知財高裁平成23年02月28日判決 平成22(行ケ)10109 アミノシリコーンによる毛髪パーマネント再整形方法事件
・請求認容
・ロレアル 対 特許庁長官
・特許法36条6項1号、サポート要件、出願経過参酌の原則
(経緯)
本件は、特許庁がサポート要件違反を理由とする拒絶審決をしたので、これに不服の原告が知財高裁に訴えを提起した事件である。
(本件発明)
本件発明は、パーマネント再整形における還元処理の前に、「当該ケラチン繊維に対して、化粧品的に許容される媒体中に数平均1次粒子径が3乃至70nmの範囲の粒子を含むアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し、非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用すること」との前処理工程を付加したことを特徴とするものである。
【請求項1】(i)ケラチン繊維に対して還元用組成物を適用する作業;及び、(ii)ケラチン繊維を酸化する作業を少なくとも含み、更に作業(i)の前に、当該ケラチン繊維に対して、化粧品的に許容される媒体中に数平均1次粒子径が3乃至70nmの範囲の粒子を含むアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し、非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用することを特徴とする、ケラチン繊維のパーマネント再整形方法。
(審決)
審決は、
①本願発明の課題解決に関して、「還元剤の中にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有させた還元用組成物を毛髪に適用した場合」(従来技術)と、「還元剤処理の前に前処理剤としてアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し、非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用する場合」との、両者に差が生じた旨の記載はあるが、具体的な比較実験データ及び前処理の有無による技術的傾向が示されていない、
②実施例1は、「本件発明方法」と「先行技術による方法」との比較が示されているが、同実施例の「先行技術による方法」は、前処理用組成物で処理しなかったもので、還元剤の中にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有させた還元用組成物を毛髪に適用したものではないから、アミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理剤による処理の有無に係る比較実験データとしては適切なものではない、
③実施例2、3は、従来技術である「還元剤の中にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有させた還元用組成物を毛髪に適用した場合」と、「還元剤処理の前に前処理剤としてアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し、非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用する場合」との具体的な比較実験データが示されていない、
というものである。
(裁判所の判断)
36条6項1号の判断に関し、知財高裁は、「36条6項1号への適合性を判断するに当たっては、「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」とを対比することから、同号への適合性を判断するためには、その前提として、「特許請求の範囲」の記載に基づく技術的範囲を適切に把握すること、及び「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項を適切に把握することの両者が必要となる。」と判示した。
本件については、「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」が、「アミノシリコーンを含有しない還元用組成物」と限定的に解釈することができるか否かが争点となったが、知財高裁は、限定解釈できないと判断した。
その理由として、知財高裁は、先ず、本件明細書を参酌し、「【発明が解決しようとする課題】として、「本出願人は驚くべきことに、また予想外に、還元性組成物の適用前および/または酸化性組成物の適用後に、アミノシリコーンミクロエマルジョン含有の少なくとも1種の前処理および/または後処理用化粧料組成物を毛髪に適用することにより、本発明が課題とする問題を解決し得ることを発見した。」(【0011】)と記載されていることを考慮するならば、本願明細書の上記【0009】の記載は、本願発明の特許請求の範囲(請求項1)における「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」がアミノシリコーンを含まない還元用組成物に限定されると解すべき合理的根拠とはならない。」とした。
また、原告は、その出願経過において、意見書で、「前記還元剤及び酸化剤中にアミノシリコーンが存在することによる不都合を初めて認識し、当該還元剤及び酸化剤中にアミノシリコーンが存在しないようにし、且つ、当該還元剤及び酸化剤による処理の前後にアミノシリコーンエマルジョンを適用することによりパーマネント再整形の程度・品質・寿命を損なうことなくケラチン繊維の劣化を回避するという、異なる効果を両立させた」と意見を述べていたが、この点については、「原告が、上記意見を述べたのは、本願発明が、先行技術との関係で進歩性の要件を充足することを強調するためと推測される。そのような意見を述べることは、信義に悖るというべきであるが、そのような経緯があったからといって、それは、特許請求の範囲(請求項1)の「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」が、アミノシリコーンを含まない還元用組成物に限定して解釈されるべきとする根拠にはならない。」とした。
(参照元) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110228153509.pdf
