平成22年(行ケ)第10064号 被覆ベルト用基材事件 平成22年10月28日判決
・特許法17条の2第3項、29条2項、新規事項の追加、新たな技術的事項の導入、進歩性
・アルバニーインターナショナルコーポレイション 対 特許庁長官
発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく、相違点を、ことさらに細かく分けて認定し、それぞれの相違点が、他の先行技術を組み合わせることによって、容易であると判断することは、本来、進歩性が肯定されるべき発明に対して、正当に判断されることなく、進歩性が否定される結果を生じることがあり得ると述べた。
原告の特許出願は、「被覆ベルト用基材」の発明に関するものである(特願2000-249815号)。 特許庁は、不服審判において、審査中に行った補正が新たな技術的事項の導入であるとして、17条の2第3項違反を理由に補正を却下した(主位的理由)。また、新たな技術的事項の導入でないとしても、補正後の発明は進歩性がないと判断した(副位的理由)。
本件訴訟において、原告は、①本件補正が新たな技術的事項の導入であるとした審決の判断の誤り、②補正後の発明が進歩性欠如による独立特許要件を欠くとした判断の誤りなどを取消事由として主張した。
尚、本件訴訟で争点となった補正は、出願当初は、第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料の異同を限定していなかった請求項39において、「前記第一高分子樹脂材料及び前記第二高分子樹脂材料は、互いに異なるポリウレタン樹脂である」との文言を追加したものである。
また、進歩性欠如の判断の誤りについては、本件発明と引用発明との相違点が1~6まであったところ、原告は相違点1~5についての認定・判断については争わず、相違点6のみ争った。
知財高裁第3部は、以下の通り判断した。
①新たな技術的事項の導入か否か
本願発明の第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料は、ともにポリウレタン樹脂材料である場合があって、両者は親和性を示し、化学的に結合するものであるから、当初明細書には、両ポリウレタン樹脂が化学的に結合するものであること(両者が化学的に結合する反応性基をそれぞれの分子内に有すること)を前提として、両者が同一である場合と、互いに異なる場合の双方の技術が開示されているとし、本件補正は新たな技術的事項の導入ではない。
②補正後の発明が進歩性欠如による独立特許要件を欠くか否か
引用発明の第三重合体樹脂及び第一重合体樹脂はともにポリウレタン樹脂であること、第三重合体樹脂は第一重合体樹脂に化学的な親和力を持つこと、第一重合体樹脂が第三重合体樹脂に化学的に結合するものであることを挙げ、第三重合体樹脂及び第一重合体樹脂として互いに異なるポリウレタン樹脂を選択することに格別の困難はなく、阻害要因もない。
その結果、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたと判示した。
尚、知財高裁は、尚書きにおいて、引用発明との相違点の認定に関し、次の通り述べている。
「本願補正発明の進歩性の有無を判断するに当たり、審決は、本願補正発明と引用発明との相違点を認定したが、その認定の方法は、著しく適切を欠く。すなわち、審決は、発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく、相違点を、ことさらに細かく分けて(本件では6個)、認定した上で、それぞれの相違点が、他の先行技術を組み合わせることによって、容易であると判断した。このような判断手法を用いると、本来であれば、進歩性が肯定されるべき発明に対しても、正当に判断されることなく、進歩性が否定される結果を生じることがあり得る。相違点の認定は、発明の技術的課題の解決の観点から、まとまりのある構成を単位として認定されるべきであり、この点を逸脱した審決における相違点の認定手法は、適切を欠く。」
平成22年(行ケ)第10064号 被覆ベルト用基材事件 平成22年10月28日判決
・特許法17条の2第3項、29条2項、新規事項の追加、新たな技術的事項の導入、進歩性
・アルバニーインターナショナルコーポレイション 対 特許庁長官
発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく、相違点を、ことさらに細かく分けて認定し、それぞれの相違点が、他の先行技術を組み合わせることによって、容易であると判断することは、本来、進歩性が肯定されるべき発明に対して、正当に判断されることなく、進歩性が否定される結果を生じることがあり得ると述べた。
原告の特許出願は、「被覆ベルト用基材」の発明に関するものである(特願2000-249815号)。 特許庁は、不服審判において、審査中に行った補正が新たな技術的事項の導入であるとして、17条の2第3項違反を理由に補正を却下した(主位的理由)。また、新たな技術的事項の導入でないとしても、補正後の発明は進歩性がないと判断した(副位的理由)。
本件訴訟において、原告は、①本件補正が新たな技術的事項の導入であるとした審決の判断の誤り、②補正後の発明が進歩性欠如による独立特許要件を欠くとした判断の誤りなどを取消事由として主張した。
尚、本件訴訟で争点となった補正は、出願当初は、第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料の異同を限定していなかった請求項39において、「前記第一高分子樹脂材料及び前記第二高分子樹脂材料は、互いに異なるポリウレタン樹脂である」との文言を追加したものである。
また、進歩性欠如の判断の誤りについては、本件発明と引用発明との相違点が1~6まであったところ、原告は相違点1~5についての認定・判断については争わず、相違点6のみ争った。
知財高裁第3部は、以下の通り判断した。
①新たな技術的事項の導入か否か
本願発明の第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料は、ともにポリウレタン樹脂材料である場合があって、両者は親和性を示し、化学的に結合するものであるから、当初明細書には、両ポリウレタン樹脂が化学的に結合するものであること(両者が化学的に結合する反応性基をそれぞれの分子内に有すること)を前提として、両者が同一である場合と、互いに異なる場合の双方の技術が開示されているとし、本件補正は新たな技術的事項の導入ではない。
②補正後の発明が進歩性欠如による独立特許要件を欠くか否か
引用発明の第三重合体樹脂及び第一重合体樹脂はともにポリウレタン樹脂であること、第三重合体樹脂は第一重合体樹脂に化学的な親和力を持つこと、第一重合体樹脂が第三重合体樹脂に化学的に結合するものであることを挙げ、第三重合体樹脂及び第一重合体樹脂として互いに異なるポリウレタン樹脂を選択することに格別の困難はなく、阻害要因もない。
その結果、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたと判示した。
尚、知財高裁は、尚書きにおいて、引用発明との相違点の認定に関し、次の通り述べている。
「本願補正発明の進歩性の有無を判断するに当たり、審決は、本願補正発明と引用発明との相違点を認定したが、その認定の方法は、著しく適切を欠く。すなわち、審決は、発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく、相違点を、ことさらに細かく分けて(本件では6個)、認定した上で、それぞれの相違点が、他の先行技術を組み合わせることによって、容易であると判断した。このような判断手法を用いると、本来であれば、進歩性が肯定されるべき発明に対しても、正当に判断されることなく、進歩性が否定される結果を生じることがあり得る。相違点の認定は、発明の技術的課題の解決の観点から、まとまりのある構成を単位として認定されるべきであり、この点を逸脱した審決における相違点の認定手法は、適切を欠く。」