平成23年6月23日判決 平成22年(ネ)10089 食品の包み込み成形方法及びその装置事件
・一部認容・一部棄却
・株式会社コバード 対 レオン自動機株式会社
・特許法101条4号、間接侵害、均等侵害、技術的範囲の充足性
(経緯)
控訴人の株式会社コバード(一審原告)は、「食品の包み込み成形方法及びその装置」(特許第4210779号)の特許発明に関する特許権者である。
控訴人は、被控訴人が被告装置を製造、販売及び販売の申出をした行為は、控訴人の本件特許権1を侵害するものとみなされるものであり(特許法101条4号)、また本件特許権2を均等侵害すると主張して、被告装置の製造、販売等の差止め及び廃棄、並びに損害賠償を求めた。
これに対し原審の東京地裁は、被告方法(被告装置を用いた食品包み込み成形方法)及び被告装置における「ノズル部材」が、いずれも本件発明1、2の「押し込み部材」に当たらないから構成要件を充足しておらず、また、被告方法2及び被告装置2については均等侵害も成立しないとして、控訴人の請求を棄却した(東京地裁平成22年11月25日判決 平成21(ワ)1201号)。本件は、この原判決に不服の控訴人が知財高裁に控訴した事件である。
(本件特許)
1.本件発明1(本件特許権1)
【請求項1】
1A:受け部材の上方に配設した複数のシャッタ片からなるシャッタを開口させた状態で受け部材上にシート状の外皮材を供給し、
1B:シャッタ片を閉じる方向に動作させてその開口面積を縮小して外皮材が所定位置に収まるように位置調整し、
1C:押し込み部材(30)とともに押え部材を下降させて押え部材を外皮材の縁部に押し付けて外皮材を受け部材上に保持し、
1D:押し込み部材(30)をさらに下降させることにより受け部材の開口部に進入させて外皮材の中央部分を開口部に押し込み外皮材を椀状に形成するとともに外皮材を支持部材で支持し、
1E:押し込み部材(30)を通して内材を供給して外皮材に内材を配置し、
1F:外皮材を支持部材で支持した状態でシャッタを閉じ動作させることにより外皮材の周縁部を内材を包むように集めて封着し、
1G:支持部材を下降させて成形品を搬送すること
1H:を特徴とする食品の包み込み成形方法。
(原審の概要)
原審では、主に間接侵害の成否が争われた。当該間接侵害の成否の争点のうち、構成要件1Cの充足性においては、
①被告方法1におけるノズル部材4が、その下端部を生地の中央部分に形成された窪みに当接させる状態で停止されるものではなく、さらに生地Fに深く進入してノズル部材4によって生地Fが椀状に形成されるものであるか否か、
②本件発明の押し込み部材に相当するか否か
が争われた。
①について
被告が提出した証拠により、「ノズル部材4が生地Fに深く進入することによって生地Fを椀状に形成するのではなく、ノズル部材4の下端部を生地Fの中央部分に形成された窪みに当接させる状態で、又は、せいぜい、ノズル部材4の下端部を生地Fに接触させ、生地Fをノズル部材4の下端部の形状に沿う形にわずかに窪ませる程度の状態で、これを停止させ、その後に、ノズル部材4から内材を供給することにより、内材の吐出圧によって生地Fを椀状に膨らませる(椀状に形成する)構成となっていることが認められる。」と認定し、ノズル部材4が生地Fに深く浸入していると認めることはできないと判断した。
②について
原告は、「ノズル部材4は、単に生地Fに当接(接しているだけで圧力を加えない)しているのではなく、生地Fに対して圧力を加えて「押し込み」をしているものであり、ノズル部材4が生地Fを押し込むことによって、生地Fをノズル部材4の先端形状に沿う形(椀状)に形成しているものであるから、ノズル部材4は本件発明1における「押し込み部材」に相当する」と主張した。
この点について、東京地裁は、先ず、「「椀 」とは、「汁・飯などを盛る木製の食器・多くは漆塗で蓋がある。」という意味を有するものである(乙30)から、・・・ノズル部材4の下端部が生地Fに接触することによって生地Fをノズル部材4の下端部の形状に沿う形にわずかに窪ませる程度のことをもって、「椀状に形成する」に当たると解することは、「椀」という語の通常の用法に沿うものとは認められない。」とした。
