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判例・実務情報

(知財高裁、特許) 技術的特徴ではない部分についても、実施可能要件及びサポート要件として網羅的に実施例を開示することは要求されていない。



Date.2010年12月19日

平成21(行ケ)10252号 電気スイッチ事件 判決日:平成22年07月28日

 

・請求棄却 

・平成6年特許法36条4項、36条5項1号、実施可能要件、サポート要件 

・IDEC株式会社 対 Georg Schlegel GmbH & Co. KG

 

 原告は、被告の「押し棒を有する電気スイッチ」に関する特許(特許第2597526号)に対して、実施可能要件違反、およびサポート要件違反を理由として、無効審判を請求した。特許庁は、請求不成立の審決をしたことから、これに不服の原告がその取消しを求めた事案である。

 

 本件発明は、以下の通りである。

 

【請求項1】

 a.電気回路の接点を開閉する接点具と、

 b.その接点具を開閉する為に操作する作動部と、

 c.作動部の動きを接点具に伝える押し棒とを有し、

 d.接点具が電気回路を閉じて電気回路を接続した状態と、接点具が電気回路を開いて電気回路を遮断し得る状態の2つを有する押し棒を有する電気スイッチに於いて、

 e.上記接点具は

  e-1.作動部と接点具を有する接点保持部が一体結合された状態で押し棒が停止状態の時に閉じていて電気回路を接続と成し、

  e-2.作動部の操作によって押し棒が押下された時に開いて、電気回路を遮断となす以外に、

  e-3.作動部と接点保持部を分離した時に接点具がバネの作用によって電気回路を開き電気回路を遮断できるように構成されている

 f.ことを特徴とする押し棒を有する電気スイッチ。

 

 審決は、作動部と接点保持部を分離したときに作用し接点具が電気回路を開き電気回路を遮断できるような「バネ」について、本件明細書の「而してホルダー12をケース4から分離した場合に、スイッチ14の押し棒20は図3の様な元の状態に戻る。」(【0011】)との記載をもって、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていると判断している。

 

 一方、本件発明の出願当時、バネの作用により本来の状態(常閉又は常開の状態)に復帰させるスイッチが周知慣用の技術であった。

 知財高裁は、

 ・「・・・スイッチ13は非作動の時ONとして、又スイッチ14は非作動の時OFFとして機能する。両方とも互いに直列に接続されている。各スイッチ・・・14は、可動の接点具と押し棒とを持ち、・・・」(段落【0009】)

 ・「そして、上記作動部3と接点保持部11が図3の様に外された状態になっている時、スイッチ14の接点具は開かれ、電気回路は開かれている。・・・この作動部3と接点保持部11の結合状態で、スイッチ13の押し棒頭部19はケース4の下部10に入り込んでいる一方、スイッチ14の押し棒頭部20はケース4の前面側に合わせられて、この結合の際押し込まれる。」(段落【0010】)

 ・「・・・ホルダー12をケース4から分離した場合に、スイッチ14の押し棒20は図3の様な元の状態に戻る。・・・」(段落【0011】)との明細書中の記載から、

 「段落【0011】の「元の状態に戻る」作用がバネの作用によることは、当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって容易に理解できるというべきである。」と判断した。更に、「バネの作用により本来の状態(常閉又は常開の状態)に復帰させるスイッチが周知慣用の技術であり、技術常識であることからしても、本件明細書に記載されているに等しい事項ということができる。」としている。

 

 また、知財高裁は、技術的特徴ではない部分については、実施可能要件及びサポート要件として網羅的に実施例を開示することを要求しているとは解されないとして、本件発明に於いて、電気スイッチの一般的な機能を規定する構成要件e-1及びe-2は、本件発明の技術的特徴ではないと指摘。その上で、これらの技術的事項に着目して、実施可能要件及びサポート要件を問うことは適切ではないと解される旨判示している。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100730090352.pdf