東京地裁平成23年01月28日判決 平成20(ワ)22178 「熱交換器及びこの熱交換器を組み込んだ空気調和機事件
・請求棄却
・旧特許法35条4項、職務発明、相当の対価、使用者等が受けるべき利益
本件は、原告等が共同でした職務発明につき、その特許を受ける権利の承継に係る相当の対価の一部支払を被告に求めた事案である。
(争点)
争点は、原告ら3名の被告に対する本件各発明についての特許を受ける権利の承継に係る特許法旧35条3項、4項の相当対価請求権の存否である。具体的には、相当の対価の額の算定方法、相当の対価の具体的な金額、当該金額が被告が被告規程に基づいて原告ら3名に支払った報償金の額を上回るかどうかである。
(裁判所の判断)
裁判所は、先ず、旧35条4項の「発明により使用者等が受けるべき利益」について、以下の通り判示した。
「特許法旧35条4項の「発明により使用者等が受けるべき利益」は、使用者等が「受けた利益」そのものではなく、「受けるべき利益」であるから、使用者等が職務発明についての特許を受ける権利を承継した時に客観的に見込まれる利益をいうものと解されるところ、使用者等は、特許を受ける権利を承継せずに、従業者等が特許を受けた場合であっても、その特許権について特許法35条1項に基づく無償の通常実施権を有することに照らすと、「発明により使用者等が受けるべき利益」には、このような法定通常実施権を行使し得ることにより受けられる利益は含まず、使用者等が従業者等から特許を受ける権利を承継し、当該発明の実施を排他的に独占し得る地位を取得することによって受けることが客観的に見込まれる利益、すなわち「独占の利益」をいうものと解される。」
さらに、「独占の利益」については、以下の通り判示した。
「使用者等が、第三者に当該発明を実施許諾することなく、自ら実施(自己実施)している場合には、特許権が存在することにより、第三者に当該発明の実施を禁止したことに基づいて使用者が得ることができた利益、すなわち、特許権に基づく第三者に対する禁止権の効果として、使用者等の自己実施による売上高のうち、当該特許権を使用者等に承継させずに、自ら特許を受けた従業者等が第三者に当該発明を実施許諾していたと想定した場合に予想される使用者等の売上高を超える分(「超過売上高」)について得ることができたものと見込まれる利益(「超過利益」)が「独占の利益」に該当するものというべきである。
この「超過利益」の額は、従業者等が第三者に当該発明の実施許諾をしていたと想定した場合に得られる実施料相当額を下回るものではないと考えられるので、超過利益を超過売上高に当該実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法にも合理性があるものと解される。
したがって、本件においては、原告らが主張するように、超過売上高を認定し、その部分に係る利益(独占の利益)をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益」とし、これと被告の貢献の程度(「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度)を考慮して相当の対価の額を認定することは許されるものと解される。」
その上で、本件については、本件各発明の市場における技術的優位性が認められず、本件各発明を実施したことにより、市場シェアの増加をもたらしていないなどと認定された。
その結果、原告ら主張の「超過売上高」の存在は認められず、原告ら主張の「独占の利益」は、その前提を欠くものであり、認めることはできないと判断された。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110216103651.pdf
東京地裁平成23年01月28日判決 平成20(ワ)22178 「熱交換器及びこの熱交換器を組み込んだ空気調和機事件
・請求棄却
・旧特許法35条4項、職務発明、相当の対価、使用者等が受けるべき利益
本件は、原告等が共同でした職務発明につき、その特許を受ける権利の承継に係る相当の対価の一部支払を被告に求めた事案である。
(争点)
争点は、原告ら3名の被告に対する本件各発明についての特許を受ける権利の承継に係る特許法旧35条3項、4項の相当対価請求権の存否である。具体的には、相当の対価の額の算定方法、相当の対価の具体的な金額、当該金額が被告が被告規程に基づいて原告ら3名に支払った報償金の額を上回るかどうかである。
(裁判所の判断)
裁判所は、先ず、旧35条4項の「発明により使用者等が受けるべき利益」について、以下の通り判示した。
「特許法旧35条4項の「発明により使用者等が受けるべき利益」は、使用者等が「受けた利益」そのものではなく、「受けるべき利益」であるから、使用者等が職務発明についての特許を受ける権利を承継した時に客観的に見込まれる利益をいうものと解されるところ、使用者等は、特許を受ける権利を承継せずに、従業者等が特許を受けた場合であっても、その特許権について特許法35条1項に基づく無償の通常実施権を有することに照らすと、「発明により使用者等が受けるべき利益」には、このような法定通常実施権を行使し得ることにより受けられる利益は含まず、使用者等が従業者等から特許を受ける権利を承継し、当該発明の実施を排他的に独占し得る地位を取得することによって受けることが客観的に見込まれる利益、すなわち「独占の利益」をいうものと解される。」
さらに、「独占の利益」については、以下の通り判示した。
「使用者等が、第三者に当該発明を実施許諾することなく、自ら実施(自己実施)している場合には、特許権が存在することにより、第三者に当該発明の実施を禁止したことに基づいて使用者が得ることができた利益、すなわち、特許権に基づく第三者に対する禁止権の効果として、使用者等の自己実施による売上高のうち、当該特許権を使用者等に承継させずに、自ら特許を受けた従業者等が第三者に当該発明を実施許諾していたと想定した場合に予想される使用者等の売上高を超える分(「超過売上高」)について得ることができたものと見込まれる利益(「超過利益」)が「独占の利益」に該当するものというべきである。
この「超過利益」の額は、従業者等が第三者に当該発明の実施許諾をしていたと想定した場合に得られる実施料相当額を下回るものではないと考えられるので、超過利益を超過売上高に当該実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法にも合理性があるものと解される。
したがって、本件においては、原告らが主張するように、超過売上高を認定し、その部分に係る利益(独占の利益)をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益」とし、これと被告の貢献の程度(「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度)を考慮して相当の対価の額を認定することは許されるものと解される。」
その上で、本件については、本件各発明の市場における技術的優位性が認められず、本件各発明を実施したことにより、市場シェアの増加をもたらしていないなどと認定された。
その結果、原告ら主張の「超過売上高」の存在は認められず、原告ら主張の「独占の利益」は、その前提を欠くものであり、認めることはできないと判断された。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110216103651.pdf