平成21(行ケ)10379号 ロール状連続貝係止具事件 判決日:平成22年11月30日
・請求棄却
・特許法123条1項6号、冒認出願、立証責任
原告は、特許第3924302号(発明の名称「貝係止具と、集合貝係止具と、連続貝係止具と、ロール状連続貝係止具」)の特許権者として登録された者である。被告は、原告の特許は冒認出願により登録されたものであり、123条1項6号に違反するとして無効審判を請求した。 特許庁は無効審決したので、これに不服の原告が知財高裁に訴えを提起した。
(冒認出願に係る事実の主張立証責任)
知財高裁は、冒認出願に係る事実の立証責任は、形式的には特許権者が負担すべきと判示している。
「123条1項6号は、「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。」(冒認出願)を、特許無効事由の一つとして挙げている。同規定によれば、「その特許が発明者でない者・・・に対してされたとき」との事実が存在することの主張、立証は、無効審判請求人が負担すると解する余地もないわけではない。しかし、このような規定振りは、同条の立法技術的な理由に由来するものであることに照らすならば、無効事由の一つを規定した123条1項6号が、29条1項における主張立証責任の原則を変更したものと解することは妥当でない。したがって、123条1項6号を理由として請求された特許無効審判において、「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は、少なくとも形式的には、特許権者が負担すると解すべきである。」
(主張立証の程度)
しかし、特許権者が、正当な者によって当該特許出願がされたとの事実をどの程度、具体的に主張立証すべきかは、無効審判請求人のした冒認出願を疑わせる事実に関する主張や立証の内容及び程度に左右されるとも判示している。
「 もっとも、123条1項6号を理由とする特許無効審判における主張立証責任の分配について、上記のように解したとしても、そのことは、「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者である」との事実を、特許権者において、すべての過程を個別的、具体的に主張立証しない限り立証が成功しないことを意味するものではなく、むしろ、特段の事情のない限り、「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者である」ことは、先に出願されたことによって、事実上の推定が働くことが少なくないというべきである。 無効審判請求において、特許権者が、正当な者によって当該特許出願がされたとの事実をどの程度、具体的に主張立証すべきかは、無効審判請求人のした冒認出願を疑わせる事実に関する主張や立証の内容及び程度に左右されるといえる。」
その結果、冒認出願の当否については、
・発明の属する技術分野が先端的な技術分野か否か、
・発明が専門的な技術、知識、経験を有することを前提とするか否か、
・実施例の検証等に大規模な設備や長い時間を要する性質のものであるか否か、
・発明者とされている者が発明の属する技術分野についてどの程度の知見を有しているか、
・発明者と主張する者が複数存在する場合に、その間の具体的実情や相互関係がどのようなものであったか
などの個別的な事情を総合考慮して、認定すべきとしている。
本件に於いては、特許権者である原告が合理的な立証を尽くしていないとして、請求が棄却された。
尚、知財高裁平成17(行ケ)10193号は、「たしかに、特許法123条1項6号は、「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき」に、特許無効審判を請求することができると規定しているものであって、当該規定の文言をみる限り、審判請求人において当該事由の主張立証責任を負担するようにも見えるが、特許法123条1項各号をもって各無効事由について主張立証責任の分配を定めた規定と解することはできず、無効審判における主張立証責任は、特許無効を来すものとされている各事由の内容に応じて、それぞれ判断されなければならない。」と判示している。
また、本件と同旨の裁判例としては、知財高裁平成20(行ケ)10427号、10428号、10429号などがある。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101130164831.pdf
平成21(行ケ)10379号 ロール状連続貝係止具事件 判決日:平成22年11月30日
・請求棄却
・特許法123条1項6号、冒認出願、立証責任
原告は、特許第3924302号(発明の名称「貝係止具と、集合貝係止具と、連続貝係止具と、ロール状連続貝係止具」)の特許権者として登録された者である。被告は、原告の特許は冒認出願により登録されたものであり、123条1項6号に違反するとして無効審判を請求した。 特許庁は無効審決したので、これに不服の原告が知財高裁に訴えを提起した。
(冒認出願に係る事実の主張立証責任)
知財高裁は、冒認出願に係る事実の立証責任は、形式的には特許権者が負担すべきと判示している。
「123条1項6号は、「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。」(冒認出願)を、特許無効事由の一つとして挙げている。同規定によれば、「その特許が発明者でない者・・・に対してされたとき」との事実が存在することの主張、立証は、無効審判請求人が負担すると解する余地もないわけではない。しかし、このような規定振りは、同条の立法技術的な理由に由来するものであることに照らすならば、無効事由の一つを規定した123条1項6号が、29条1項における主張立証責任の原則を変更したものと解することは妥当でない。したがって、123条1項6号を理由として請求された特許無効審判において、「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は、少なくとも形式的には、特許権者が負担すると解すべきである。」
(主張立証の程度)
しかし、特許権者が、正当な者によって当該特許出願がされたとの事実をどの程度、具体的に主張立証すべきかは、無効審判請求人のした冒認出願を疑わせる事実に関する主張や立証の内容及び程度に左右されるとも判示している。
「 もっとも、123条1項6号を理由とする特許無効審判における主張立証責任の分配について、上記のように解したとしても、そのことは、「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者である」との事実を、特許権者において、すべての過程を個別的、具体的に主張立証しない限り立証が成功しないことを意味するものではなく、むしろ、特段の事情のない限り、「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者である」ことは、先に出願されたことによって、事実上の推定が働くことが少なくないというべきである。 無効審判請求において、特許権者が、正当な者によって当該特許出願がされたとの事実をどの程度、具体的に主張立証すべきかは、無効審判請求人のした冒認出願を疑わせる事実に関する主張や立証の内容及び程度に左右されるといえる。」
その結果、冒認出願の当否については、
・発明の属する技術分野が先端的な技術分野か否か、
・発明が専門的な技術、知識、経験を有することを前提とするか否か、
・実施例の検証等に大規模な設備や長い時間を要する性質のものであるか否か、
・発明者とされている者が発明の属する技術分野についてどの程度の知見を有しているか、
・発明者と主張する者が複数存在する場合に、その間の具体的実情や相互関係がどのようなものであったか
などの個別的な事情を総合考慮して、認定すべきとしている。
本件に於いては、特許権者である原告が合理的な立証を尽くしていないとして、請求が棄却された。
尚、知財高裁平成17(行ケ)10193号は、「たしかに、特許法123条1項6号は、「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき」に、特許無効審判を請求することができると規定しているものであって、当該規定の文言をみる限り、審判請求人において当該事由の主張立証責任を負担するようにも見えるが、特許法123条1項各号をもって各無効事由について主張立証責任の分配を定めた規定と解することはできず、無効審判における主張立証責任は、特許無効を来すものとされている各事由の内容に応じて、それぞれ判断されなければならない。」と判示している。
また、本件と同旨の裁判例としては、知財高裁平成20(行ケ)10427号、10428号、10429号などがある。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101130164831.pdf