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判例・実務情報

(知財高裁、特許) 新規性・進歩性否定の根拠となった引用例のL612細胞系が,第三者に分譲され得る状態にあったとの審決の認定判断は誤り。



Date.2010年12月19日

平成22(行ケ)10029号 ヒトのBリンパ芽腫細胞系事件 判決日:平成22年10月12日  

 

・請求認容 

・特許法29条1項3号、2項、新規性、進歩性、刊行物に記載された発明 

・ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア 対 特許庁長官

 

 本願発明は「抗ガングリオシド抗体を産生するヒトのBリンパ芽腫細胞系」に関するものであり、「L612として同定され,アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)にATCC受入番号CRL10724として寄託されているヒトのBリンパ芽腫細胞系」である。

 特許庁は、本願の優先日前に頒布された引用例1には「L612を分泌するヒトB細胞系」とあり,引用例2には「L612を分泌する細胞系」とあり、これらの細胞系が第三者から分譲を請求された場合には分譲され得る状態にあったと推定できると認定した上で、本願発明は、当該引用例に基づき新規性及び進歩性を欠くとした。

 

 本件に於ける主な争点は、引用例1及び2には「L612を分泌する細胞系」と記載されているだけで,ATCC受入番号の記載がないことから,引用例1及び2における上記記載だけで「刊行物に記載されているに等しい事項」といえるか否かである。

 

 知財高裁は、引用例1および2の記載内容からは、L612細胞系の発明が記載されているということはできないが、L612細胞系が,本願優先日前に,引用例1及び2の著者から分譲され得る状態にあれば,L612細胞系の内容が裏付けられ,引用例1及び2にL612細胞系の発明が記載されているということができることから(当事者間に争いがない)、L612細胞系が,本願優先日前に引用例1及び2の著者から分譲され得る状態にあったか否かを判断した。

 

 この点につき、知財高裁は、引用例1及び2の著者が,L612細胞系について,本願優先日前に,第三者から分譲の要求があったときに同要求に応じる意思がなかったと認定し、「引用例1,2に記載されるL612細胞系は,第三者から分譲を請求された場合には,分譲され得る状態にあったものと推定することができる」とした審決の認定判断は誤りであると判断した。

 その結果、原告の請求が認容された。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101018141044.pdf