さらに、「本件発明1における「押し込み部材」とは、単に、同部材の下端部を外皮材の中央部分に形成された窪みに当接させる状態で停止し、又は、せいぜい、同部材の下端部を外皮材に接触させ、外皮材を同部材の下端部の形状に沿う形にわずかに窪ませる程度の状態で停止するものではなく、「外皮材が必要以上に下方へ伸びてしまうこと」及び「押し込み部材の上昇に伴い外皮材が収縮するのを防ぐ」必要がある程度に、深く外皮材に進入し、外皮材の縁部周辺を伸ばしながら外皮材を椀状に形成することを想定しているといえ、同部材によって、外皮材を成形品の高さと同程度の深さに「椀」形の形状に形成し、同部材によって形成された椀状の部分の中に内材が吐出されるものを意味すると解するのが相当である。」として、被告装置1ノズル部材4は、本件発明1の「押し込み部材」には当たらないと判断した。
(知財高裁の判断)
1.被告方法1による本件特許権1の間接侵害の成否
この争点においては、下記の通り、構成要件1C~1Eの充足性が争われている。
(1)構成要件1Cの充足性
構成要件1Cの充足性においては、「押し込み部材とともに押え部材を下降させて」の解釈が問題となった。
すなわち、控訴人は、「「押し込み部材とともに押え部材を下降させて」について、押し込み部材と押え部材が同時に下降する場合のみならず、押え部材の下降が完了する前から押し込み部材の下降が開始される場合を含むと主張し、被控訴人は、押え部材のみが下降する場合は含まない」と主張した。
これに対し、知財高裁は、「「…ともに…」の通常の用語の解釈によれば、押し込み部材と押え部材とが、ともに、すなわち一緒に下降することと解釈するのが自然ではあるが、構成要件1Cには、押え部材を下降させ、これを外皮材の縁部に押し付けて外皮材を受け部材上に保持することが記載され、押え部材の役割を中心に記載されている。構成要件1Cに続く構成要件1Dにおいて、押し込み部材が更に下降することが記載されており、本件明細書には、押し込み部材と押え部材とが一緒に下降することの技術的意義は何ら記載がないことに照らすと、構成要件1Cの「押し込み部材とともに押え部材を下降させて」は、押し込み部材と押え部材とがいずれも下降することを表しているものであって、両者が同時に下降する場合のみならず、押え部材の下降が完了する前から押し込み部材の下降が開始される場合を含むと解するのが相当である。」と判断した。
そして、「被告方法1の「生地押え部材」は本件発明1の「押え部材」に相当し、被告方法1の「載置部材」は本件発明1の「受け部材」に相当するから、被告方法1は、構成要件1Cの「押え部材を下降させて押え部材を外皮材の縁部に押し付けて外皮材を受け部材上に保持し」を充足する。」とし、また、「被告方法1において、生地押え部材が下降するほか、ノズル部材も下降するのであって、両者が同時に下降するように、又は生地押え部材の下降が完了する前からノズル部材の下降を開始するように、制御することが可能であるから、構成要件1Cの「押し込み部材とともに…下降し」も充足する。」と判断した。
(2)構成要件1Dの充足性
先ず、「椀状に形成する」の解釈について、知財高裁は、「本件発明1において、押し込み部材によって外皮材を「椀状に形成する」ことの意義は、外皮材の性状にかかわらず、押し込み部材が一定程度の深さまで下降することによって、外皮材を押し込み部材の先端形状に沿った「椀状」の形状に形成させるようにし、内材の配置及び封着ができるようにしたことにあるというべきである。そして、「椀状」の程度については、特許請求の範囲に何らの限定もなく、特許技術用語としても、浅いか深いかを問わずに「椀状」という用語を用いている例があることに照らすと、原判決が認定するように「成形品の高さと同程度の深さ」というほど深いものである必要はなく、その後内材の配置及び封着ができるものであれば足り、浅いか深いかを問わないものということができる。」と判示した。
そして、被告方法1においも、「ノズル部材の下端部を生地に接触させ、生地をノズル部材の下端部の形状に沿う形に窪ませる程度に使用されるが、ノズル部材を下降させることにより、その下端を載置部材の開口部に、下面から深さ7ないし15㎜の位置まで進入させることができ、これにより、生地の中央部を押し込み、生地にノズル部材の先端形状に沿った窪みを形成するとともに、生地を載置部材で支持するように使用することができる。」とし、「浅いか深いかを問わずに構成要件1Dの「椀状」ということができることに照らすと、被告方法1において、ノズル部材の下端を載置部材の開口部に、下面から深さ7ないし15㎜の位置まで進入させることにより、生地の中央部に形成した窪みも、「椀状」ということができる。」として、被告方法1は構成要件1Dを充足すると判示した。
