スイーツ(洋菓子)を食べる(購入する)20代から50代の女性を対象とするアンケートの結果(乙206)によれば、「堂島ロール」を知っている人の中でも、「モンシュシュ」という名前を知らない人は、京浜地区で42.6%存在し、大阪・京都・兵庫(神戸市除く)においてすら31.9%存在する。また、同年10月段階で行われた同様のアンケートの結果(乙211)においても、洋菓子の営業標章としての「モンシュシュ」の認知度は、札幌市(被告の店舗が存在する。)で23.7%、仙台市(被告の店舗が存在しない。)で21.0%、名古屋市(被告の店舗が存在する。)で57.0%、広島市(被告の店舗が存在する。)で31.0%、福岡市(被告の店舗が存在しない。)で17.3%である。この数字は、同じアンケート結果において、これら全市で、モロゾフが95%前後、ゴディバが90%前後、ユーハイムが85%前後の認知度であるのに比べて、かなり低いといえる。

 これらのことからすれば、「モンシュシュ」が、被告の略称として著名であるとは認められない。

 

 その結果、裁判所は、被告標章2ないし4については「普通に用いられる方法で表示する商標」に該当するかについて判断するまでもなく、商標法26条1項1号に基づく被告の抗弁に理由がないと判示した。

 

・争点6(原告の損害の発生の有無 )

 

 被告は、「本件商標について、顧客吸引力が全く認められず、被告商品の売上げに全く寄与していないことが明らかであるから、原告には損害が生じていない」と主張した。

 この主張に対し、裁判所は、以下の通り判示している。

 

「(2) 本件商標の顧客吸引力

 本件商標が付されたバレンタイン用チョコレート(原告商品)は、ビアンクールが販売するバレンタイン用チョコレートの主力商品であり(甲72~94)、売上げの6割前後を占めていたと認められる(甲96、113)。

 そして、ビアンクールのバレンタイン商戦時期の売上げは、原告商品の販売が開始された昭和61年こそ3107万9000円であったものの、昭和62年は1億2508万円、昭和63年は1億8029万7000円と増加しており、平成元年から本件商標の使用が中断される直前の平成16年までの間、少ない年(平成12年、13年)でも1億7000万円を超え、多い年(平成3年)では3億1000万円を超えていたものである(甲96)。これは、被告商品のうちチョコレート(バレンタイン商戦時期のみ販売)の売上げが、平成18年度(当年8月~翌年7月。以下同じ。)において32万4996円、平成19年度において353万7346円、平成20年度において1063万5000円、平成21年度において3741万0834円であったことや(乙213)、被告の年間売上げが、被告や被告商品がメディアで頻繁に紹介され、新たに3店舗がオープンするなど(甲3)、業績が伸びていた平成18年度でさえ、4億円程度であったことと比較しても、十分多額であるといえる。

 また、証拠(甲71~95)によると、本件商標は、原告商品の包装やそのパンフレットに使用され、しかも、比較的目立つ位置に表示され、原告商品の購入者の注意は、本件商標に自然と注がれることが認められる。

 確かに、本件商標の使用が中断された平成17年及び平成18年に、ビアンクールの売上げが減少した事実は認められず(甲113)、原告商品の売上げに対する寄与が、本件商標の使用のみによるものであるとは考えられない。

 しかしながら、本件商標は、上述したとおり、本件訴訟提起以前から、原告商品を示すものとして使用されており、その使用態様や、売上げに照らすと、原告商品の売上げに本件商標の寄与がないとは認め難く、本件商標に顧客吸引力が全く認められないということはできない。

(3) 被告商品の売上げへの寄与

 前記1(1)のとおり、被告各標章は、チョコレートを含む洋菓子である被告商品の包装、被告各店舗の表示、被告商品ないし被告の宣伝広告など、被告商品の販売にあたって広く使用されていることが認められる。

 そうすると、本件商標に類似する被告各標章を使用することが、被告商品の売上げに全く寄与していないことが明らかであるとはいえない。

(4) 以上のとおりであるから、被告の抗弁は採用できない。」

 

 

 本件は、「堂島ロール」で知られる大阪のモンシュシュに対し、標章の使用差止めや損害賠償を求めた訴訟である。上記の通り、大阪地裁は、商標権の侵害を認め、モンシュシュに対して、ハウスマークの使用差止めと約3500万円の損害賠償を命ずる判決を下した。

 尚、モンシュシュは、この判決を不服として大阪高裁に控訴中であるが、屋号を「モンシュール」に変更すると発表している。

 

 本判決で、大阪地裁は、文字と図形を組み合わせた結合商標である被告商標1の要部の認定について、平成20年09月08日最高裁判所第二小法廷(つつみのおひなっこや事件)の判断基準に基づき判断している。すなわち、つつみのおひなっこや事件は、商標の構成部分の一部を抽出し要部として他人の商標と対比するには、その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などに限られるとしているが、大阪地裁は、被告標章1の図形部分が、出所表示となるような特段の意味づけがなされているものではないと指摘して、被告標章1の要部を「Mon chouchou」であると認定している。

 

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110706101915.pdf