平成21(行ケ)10257号 リニアモータユニット事件 判決日:平成22年6月29日
・請求認容
・特許法29条2項、進歩性、容易想到性、予期しない効果の参酌
・THK株式会社 対 特許庁長官
特許庁は、引用発明に、周知技術及び周知慣用技術を適用することにより,本願発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性なしと判断した。
本願発明は、下記の通りである。
【請求項1】
同極が対向するように積層された複数のマグネット,及び前記複数のマグネット間に介在される磁性材料からなるポールシューを有するロッドと,
前記ロッドを囲み,前記ロッドの軸線方向に積層された複数のコイルと,
前記複数のコイル間に介在されるスペーサと,前記複数のコイル及び前記スペーサを覆ってリニアモータの外形を形成するハウジングと,を備え,
前記マグネットの磁界と前記コイルに流す電流によって,
前記ロッドをその軸線方向に直線運動させるロッドタイプリニアモータを,前記ロッドの軸線が互いに平行を保つように複数組み合わせたリニアモータユニットであって,
前記ハウジングは,前記複数のコイル及び前記スペーサをインサート成型することにより形成され,
一つのロッドタイプリニアモータのロッドを移動させると,隣のロッドタイプリニアモータのロッドがつられて動いてしまう程度に隣り合うロッドタイプリニアモータを近接させた状態において,前記隣り合うロッドタイプリニアモータの前記ハウジング間に磁性材料からなる磁気シールド板を介在させ,
前記磁気シールド板は,前記コイルを覆う前記ハウジング間を前記ロッドの軸線方向に通ると共に,前記ハウジングから前記ロッドの軸線方向に露出し,
そして,前記磁気シールド板は,隣り合うロッド同士が互いの磁界の影響を受け難くすると共に,リニアモータの推力を向上させるリニアモータユニット。
本件の主な争点は、太字で記載した構成、即ち、磁気シールド板が、リニアモータの推力を向上させるものであると、当業者が予測できたか否かである。
上記の争点に関し、審決は、以下の通り判断している。
「ロッドタイプリニアモータのハウジング間に磁気シールド板を介在させると必然的に推力を向上させる構造となるから,引用発明のリニアモータを上記周知技術のロッドタイプリニアモータとすることに付随して,引用発明の磁気シールド板はリニアモータの推力を向上させることになるといえる。以上のことから,引用発明において上記周知技術を採用することにより,相違点1,2及び6に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。」
この審決の判断について知財高裁は、下記の通り、根拠を欠くとした上で、本願発明の磁気シールド板がリニアモータの推力を向上させるという構成要件等は、当業者に容易に想到し得ないと判断した。
「引用例1の記載事項から得られる知見は,単に,フラットタイプリニアモータにおいては,磁気シールド板は,推力向上に寄与しないことを示しているにすぎない。引用例1には,推進力向上に寄与しないフラットタイプリニアモータに,ロッドタイプリニアモータを適用することの動機付けが示されているわけではなく,また,磁気シールド板が推力向上の効果が生じることを予測できることが示されているわけではない。のみならず,引用例1のフラットタイプリニアモータに周知技術であるロッドタイプリニアモータを適用すると,フラットタイプリニアモータにおいては磁束の分路として機能することから推力を減少させる方向で作用していた磁気シールド板が,逆に推力を向上させる方向で作用することを当業者において予測できたことを認めるに足りる記載又は示唆はない。」
また、引用発明のリニアモータに,周知技術であるロッドタイプリニアモータを適用し本願発明の構成と同等の構成を採用するならば,その奏する作用効果も同等であるから,推力向上の効果は格別なものではないとの被告の主張に対し、知財高裁は以下の通り判示している。
「本件における論証の対象とされる命題は,引用発明(甲1)において,フラットタイプリニアモータにロッドタイプリニアモータを適用することによって,磁気シールド板がリニアモータの推力を向上させることが,当業者にとって容易に想到し得たか否かという点である。この論証命題に対して,「引用発明にロッドタイプリニアモータを適用した場合の作用効果は,本願発明における作用効果と同等である」ことを理由として「容易に想到できた」との結論を導くことは,結論を所与の前提に含んだ論理であって,到底採用できるものではない。」
更に、知財高裁は、磁気シールド板がロッドタイプリニアモータの周知技術に適用した途端に、逆に推力向上に寄与することが当業者にとって予測可能でなかったことから、推力向上の程度が顕著でないことをもって、当業者の予測の範囲内ということはできないとも述べている。
以上の理由等により、知財高裁は拒絶審決取り消した。
