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判例・実務情報

(知財高裁、特許) 予期しない効果の参酌に於いては、発明の効果の程度が厳密に予測できなければ直ちに進歩性が肯定されるものではない。



Date.2010年12月19日

平成21(行ケ)10362号 電磁波遮蔽積層体事件 判決日:平成22年10月12日  

 

・請求棄却 

・特許法29条2項、進歩性、容易想到性、予期しない効果の参酌 

・旭硝子株式会社 対 特許庁長官

 

 特許庁は、拒絶査定不服審判に於いて、審判請求時に行った補正後の本願発明が、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとして、補正を却下した上で、進歩性欠如の拒絶審決をした。

 

 本件補正発明は、下記の通りである。

【請求項6】

 透明な基材上に電磁波遮蔽膜が3~6層積層された電磁波遮蔽積層体であって,

 前記電磁波遮蔽膜が,前記基材側から順に,屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層,

 酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層, 銀を主成分とする導電層 および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層を有し,

 前記導電層は前記第1の酸化物層に直接接し,

 前記電磁波遮蔽膜間で直接接する前記第1の高屈折率層と前記第2の高屈折率層が一括して成膜された1つの層からなり,

 前記第1および第2の高屈折率層がそれぞれ酸化ニオブを主成分とする幾何学的膜厚が20~50nmの層であることを特徴とする電磁波遮蔽積層体。

 

 本件の主な争点は、本件補正発明の効果が、引用発明と比較して顕著な効果を奏するか否かである。

 原告は、本件補正発明が、引用発明と比較して、視感透過率、シート抵抗および耐湿性の何れの点においても、顕著な優位性を有すると主張している。

 この主張に対し、知財高裁は、実験成績証明書の評価結果を参酌して、本件補正発明の効果が、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものと認めることができないと判示した。

 

 また、原告は、積層体全体の特性には,積層された複数の層の相互作用が関係するから,1つの層を別の層に置換した場合の,置換後の積層体全体の特性を予測することは困難であると主張したが、知財高裁は、「進歩性の判断における効果の参酌は,引用発明と比較した有利な効果が,技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものである場合に,進歩性が否定されないこともあるということにとどまり,発明の効果の程度が厳密に予測できなければ直ちに進歩性を有すると認定されるわけではない。」と判示した。

 

 原告は、本件補正発明の優れた特性が、積層された複数の層の様々な相互作用によってもたらされると主張したが、知財高裁は、それらの相互作用が、その作用の程度を厳密に予測することは困難であるとしても,一定程度の予測性はあるといえるから,本件補正発明が当時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果を奏するとは認められないと判示した。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101018105635.pdf