知財高裁平成23年02月28日判決 平成22(行ケ)10109 アミノシリコーンによる毛髪パーマネント再整形方法事件
・請求認容
・ロレアル 対 特許庁長官
・特許法36条6項1号、サポート要件、出願経過参酌の原則
(経緯)
本件は、特許庁がサポート要件違反を理由とする拒絶審決をしたので、これに不服の原告が知財高裁に訴えを提起した事件である。
(本件発明)
本件発明は、パーマネント再整形における還元処理の前に、「当該ケラチン繊維に対して、化粧品的に許容される媒体中に数平均1次粒子径が3乃至70nmの範囲の粒子を含むアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し、非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用すること」との前処理工程を付加したことを特徴とするものである。
【請求項1】(i)ケラチン繊維に対して還元用組成物を適用する作業;及び、(ii)ケラチン繊維を酸化する作業を少なくとも含み、更に作業(i)の前に、当該ケラチン繊維に対して、化粧品的に許容される媒体中に数平均1次粒子径が3乃至70nmの範囲の粒子を含むアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し、非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用することを特徴とする、ケラチン繊維のパーマネント再整形方法。
(審決)
審決は、
①本願発明の課題解決に関して、「還元剤の中にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有させた還元用組成物を毛髪に適用した場合」(従来技術)と、「還元剤処理の前に前処理剤としてアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し、非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用する場合」との、両者に差が生じた旨の記載はあるが、具体的な比較実験データ及び前処理の有無による技術的傾向が示されていない、
②実施例1は、「本件発明方法」と「先行技術による方法」との比較が示されているが、同実施例の「先行技術による方法」は、前処理用組成物で処理しなかったもので、還元剤の中にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有させた還元用組成物を毛髪に適用したものではないから、アミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理剤による処理の有無に係る比較実験データとしては適切なものではない、
③実施例2、3は、従来技術である「還元剤の中にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有させた還元用組成物を毛髪に適用した場合」と、「還元剤処理の前に前処理剤としてアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し、非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用する場合」との具体的な比較実験データが示されていない、
というものである。
(裁判所の判断)
36条6項1号の判断に関し、知財高裁は、「36条6項1号への適合性を判断するに当たっては、「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」とを対比することから、同号への適合性を判断するためには、その前提として、「特許請求の範囲」の記載に基づく技術的範囲を適切に把握すること、及び「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項を適切に把握することの両者が必要となる。」と判示した。
本件については、「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」が、「アミノシリコーンを含有しない還元用組成物」と限定的に解釈することができるか否かが争点となったが、知財高裁は、限定解釈できないと判断した。
その理由として、知財高裁は、先ず、本件明細書を参酌し、「【発明が解決しようとする課題】として、「本出願人は驚くべきことに、また予想外に、還元性組成物の適用前および/または酸化性組成物の適用後に、アミノシリコーンミクロエマルジョン含有の少なくとも1種の前処理および/または後処理用化粧料組成物を毛髪に適用することにより、本発明が課題とする問題を解決し得ることを発見した。」(【0011】)と記載されていることを考慮するならば、本願明細書の上記【0009】の記載は、本願発明の特許請求の範囲(請求項1)における「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」がアミノシリコーンを含まない還元用組成物に限定されると解すべき合理的根拠とはならない。」とした。
また、原告は、その出願経過において、意見書で、「前記還元剤及び酸化剤中にアミノシリコーンが存在することによる不都合を初めて認識し、当該還元剤及び酸化剤中にアミノシリコーンが存在しないようにし、且つ、当該還元剤及び酸化剤による処理の前後にアミノシリコーンエマルジョンを適用することによりパーマネント再整形の程度・品質・寿命を損なうことなくケラチン繊維の劣化を回避するという、異なる効果を両立させた」と意見を述べていたが、この点については、「原告が、上記意見を述べたのは、本願発明が、先行技術との関係で進歩性の要件を充足することを強調するためと推測される。そのような意見を述べることは、信義に悖るというべきであるが、そのような経緯があったからといって、それは、特許請求の範囲(請求項1)の「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」が、アミノシリコーンを含まない還元用組成物に限定して解釈されるべきとする根拠にはならない。」とした。
(参照元) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110228153509.pdf