Golden Hour Data Systems, Inc. v. emsCharts, Inc. and Softtech, LLC (Fed. Cir. 2010)
・IDS、非衡平行為、マテリアル性、騙す意図、共同侵害
本件は、日付のない文献をIDSとして提出しなかった行為が非衡平行為に該当するか、および共同侵害が成立するかが争われた事件である。
(経緯)
原告のGolden Hour Data Systemsは、「統合緊急医療搬送データベースシステム」(U.S. Patent No.6,117,073)の発明に関する特許権を有している。当該特許発明は、輸送人員の派遣、患者の治療及び請求データを統合したシステムを提供するものである(出願日1998年3月2日)。
被告のemsChartsは、emsChartsと呼ばれるウェブベースの医療記録プログラムを製造していた。このプログラムは患者情報を記録し、統合された請求を提供するものであった。また、もう一方の被告のSofttechは、フライトベクターと称するコンピュータ支援フライト派遣ソフトウェアを製造していた。このフライトベクターは、フライト情報を統合するものであった。
被告らは戦略的パートナーシップを形成し、それぞれのプログラムを同時に動作させた、一つのユニットとしてのソフトウェアを販売していた。
原告は、被告らが共同して原告の特許を侵害するとして、テキサス州連邦地裁に訴えを提起した。陪審は被告らの共同侵害を認める評決をした。しかしその後、被告のemsChartsは、原告の特許はIDS提出義務違反による非衡平行為により、権利行使不能であるなどとする申立てをした。
IDS提出義務違反の対象とされたのは、輸送人員の派遣に医療記録および請求を結合させた統合システムとしてのAeroMedシステムが記載された、日付のない小冊子であった。当該小冊子は、発明者から代理人に知らされていたが、代理人は小冊子のフロントカバーをIDSとして提出し、小冊子中に記載されていた統合システムの記述については開示しなかった。
地裁は、被告の申立てを認め、原告は権利行使できない旨の判決をした。また、共同侵害についても、証明が不十分であるとして認めなかった。
本件は、この判決に不服の原告がCAFCに控訴した事件である。
(CAFCの判断)
1.争点
争点は以下の通りである。
・IDS提出義務違反による非衡平行為の成否
・共同侵害の成否
2.IDS提出義務違反による非衡平行為の成否
・マテリアル性
本件明細書の関連技術の欄には、AeroMedシステムが航空情報や請求システム等を統合していないとする記述があった。一方、小冊子には、当該AeroMedソフトウェアが輸送人員の派遣に医療記録および請求を結合させた統合システムであると記載されていたことから、CAFCは、日付のない小冊子が従来技術でないとしても、小冊子およびそれに含まれる情報は極めて重要なものであると判断した。
・欺く意図
しかし、CAFCは、出願人の騙す意図があったかについての事実認定が不十分であるとの判断を示した。特に、発明者はAeroMedシステムのことを伝聞により聞いたと証言しており、当該システムが発明の特許性の中心的な部分であったことなどから、発明者が実際にその小冊子を読み、かつ、USPTOに対して意図的に不利な情報を差し控える決定をしていたか否かを地裁は決定しなければならないと判示した。
3.共同侵害の成否
共同侵害が成立するためには、emsChartsがSofttechに対して、管理又は指示をしていたか否かが問題となる。そして、共同侵害を主張する為には、特許権者は、一方の当事者が全体の方法を実施する上で他方の当事者を管理又は指示していることを証明しなければならない。
この点について、地裁は管理又は指示に関する十分な証明がなされていないと判断していたが、CAFCもこの判断を支持した。
当該事件は、日付のない文献であっても、特許性の判断に影響を及ぼすようなマテリアル性のあるものは、IDSの対象となることを確認したものである。騙す意図の事実認定が不十分であったことから地裁に差し戻されたが、本件のようなリスクを回避する観点からも、できるだけIDSとして提出しておくのがよいと考えられる。
(判決文) http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/09-1306.pdf