(3)構成要件1Eの充足性
構成要件1Eの「押し込み部材を通して内材を供給して外皮材に内材を配置」については、本件明細書において、「押し込み部材を通して内材を供給しているので、押し込み部材の上昇に伴って外皮材が収縮するのを防ぐことができると共に、外皮材の形状形成と内材の供給を短時間に効率良く行うことが可能となることが記載されているから(【0010】)、押し込み部材が一定の深さで外皮材に進入することにより、外皮材を「椀状」に形成し、その後押し込み部材を上昇させながら、形成された椀状の部分の中に内材を配置することを想定して上記作用効果が記載されているとはいえるものの、そのような配置以外の方法を除外しているわけではな」いとして、「押し込み部材が一定程度の深さまで外皮材に進入し、外皮材を「椀状」に形成し(構成要件1D)、押し込み部材から内材を供給して外皮材に内材が配置されるものであれば、構成要件1Eを充足するということができる。」とした。
その上で、被告方法1の充足性については、「被告方法1も、ノズル部材を通して、生地の窪みに内材を供給し、生地に内材を配置するものである点においてかわりはないから、被告方法1の「ノズル部材」が本件発明1の「押し込み部材」に該当し、被告方法1は、本件発明1の構成要件1Eを充足する。」と判示した。
(4)間接侵害の成否(101条4号)
先ず、101条4号について、知財高裁は、「特許発明に係る方法の使用に用いる物に、当該特許発明を実施しない使用方法自体が存する場合であっても、当該特許発明を実施しない機能のみを使用し続けながら、当該特許発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が、その物の経済的、商業的又は実用的な使用形態として認められない限り、その物を製造、販売等することによって侵害行為が誘発される蓋然性が極めて高いことに変わりはないというべきであるから、なお「その方法の使用にのみ用いる物」に当たると解するのが相当である。」と述べ、本件における被告装置1については、以下の通り判示した。
すなわち、「被告装置1において、ストッパーの位置を変更したり、ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが不可能ではなく、かつノズル部材をより深く下降させた方が実用的であることは、前記のとおりである。そうすると、仮に被控訴人がノズル部材が1㎜以下に下降できない状態で納品していたとしても、例えば、ノズル部材が窪みを形成することがないよう下降しないようにストッパーを設け、そのストッパーの位置を変更したり、ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが物理的にも不可能になっているなど、本件発明1を実施しない機能のみを使用し続けながら、本件発明1を実施する機能は全く使用しないという使用形態を、被告装置1の経済的、商業的又は実用的な使用形態として認めることはできない。したがって、被告装置1は、「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ない。」とした。
以上の結果、被告装置1の製造、販売及び販売の申出をする行為は、本件特許権1を侵害するものとみなされると判断した。
2.被告方法2による本件特許権1の間接侵害の成否
この争点においては、下記の通り、被告方法2が、本件発明1の構成要件1Cの構成と均等なものか否かが争われている(他の構成要件の充足性については省略する)。
先ず、均等侵害の第1要件に関し、知財高裁は、本件発明1においては、「シャッタ片及び載置部材と、ノズル部材及び生地押え部材とが相対的に接近することは重要であるが、いずれの側を昇降させるかは技術的に重要であるとはいえない。よって、本件発明1がノズル部材及び生地押え部材を下降させてシャッタ片及び載置部材に接近させているのに対し、被告方法2がシャッタ片及び載置部材を上昇させることによってノズル部材及び生地押え部材に接近させているという相違部分は、本件発明1の本質的部分とはいえない。」とした。
