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判例・実務情報

【米国CAFC、特許】 非衡平行為により権利行使不可とされた事例 Aventis Pharma v. Hospira (Fed. Cir. 2012)



Date.2012年4月20日

Aventis Pharma v. Hospira (Fed. Cir. 2012) 判決日2012/4/9

 

・請求棄却

・米国特許法103条、非自明性、非衡平行為、欺く意図、マテリアル性、but for 基準

 

 

(経緯)

 原告のAventis Pharma S.A.及びSanofi-Aventisは、U.S. Patent No. 5,750,561 (“’561特許”) 及びU.S. Patent No. 5,714,512 (“’512特許”)の特許権者である。

 ‘561特許および‘512特許は、化学療法用の制癌剤であるドセタキセルの投与に関するものである。また、当該ドセタキセルは、“Taxotere”のブランド名で市販されている。

 

 原告らは、被告のHospira, Inc.及びApotex Inc.に対し侵害訴訟を提起した。

 

 地裁は、‘512特許のクレーム7は非侵害であるとした。また、‘561特許のクレーム5および‘512特許のクレーム7は103条に基づき自明であるとして無効であるとの判断をした。

 さらに、‘561特許および‘512特許は非衡平行為により権利行使できないとも判断をした。

 

 この地裁の判決に対し、Sanofiはその取消しを求めてCAFCに上訴した。

 

 

CAFCの判断)

 

A. ’561特許のクレーム5

 ’561特許のクレーム5においては、“perfusion”の用語の解釈が問題となった。

 クレーム5は、下記の通りである。

 

5. A perfusion, which contains approximately 1 mg/ml or less of compound of formula as defined in claim 1, and which contains less than 35 ml/l of ethanol and less than 35 ml/l of polysorbate, wherein said perfusion is capable of being injected without anaphylactic or alcohol intoxication mani-festations being associated therewith.

 

 地裁において、当初、原告は、“perfusion”の用語を「少なくとも医薬品有効成分と生理的塩類またはグルコースのような水性の注入液とを含む、患者への注入に適した溶液」として解釈することに同意していた。

 しかし、その後、原告は、“perfusion”が少なくとも8時間のあいだ、治療、安全性及び安定性について有効なものという意味で解釈すべきであると主張した。

 しかし、地裁はそのような解釈を拒否し、“perfusion”は医薬品有効成分及び水性の注入液を含む注射剤を意味するものと解釈した。

 

 そのため、原告は、本件において、地裁が効能や安全性、安定性についての限定を付加して“perfusion”を解釈しなかったことは、誤りであると主張した。

 

 しかし、CAFCは、まず最初の2つの限定事項については、クレームや明細書、審査経過において主張されていないとして、そのような限定解釈を認めなかった。

 また、8時間のあいだ安定であるとの主張についても、そのような解釈が当業者の通常の理解の範囲ではないとした。さらに、実施例においては8時間のあいだ安定していたことが示されていたが、明細書中には当該実施例に限定して解釈されないとする記載もあった。

 そのため、CAFCは、原告が辞書編集者として通常の意味よりも狭く定義したり、クレームの範囲から除外して定義するなどしていなかったとして原告の主張を認めず、地裁のクレーム解釈に誤りはないと判断した。

 

 尚、原告はクレームが先行技術に基づき自明であるとの地裁の判断を否定していなかった。そのため、CAFCは、上記の通り、地裁のクレーム解釈に誤りがないのであるから、自明性の判断についても誤りはないとした。

 

 

B.’512特許のクレーム7

 

 ’512特許のクレーム7においては、“essentially free or free of ethanol”の解釈が問題となった。

 クレーム7は、下記の通りである。

 

1. A composition comprising a compound of the formula

 

in which Ar is unsubstituted phenyl, R7 is phenyl or tert butoxy, R6 is hydrogen, R5 is acetyloxy or hydroxy, R3 and R4 taken together form an oxo radical, R1 is hydroxy and R2 is hydrogen, said composition being dissolved in a surfactant selected from polysorbate, polyoxyethylated vegetable oil, and polyethoxylated castor oil, said composition being essentially free or free of ethanol.