Golden Hour Data Systems, Inc. v. emsCharts, Inc. and Softtech, LLC (Fed. Cir. 2010)
・IDS、非衡平行為、マテリアル性、騙す意図、共同侵害
本件は、日付のない文献をIDSとして提出しなかった行為が非衡平行為に該当するか、および共同侵害が成立するかが争われた事件である。
(経緯)
原告のGolden Hour Data Systemsは、「統合緊急医療搬送データベースシステム」(U.S. Patent No.6,117,073)の発明に関する特許権を有している。当該特許発明は、輸送人員の派遣、患者の治療及び請求データを統合したシステムを提供するものである(出願日1998年3月2日)。
被告のemsChartsは、emsChartsと呼ばれるウェブベースの医療記録プログラムを製造していた。このプログラムは患者情報を記録し、統合された請求を提供するものであった。また、もう一方の被告のSofttechは、フライトベクターと称するコンピュータ支援フライト派遣ソフトウェアを製造していた。このフライトベクターは、フライト情報を統合するものであった。
被告らは戦略的パートナーシップを形成し、それぞれのプログラムを同時に動作させた、一つのユニットとしてのソフトウェアを販売していた。
原告は、被告らが共同して原告の特許を侵害するとして、テキサス州連邦地裁に訴えを提起した。陪審は被告らの共同侵害を認める評決をした。しかしその後、被告のemsChartsは、原告の特許はIDS提出義務違反による非衡平行為により、権利行使不能であるなどとする申立てをした。
IDS提出義務違反の対象とされたのは、輸送人員の派遣に医療記録および請求を結合させた統合システムとしてのAeroMedシステムが記載された、日付のない小冊子であった。当該小冊子は、発明者から代理人に知らされていたが、代理人は小冊子のフロントカバーをIDSとして提出し、小冊子中に記載されていた統合システムの記述については開示しなかった。
地裁は、被告の申立てを認め、原告は権利行使できない旨の判決をした。また、共同侵害についても、証明が不十分であるとして認めなかった。
本件は、この判決に不服の原告がCAFCに控訴した事件である。
(CAFCの判断)
1.争点
争点は以下の通りである。
・IDS提出義務違反による非衡平行為の成否
・共同侵害の成否
2.IDS提出義務違反による非衡平行為の成否
・マテリアル性
本件明細書の関連技術の欄には、AeroMedシステムが航空情報や請求システム等を統合していないとする記述があった。一方、小冊子には、当該AeroMedソフトウェアが輸送人員の派遣に医療記録および請求を結合させた統合システムであると記載されていたことから、CAFCは、日付のない小冊子が従来技術でないとしても、小冊子およびそれに含まれる情報は極めて重要なものであると判断した。
・欺く意図
しかし、CAFCは、出願人の騙す意図があったかについての事実認定が不十分であるとの判断を示した。特に、発明者はAeroMedシステムのことを伝聞により聞いたと証言しており、当該システムが発明の特許性の中心的な部分であったことなどから、発明者が実際にその小冊子を読み、かつ、USPTOに対して意図的に不利な情報を差し控える決定をしていたか否かを地裁は決定しなければならないと判示した。
3.共同侵害の成否
共同侵害が成立するためには、emsChartsがSofttechに対して、管理又は指示をしていたか否かが問題となる。そして、共同侵害を主張する為には、特許権者は、一方の当事者が全体の方法を実施する上で他方の当事者を管理又は指示していることを証明しなければならない。
この点について、地裁は管理又は指示に関する十分な証明がなされていないと判断していたが、CAFCもこの判断を支持した。
当該事件は、日付のない文献であっても、特許性の判断に影響を及ぼすようなマテリアル性のあるものは、IDSの対象となることを確認したものである。騙す意図の事実認定が不十分であったことから地裁に差し戻されたが、本件のようなリスクを回避する観点からも、できるだけIDSとして提出しておくのがよいと考えられる。
(判決文) http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/09-1306.pdf