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判例・実務情報

【知財高裁、商標】 引用商標と同一の観念を生じる文字商標が複数の業者に使用されているとしても、指定商品との関係においては、引用商標が被告の業務に係る商品の出所識別力を有しないとはいえないとして、4条1項11号により商標登録が取り消された事例。



Date.2011年3月28日

知財高裁平成23年02月28日判決 平成22(行ケ)10152 名奉行金さん事件

 

・請求棄却

・株式会社サンセイアールアンドディ 対 東映株式会社

・商標法4条1項11号、商標の類否、外観、称呼、観念

 

(経緯)

 原告は、商標登録第5202737号の商標権者である。本件商標は、「名奉行金さん」の文字を標準文字で表記されたものであり、その指定商品は、第28類「遊戯用器具」である。

 被告は、平成21年7月3日、特許庁に対し、本件商標登録の無効審判(無効2009-890079号事件)を請求し、本件商標が、被告を商標権者とする商標登録第4700298号(平成14年11月12日出願、平成15年8月15日設定登録。「遠山の金さん」の文字を標準文字で表記されたものであり、その指定商品に遊戯用器具を含む。)と類似し、他人の業務との混同を生じさせるので、商標法4条1項7号、11号、15号に該当すると主張した。

 特許庁は、本件商標登録が商標法4条1項11号に該当するとして、無効審決をした。

 

(争点)

 本件商標と引用商標は類似し、4条1項11号に該当するか否か。

 

(裁判所の判断)

 

1.本件商標と引用商標の外観、称呼、観念

 先ず、裁判所は、称呼および外観については、「本件商標は、「名奉行金さん」の文字を標準文字で表記したものであり、一連に表記されているため、「名奉行金さん」との外観を生じ、「メイブギョウキンサン」との称呼が生じる。一方、引用商標は、「遠山の金さん」の文字を標準文字で表記したものであり、一連に表記されているため、「遠山の金さん」との外観を生じ、「トオヤマノキンサン」との称呼が生じる。そうすると、本件商標と引用商標は、「金さん」との外観及び「キンサン」との称呼において共通するが、全体としては類似しない。」とした。

 しかし、観念については、「遠山金四郎は、江戸時代後期に江戸町奉行等を歴任した実在の人物であるが、遅くとも明治時代中期より歌舞伎、小説、映画、テレビ時代劇を通じて、「遠山の金さん」などと称呼されて大衆に親しまれており、時代劇等で取り上げられたエピソードの真偽はさておき、下情に通じた名奉行という人物像が広く一般に認識されていると認められる・・・。そうすると、本件商標「名奉行金さん」の語から、需要者、取引者をして、歴史上の人物である「遠山金四郎」、及び時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」の観念を生じさせる。また、引用商標「遠山の金さん」の語からも、需要者、取引者をして、歴史上の人物である「遠山金四郎」、及び「名奉行として知られている遠山金四郎」の観念を生じさせるから、本件商標と引用商標は、観念において同一又は類似であるといえる。」とした。

 

2.取引の実情等について

 また裁判所は、本件においては、以下の点を考慮して、遊技者の認識等をも考慮した商標の類否を判断することが合理的であるとした。

 ①本件商標及び引用商標は、主としてパチンコ機等において使用されているところ、パチンコ機等の取引者、需要者は、製造業者、遊技場営業者(パチンコホール)、販売代理店(代行店)、ゲームセンター及び中古品販売業者などのほか、中古品等を売買する個人も含まれることが認められる。

 ②パチンコ業界では、近年、「版権モノ」又は「タイアップ機種」と呼ばれるパチンコ機の人気が高まり、テレビアニメ、テレビドラマ、映画、漫画等のキャラクターを使用する例が少なくない。

 ③パチンコ機等の大部分は、遊技場(パチンコホール)に設置され、遊技者はパチンコ機等を売買することはないが、パチンコ機等に付された商標によりパチンコ機等の出所を認識、識別した上で利用するのが通常である。

 ④遊技者の嗜好や人気が遊技場営業者(パチンコホール)や販売代理店(代行店)がどの機種を取扱うかということに大きく影響する。

 

 その結果、上記の取引等の実情を総合考慮するならば、「本件商標と引用商標とは、外観、称呼において、その全体を一連に把握すると類似しない点があるものの、歴史上の人物である「遠山金四郎」、及び時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」との観念を生じる点において類似することから、商品の出所につき誤認混同のおそれを生じさせるというべきである。」と判断した。

 

 この点に関し、原告は、「名奉行の遠山金四郎」又は「遠山金四郎」との観念を生じる文字商標が複数の業者に使用されており、引用商標には独創性もないから、本件商標と引用商標との間において誤認混同のおそれは生じないと主張したが、裁判所は、「名奉行の遠山金四郎」又は「遠山金四郎」との観念を生じる文字商標が複数の業者に使用されているとしても、指定商品との関係においては、引用商標が被告の業務に係る商品の出所識別機能が弱いとはいえず、出所識別力を有しないともいえないと判示した。

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110228163021.pdf