また、均等侵害の第2要件については、「ノズル部材及び生地押え部材を下降させてシャッタ片及び載置部材に接近させているのに代えて、押し込み部材の下降はなく、シャッタ片及び載置部材を上昇させてノズル部材及び生地押え部材に接近させる被告方法2によっても、外皮材が所定位置に収まるように外皮材の位置調整を行うことができ、外皮材の形状のばらつきや位置ずれがあらかじめ修正され、より確実な成形処理を行うことが可能であり・・・、より安定的に外皮材を戴置し、確実に押え保持することができ・・・、装置構成を極めて簡素化することができる・・・といった本件発明1と同一の作用効果を奏することができる。」として、当該第2要件を満たすと判断した。
さらに、均等侵害の第3要件については、本件発明1と被告方法2の構成の相違が、「ノズル部材及び生地押え部材を載置部材上の生地に接近させるための動作に関して、単に、上方の部材を下降させるか、下方の部材を上昇させるかの違いにすぎない。」として、被告方法2の上記構成に想到することは、当業者にとって容易であると判断した。
(2)間接侵害の成否(101条4号)
その他の構成要件についても充足することから、被告方法2は、本件発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属し、被告装置2は、本件発明1の「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ないから、被告装置2の製造、販売及び販売の申し出をする行為は、本件特許権1を侵害するものとみなされる、と判示した。
3.その他の争点
被告方法2及び3による本件特許権1の間接侵害の成否、被告装置1~3による本件特許権2の侵害の成否、無効の抗弁、損害については省略。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110701142844.pdf
平成23年6月23日判決 平成22年(ネ)10089 食品の包み込み成形方法及びその装置事件
・一部認容・一部棄却
・株式会社コバード 対 レオン自動機株式会社
・特許法101条4号、間接侵害、均等侵害、技術的範囲の充足性
(経緯)
控訴人の株式会社コバード(一審原告)は、「食品の包み込み成形方法及びその装置」(特許第4210779号)の特許発明に関する特許権者である。
控訴人は、被控訴人が被告装置を製造、販売及び販売の申出をした行為は、控訴人の本件特許権1を侵害するものとみなされるものであり(特許法101条4号)、また本件特許権2を均等侵害すると主張して、被告装置の製造、販売等の差止め及び廃棄、並びに損害賠償を求めた。
これに対し原審の東京地裁は、被告方法(被告装置を用いた食品包み込み成形方法)及び被告装置における「ノズル部材」が、いずれも本件発明1、2の「押し込み部材」に当たらないから構成要件を充足しておらず、また、被告方法2及び被告装置2については均等侵害も成立しないとして、控訴人の請求を棄却した(東京地裁平成22年11月25日判決 平成21(ワ)1201号)。本件は、この原判決に不服の控訴人が知財高裁に控訴した事件である。
(本件特許)
1.本件発明1(本件特許権1)
【請求項1】
1A:受け部材の上方に配設した複数のシャッタ片からなるシャッタを開口させた状態で受け部材上にシート状の外皮材を供給し、
1B:シャッタ片を閉じる方向に動作させてその開口面積を縮小して外皮材が所定位置に収まるように位置調整し、
1C:押し込み部材(30)とともに押え部材を下降させて押え部材を外皮材の縁部に押し付けて外皮材を受け部材上に保持し、
1D:押し込み部材(30)をさらに下降させることにより受け部材の開口部に進入させて外皮材の中央部分を開口部に押し込み外皮材を椀状に形成するとともに外皮材を支持部材で支持し、
1E:押し込み部材(30)を通して内材を供給して外皮材に内材を配置し、
1F:外皮材を支持部材で支持した状態でシャッタを閉じ動作させることにより外皮材の周縁部を内材を包むように集めて封着し、
1G:支持部材を下降させて成形品を搬送すること