平成21(行ケ)10257号 リニアモータユニット事件 判決日:平成22年6月29日
・請求認容
・特許法29条2項、進歩性、容易想到性、予期しない効果の参酌
・THK株式会社 対 特許庁長官
特許庁は、引用発明に、周知技術及び周知慣用技術を適用することにより,本願発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性なしと判断した。
本願発明は、下記の通りである。
【請求項1】
同極が対向するように積層された複数のマグネット,及び前記複数のマグネット間に介在される磁性材料からなるポールシューを有するロッドと,
前記ロッドを囲み,前記ロッドの軸線方向に積層された複数のコイルと,
前記複数のコイル間に介在されるスペーサと,前記複数のコイル及び前記スペーサを覆ってリニアモータの外形を形成するハウジングと,を備え,
前記マグネットの磁界と前記コイルに流す電流によって,
前記ロッドをその軸線方向に直線運動させるロッドタイプリニアモータを,前記ロッドの軸線が互いに平行を保つように複数組み合わせたリニアモータユニットであって,
前記ハウジングは,前記複数のコイル及び前記スペーサをインサート成型することにより形成され,
一つのロッドタイプリニアモータのロッドを移動させると,隣のロッドタイプリニアモータのロッドがつられて動いてしまう程度に隣り合うロッドタイプリニアモータを近接させた状態において,前記隣り合うロッドタイプリニアモータの前記ハウジング間に磁性材料からなる磁気シールド板を介在させ,
前記磁気シールド板は,前記コイルを覆う前記ハウジング間を前記ロッドの軸線方向に通ると共に,前記ハウジングから前記ロッドの軸線方向に露出し,
そして,前記磁気シールド板は,隣り合うロッド同士が互いの磁界の影響を受け難くすると共に,リニアモータの推力を向上させるリニアモータユニット。
本件の主な争点は、太字で記載した構成、即ち、磁気シールド板が、リニアモータの推力を向上させるものであると、当業者が予測できたか否かである。
上記の争点に関し、審決は、以下の通り判断している。
「ロッドタイプリニアモータのハウジング間に磁気シールド板を介在させると必然的に推力を向上させる構造となるから,引用発明のリニアモータを上記周知技術のロッドタイプリニアモータとすることに付随して,引用発明の磁気シールド板はリニアモータの推力を向上させることになるといえる。以上のことから,引用発明において上記周知技術を採用することにより,相違点1,2及び6に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。」
この審決の判断について知財高裁は、下記の通り、根拠を欠くとした上で、本願発明の磁気シールド板がリニアモータの推力を向上させるという構成要件等は、当業者に容易に想到し得ないと判断した。
「引用例1の記載事項から得られる知見は,単に,フラットタイプリニアモータにおいては,磁気シールド板は,推力向上に寄与しないことを示しているにすぎない。引用例1には,推進力向上に寄与しないフラットタイプリニアモータに,ロッドタイプリニアモータを適用することの動機付けが示されているわけではなく,また,磁気シールド板が推力向上の効果が生じることを予測できることが示されているわけではない。のみならず,引用例1のフラットタイプリニアモータに周知技術であるロッドタイプリニアモータを適用すると,フラットタイプリニアモータにおいては磁束の分路として機能することから推力を減少させる方向で作用していた磁気シールド板が,逆に推力を向上させる方向で作用することを当業者において予測できたことを認めるに足りる記載又は示唆はない。」
また、引用発明のリニアモータに,周知技術であるロッドタイプリニアモータを適用し本願発明の構成と同等の構成を採用するならば,その奏する作用効果も同等であるから,推力向上の効果は格別なものではないとの被告の主張に対し、知財高裁は以下の通り判示している。
「本件における論証の対象とされる命題は,引用発明(甲1)において,フラットタイプリニアモータにロッドタイプリニアモータを適用することによって,磁気シールド板がリニアモータの推力を向上させることが,当業者にとって容易に想到し得たか否かという点である。この論証命題に対して,「引用発明にロッドタイプリニアモータを適用した場合の作用効果は,本願発明における作用効果と同等である」ことを理由として「容易に想到できた」との結論を導くことは,結論を所与の前提に含んだ論理であって,到底採用できるものではない。」
更に、知財高裁は、磁気シールド板がロッドタイプリニアモータの周知技術に適用した途端に、逆に推力向上に寄与することが当業者にとって予測可能でなかったことから、推力向上の程度が顕著でないことをもって、当業者の予測の範囲内ということはできないとも述べている。
以上の理由等により、知財高裁は拒絶審決取り消した。