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【最高裁、特許】 特許庁の上告を棄却。 同一の有効成分と効能・効果の先行医薬品が製造販売の承認を受けていても、特許権存続期間の延長登録出願の特許発明に含まれない場合は、その処分を理由に、当該出願を拒絶することはできない。



Date.2011年4月30日

平成230428日 最高裁判所第一小法廷 放出制御組成物事件(原審:知財高裁平成20(行ケ)10460、平成210529日判決)

 

・上告棄却

・武田薬品工業株式会社 対 特許庁長官

・特許法672項、67条の31項第1号、68条の2、特許権の存続期間の延長、政令で定める処分の対象

 

 最高裁は、有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について、製造販売の承認(先行処分)がされている場合であっても、先行医薬品が、特許権の存続期間の延長登録出願に係る特許発明の技術的範囲に属しないときは、その先行処分の存在を根拠として、当該出願を拒絶することはできないとし、特許庁の上告を棄却した。

 

 

(経緯)

 被上告人である武田薬品工業株式会社は、「放出制御組成物」の特許発明(特許第3134187号)に関する特許権者である。

 

 被上告人は、「パシーフカプセル30㎎」とする医薬品(本件医薬品)について、薬事法14条1項による製造販売の承認(本件処分)を受けた。一方、本件処分がなされる以前に、すでに薬事法14条1項による製造販売の承認を受けた「オプソ内服液5㎎・10㎎」の医薬品(本件先行医薬品)が存在していた(本件先行処分)。

 本件医薬品は、その有効成分を塩酸モルヒネとし、効能及び効果を中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛とするものであり、有効成分、効能、効果については、本件先行医薬品と同じものであった。

 但し、本件先行医薬品は、本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないものであった。

 

 被上告人は、平成17年12月16日、本件処分を受けることが必要であるために本件特許権の特許発明の実施をすることができない期間があったとして、本件特許権の存続期間の延長登録出願をした。

 しかし、拒絶査定を受けたことから、被上告人は、これを不服として拒絶査定不服審判の請求をした。

 特許庁は、本件医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする本件先行医薬品について本件先行処分がされていることを理由に、本件特許権の特許発明の実施について、本件処分を受けることが必要であったとは認められないとして、請求不成立審決をした。

 

 この請求不成立審決に不服の被上告人は、知財高裁にその取消を求めて訴えを提起した(知財高裁平成20(行ケ)10460、平成21年05月29日判決)。

 原審は、(1)特許法67条の3第1項1号該当性、(2)先行処分に係る延長登録の効力の及ぶ範囲について、それぞれ審決の判断には誤りがあるとして、被上告人の請求を認容する判決をした。

 

 本件は、知財高裁の判決に不服の特許庁が、その取消しを求めて上告をした事案である。

 

 

(原審の概要)

 原審の判決の概要は、下記の通りである。

(1)特許法67条の3第1項1号該当性

 ・先ず、知財高裁は、延長登録出願の拒絶をするためには、審査官(審判官)は、

①「政令で定める処分」を受けたことによっては、禁止が解除されたとはいえないこと、

又は、

②「『政令で定める処分』を受けたことによって禁止が解除された行為」が「『その特許発明の実施』に該当する行為」に含まれないこと

を論証する必要がある、と判示した。

 ・更に、本件においては、

 本件先行処分が存在するものの、本件先行処分を受けることによって禁止が解除された行為が、本件発明の技術的範囲に属し、本件発明の実施行為に該当するという関係が存在するわけではなく、本件先行処分の存在は、本件発明の実施に当たり、「政令で定める処分」(本件では薬事法所定の承認)を受けることが必要であったことを否定する理由とならない、とした。

 

 その結果、知財高裁は、審決における特許法67条の3第1項1号該当性の判断には、誤りがあるとした。

 

(2)先行処分に係る延長登録の効力の及ぶ範囲について

・「政令で定める処分」が薬事法所定の承認である場合、「政令で定める処分」の対象となった「物」とは、当該承認により与えられた医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味する。

 

・「政令で定める処分の対象」となった「物」を「有効成分」、「用途」を「効能・効果」と読み替えることはできず、医薬品の本質が「有効成分」及び「効能・効果」にあり、これが薬事法の規制のポイントであるとすることはできない。

 

・特許発明が医薬品に係るものである場合には、その技術的範囲に含まれる実施態様のうち、薬事法所定の承認が与えられた医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施、及び当該医薬品の「用途」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施についてのみ、延長された特許権の効力が及ぶものと解するのが相当である。

 

 

(最高裁の判断)

 最高裁は、本件医薬品と有効成分、効能、効果を同じくする先行医薬品について、製造販売の承認(先行処分)がされている場合であっても、先行医薬品が延長登録出願に係る特許発明の技術的範囲に属しないときは、先行処分の存在を根拠として、当該出願を拒絶することはできないと判示した。

 

 「特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して、後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても、先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは、先行処分がされていることを根拠として、当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。

 

 その理由について、最高裁は、以下のとおり述べている。

 

「なぜならば、特許権の存続期間の延長制度は、特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ、後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって、先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上、上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより、上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。そして、先行医薬品が、延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは、先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。

 本件先行医薬品は、本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないのであるから、本件において、本件先行処分がされていることを根拠として、その特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない。」

 

 結論として、最高裁は、原審の判断は正当なものとして是認できるとして、上告人の上告を棄却した。

 

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110428152756.pdf