 

6. The composition of claim 1, wherein R5 is hydroxy and R7 is tert butoxy.

 

7. The composition of claim 6, wherein said surfactant is polysorbate.

 

 Sanofiは、クレーム7の“essentially free or free of ethanol”との用語は、perfusionが「5体積%以下のエタノールの原液と同じ量のエタノール」を含むことを意味するとして、地裁のクレーム解釈は誤りであると主張した。

 

 しかし、CAFCは、そのような主張を認めても、地裁の自明性の判断を覆すものではないとしてその当否を判断しなかった。

 

 

C. 非衡平行為

 

 地裁は、先行技術文献が特許性に対し重要であり、発明者は意図的にUSPTOを欺くためにそれを隠したとして、‘561特許および‘512特許は非衡平行為により権利行使できないと判断した。

 原告は、発明者がUSPTOに文献を開示しなかった理由を説明しており、欺く意図はなかったと主張した。また、文献のマテリアル性については、すでに開示されているものと重複するものであるとしてこれを否定する主張をした。

 

 

1. マテリアル性

 

 マテリアル性の判断に関し、CAFCは以下の通り述べている。

 すなわち、マテリアル性の判断については、もしその先行技術文献が開示されていれば、USPTOはクレームを許可しなかったであろうということを、証拠の優越的基準(a preponderance of evidence)に基づいて立証するbut for基準が適用される(Therasense, Inc. v. Becton, Dickinson and Company (Fed. Cir. 2011) )。

 

 そのため、意図的に隠された文献に基づき、地裁でクレームが適切に無効と判断されている場合、その文献は非衡平行為の審理において必然的にマテリアルになるとした。

 

 また、隠された文献が地裁でクレームを無効にするのに十分でない場合にも、PTOにおける証明の程度の基準下において特許発行を妨げるものであるならば、その文献は重要なものになるとしている。

 

     A prior art reference “is but-for material if the PTO would not have allowed a claim had it been aware of the undisclosed prior art.” Therasense, 649 F.3d at 1291. Unlike the clear and convincing evidence standard for invalidating a patent in the district court under 35 U.S.C. §§ 102 and 103, the standard for establishing but-for materiality in the inequitable conduct context only requires a preponderance of the evidence, “giv[ing] claims their broadest reasonable construction.” Id. at 1291-92. As a result, when a “claim is properly invalidated in district court based on the deliberately withheld reference, then that reference is necessarily material” for purposes of the inequitable conduct inquiry. Id. at 1292. On the other hand, even if the withheld reference is not sufficient to invalidate the claim in district court, “the reference may be material if it would have blocked patent issuance under the PTO’s different evidentiary standards.” Id.

 

 本件について、CAFCは、開示されなかった先行技術文献が‘561特許および‘512特許を無効にするものであることを支持した。その結果、当該文献はそれらの特許性に対し必然的にマテリアルなものになるとして、地裁の認定に誤りはないと判断した。

 

2. 欺く意図

 

 被告が特定の欺く意図を立証するためには、明確かつ確実な証拠を示すことが要求されている。特定の欺く意図の立証は推定によって行うことが可能であるが、そのためには、当該証拠から取り出され得る単一の最も合理的な推定でなければならない。

 

 本件について、発明者は、USPTOに文献を開示しなかったことに関し、当該文献に記載の実験には8時間での安定性に関するデータがないことから誤りがあり、開示の必要がないと信じていたと証言した。

 そのため、原告はこの証言に基づき、発明者にはUSPTOに対し欺く意図がなかったと主張した。しかし、当該文献には5時間40分から30時間を超える範囲での安定性に関するデータが示されていた。そのため、地裁は発明者の証言を信用できないなどとして原告の主張を認容しなかった。CAFCも、その文献をUSPTOに提出する必要がなかったと発明者が信じていたという証言だけでは、欺く意図がなかったことを示すのに十分でないとして、地裁の判断に誤りはないとの判断を示した。

 

 以上から、CAFCは地裁の判断にはいずれも誤りがないとして、原告の請求を棄却した。

 

 

(判決文) http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/11-1018.pdf