1H:を特徴とする食品の包み込み成形方法。
(原審の概要)
原審では、主に間接侵害の成否が争われた。当該間接侵害の成否の争点のうち、構成要件1Cの充足性においては、
①被告方法1におけるノズル部材4が、その下端部を生地の中央部分に形成された窪みに当接させる状態で停止されるものではなく、さらに生地Fに深く進入してノズル部材4によって生地Fが椀状に形成されるものであるか否か、
②本件発明の押し込み部材に相当するか否か
が争われた。
①について
被告が提出した証拠により、「ノズル部材4が生地Fに深く進入することによって生地Fを椀状に形成するのではなく、ノズル部材4の下端部を生地Fの中央部分に形成された窪みに当接させる状態で、又は、せいぜい、ノズル部材4の下端部を生地Fに接触させ、生地Fをノズル部材4の下端部の形状に沿う形にわずかに窪ませる程度の状態で、これを停止させ、その後に、ノズル部材4から内材を供給することにより、内材の吐出圧によって生地Fを椀状に膨らませる(椀状に形成する)構成となっていることが認められる。」と認定し、ノズル部材4が生地Fに深く浸入していると認めることはできないと判断した。
②について
原告は、「ノズル部材4は、単に生地Fに当接(接しているだけで圧力を加えない)しているのではなく、生地Fに対して圧力を加えて「押し込み」をしているものであり、ノズル部材4が生地Fを押し込むことによって、生地Fをノズル部材4の先端形状に沿う形(椀状)に形成しているものであるから、ノズル部材4は本件発明1における「押し込み部材」に相当する」と主張した。
この点について、東京地裁は、先ず、「「椀 」とは、「汁・飯などを盛る木製の食器・多くは漆塗で蓋がある。」という意味を有するものである(乙30)から、・・・ノズル部材4の下端部が生地Fに接触することによって生地Fをノズル部材4の下端部の形状に沿う形にわずかに窪ませる程度のことをもって、「椀状に形成する」に当たると解することは、「椀」という語の通常の用法に沿うものとは認められない。」とした。
さらに、「本件発明1における「押し込み部材」とは、単に、同部材の下端部を外皮材の中央部分に形成された窪みに当接させる状態で停止し、又は、せいぜい、同部材の下端部を外皮材に接触させ、外皮材を同部材の下端部の形状に沿う形にわずかに窪ませる程度の状態で停止するものではなく、「外皮材が必要以上に下方へ伸びてしまうこと」及び「押し込み部材の上昇に伴い外皮材が収縮するのを防ぐ」必要がある程度に、深く外皮材に進入し、外皮材の縁部周辺を伸ばしながら外皮材を椀状に形成することを想定しているといえ、同部材によって、外皮材を成形品の高さと同程度の深さに「椀」形の形状に形成し、同部材によって形成された椀状の部分の中に内材が吐出されるものを意味すると解するのが相当である。」として、被告装置1ノズル部材4は、本件発明1の「押し込み部材」には当たらないと判断した。
(知財高裁の判断)
1.被告方法1による本件特許権1の間接侵害の成否
この争点においては、下記の通り、構成要件1C~1Eの充足性が争われている。
(1)構成要件1Cの充足性
構成要件1Cの充足性においては、「押し込み部材とともに押え部材を下降させて」の解釈が問題となった。
すなわち、控訴人は、「「押し込み部材とともに押え部材を下降させて」について、押し込み部材と押え部材が同時に下降する場合のみならず、押え部材の下降が完了する前から押し込み部材の下降が開始される場合を含むと主張し、被控訴人は、押え部材のみが下降する場合は含まない」と主張した。
これに対し、知財高裁は、「「…ともに…」の通常の用語の解釈によれば、押し込み部材と押え部材とが、ともに、すなわち一緒に下降することと解釈するのが自然ではあるが、構成要件1Cには、押え部材を下降させ、これを外皮材の縁部に押し付けて外皮材を受け部材上に保持することが記載され、押え部材の役割を中心に記載されている。構成要件1Cに続く構成要件1Dにおいて、押し込み部材が更に下降することが記載されており、本件明細書には、押し込み部材と押え部材とが一緒に下降することの技術的意義は何ら記載がないことに照らすと、構成要件1Cの「押し込み部材とともに押え部材を下降させて」は、押し込み部材と押え部材とがいずれも下降することを表しているものであって、両者が同時に下降する場合のみならず、押え部材の下降が完了する前から押し込み部材の下降が開始される場合を含むと解するのが相当である。」と判断した。
そして、「被告方法1の「生地押え部材」は本件発明1の「押え部材」に相当し、被告方法1の「載置部材」は本件発明1の「受け部材」に相当するから、被告方法1は、構成要件1Cの「押え部材を下降させて押え部材を外皮材の縁部に押し付けて外皮材を受け部材上に保持し」を充足する。」とし、また、「被告方法1において、生地押え部材が下降するほか、ノズル部材も下降するのであって、両者が同時に下降するように、又は生地押え部材の下降が完了する前からノズル部材の下降を開始するように、制御することが可能であるから、構成要件1Cの「押し込み部材とともに…下降し」も充足する。」と判断した。
(2)構成要件1Dの充足性
先ず、「椀状に形成する」の解釈について、知財高裁は、「本件発明1において、押し込み部材によって外皮材を「椀状に形成する」ことの意義は、外皮材の性状にかかわらず、押し込み部材が一定程度の深さまで下降することによって、外皮材を押し込み部材の先端形状に沿った「椀状」の形状に形成させるようにし、内材の配置及び封着ができるようにしたことにあるというべきである。そして、「椀状」の程度については、特許請求の範囲に何らの限定もなく、特許技術用語としても、浅いか深いかを問わずに「椀状」という用語を用いている例があることに照らすと、原判決が認定するように「成形品の高さと同程度の深さ」というほど深いものである必要はなく、その後内材の配置及び封着ができるものであれば足り、浅いか深いかを問わないものということができる。」と判示した。
そして、被告方法1においも、「ノズル部材の下端部を生地に接触させ、生地をノズル部材の下端部の形状に沿う形に窪ませる程度に使用されるが、ノズル部材を下降させることにより、その下端を載置部材の開口部に、下面から深さ7ないし15㎜の位置まで進入させることができ、これにより、生地の中央部を押し込み、生地にノズル部材の先端形状に沿った窪みを形成するとともに、生地を載置部材で支持するように使用することができる。」とし、「浅いか深いかを問わずに構成要件1Dの「椀状」ということができることに照らすと、被告方法1において、ノズル部材の下端を載置部材の開口部に、下面から深さ7ないし15㎜の位置まで進入させることにより、生地の中央部に形成した窪みも、「椀状」ということができる。」として、被告方法1は構成要件1Dを充足すると判示した。
(3)構成要件1Eの充足性
構成要件1Eの「押し込み部材を通して内材を供給して外皮材に内材を配置」については、本件明細書において、「押し込み部材を通して内材を供給しているので、押し込み部材の上昇に伴って外皮材が収縮するのを防ぐことができると共に、外皮材の形状形成と内材の供給を短時間に効率良く行うことが可能となることが記載されているから(【0010】)、押し込み部材が一定の深さで外皮材に進入することにより、外皮材を「椀状」に形成し、その後押し込み部材を上昇させながら、形成された椀状の部分の中に内材を配置することを想定して上記作用効果が記載されているとはいえるものの、そのような配置以外の方法を除外しているわけではな」いとして、「押し込み部材が一定程度の深さまで外皮材に進入し、外皮材を「椀状」に形成し(構成要件1D)、押し込み部材から内材を供給して外皮材に内材が配置されるものであれば、構成要件1Eを充足するということができる。」とした。
その上で、被告方法1の充足性については、「被告方法1も、ノズル部材を通して、生地の窪みに内材を供給し、生地に内材を配置するものである点においてかわりはないから、被告方法1の「ノズル部材」が本件発明1の「押し込み部材」に該当し、被告方法1は、本件発明1の構成要件1Eを充足する。」と判示した。
(4)間接侵害の成否(101条4号)
先ず、101条4号について、知財高裁は、「特許発明に係る方法の使用に用いる物に、当該特許発明を実施しない使用方法自体が存する場合であっても、当該特許発明を実施しない機能のみを使用し続けながら、当該特許発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が、その物の経済的、商業的又は実用的な使用形態として認められない限り、その物を製造、販売等することによって侵害行為が誘発される蓋然性が極めて高いことに変わりはないというべきであるから、なお「その方法の使用にのみ用いる物」に当たると解するのが相当である。」と述べ、本件における被告装置1については、以下の通り判示した。
すなわち、「被告装置1において、ストッパーの位置を変更したり、ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが不可能ではなく、かつノズル部材をより深く下降させた方が実用的であることは、前記のとおりである。そうすると、仮に被控訴人がノズル部材が1㎜以下に下降できない状態で納品していたとしても、例えば、ノズル部材が窪みを形成することがないよう下降しないようにストッパーを設け、そのストッパーの位置を変更したり、ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが物理的にも不可能になっているなど、本件発明1を実施しない機能のみを使用し続けながら、本件発明1を実施する機能は全く使用しないという使用形態を、被告装置1の経済的、商業的又は実用的な使用形態として認めることはできない。したがって、被告装置1は、「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ない。」とした。
以上の結果、被告装置1の製造、販売及び販売の申出をする行為は、本件特許権1を侵害するものとみなされると判断した。
2.被告方法2による本件特許権1の間接侵害の成否
この争点においては、下記の通り、被告方法2が、本件発明1の構成要件1Cの構成と均等なものか否かが争われている(他の構成要件の充足性については省略する)。
(1)構成要件1Cの充足性
先ず、均等侵害の第1要件に関し、知財高裁は、本件発明1においては、「シャッタ片及び載置部材と、ノズル部材及び生地押え部材とが相対的に接近することは重要であるが、いずれの側を昇降させるかは技術的に重要であるとはいえない。よって、本件発明1がノズル部材及び生地押え部材を下降させてシャッタ片及び載置部材に接近させているのに対し、被告方法2がシャッタ片及び載置部材を上昇させることによってノズル部材及び生地押え部材に接近させているという相違部分は、本件発明1の本質的部分とはいえない。」とした。
また、均等侵害の第2要件については、「ノズル部材及び生地押え部材を下降させてシャッタ片及び載置部材に接近させているのに代えて、押し込み部材の下降はなく、シャッタ片及び載置部材を上昇させてノズル部材及び生地押え部材に接近させる被告方法2によっても、外皮材が所定位置に収まるように外皮材の位置調整を行うことができ、外皮材の形状のばらつきや位置ずれがあらかじめ修正され、より確実な成形処理を行うことが可能であり・・・、より安定的に外皮材を戴置し、確実に押え保持することができ・・・、装置構成を極めて簡素化することができる・・・といった本件発明1と同一の作用効果を奏することができる。」として、当該第2要件を満たすと判断した。
さらに、均等侵害の第3要件については、本件発明1と被告方法2の構成の相違が、「ノズル部材及び生地押え部材を載置部材上の生地に接近させるための動作に関して、単に、上方の部材を下降させるか、下方の部材を上昇させるかの違いにすぎない。」として、被告方法2の上記構成に想到することは、当業者にとって容易であると判断した。
(2)間接侵害の成否(101条4号)
その他の構成要件についても充足することから、被告方法2は、本件発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属し、被告装置2は、本件発明1の「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ないから、被告装置2の製造、販売及び販売の申し出をする行為は、本件特許権1を侵害するものとみなされる、と判示した。
3.その他の争点
被告方法2及び3による本件特許権1の間接侵害の成否、被告装置1~3による本件特許権2の侵害の成否、無効の抗弁、損害については省略。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110701142844.pdf