平成23年08月30日判決 平成21(ワ)35411号 電話番号リストのクリーニング方法事件
・請求棄却
・株式会社ジンテック 対 株式会社クローバー・ネットワーク・コム
・特許法100条1項、技術的範囲、均等論、禁反言の法理(第5要件)、意識的除外
(経緯)
原告の株式会社ジンテックは,「電話番号リストのクリーニング方法」の特許発明(第3462196号)の特許権者である。
当該特許発明は、電話回線網で実際に使われている電話番号をコンピュータを用いて調査し,その調査結果に基づいて既存の電話番号リストをクリーニングする方法に関するものである。
被告の株式会社クローバー・ネットワーク・コムは,「DocBell」又は「ドックベル」との名称で,電話番号使用状況履歴データを被告の顧客に対して提供するサービス(ただし,ウェブ検索方式によるものを除く。以下、被告サービスという)を行っていた。
原告は、被告が被告サービスを提供する行為が本件特許権を侵害するものとして、東京地裁にその差止め等を求めて訴えを提起した。
(本件発明)
本件発明は、以下の通りである(下線部は、訂正により追加された事項)。
A ISDNに接続した番号調査用コンピュータにより,使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる調査対象電話番号について回線交換呼の制御手順を発信端末として実行し,網から得られる情報に基づいて有効な電話番号をリストアップして有効番号リストを作成する網発呼プロセスと,
B 前記網発呼プロセスにより作成された前記有効番号リストを複数のクリーニング用コンピュータに配布して読み取り可能にするリスト配布プロセスと,
C 前記各クリーニング用コンピュータにおいて,クリーニング処理しようとする顧客などの電話番号リストを読み取り可能に準備し,このクリーニング対象電話番号リストと前記有効番号リストとを対照することで,前記クリーニング対象電話番号リスト中の有効な電話番号を区別するクリーニング処理プロセスと,
D を含んだことを特徴とする電話番号リストのクリーニング方法。
(被告サービス)
a 被告が,ISDN回線に接続した電話番号の使用状況を調査するためのコンピュータにより,ISDN回線を通じて,調査対象である電話番号(使用されているすべての市外局番及び市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせにより構成される電話番号)に対して発信し,当該発信に対して回線網から得られる情報に基づき,実在する電話番号とそうでない電話番号とを区別した電話番号使用状況履歴リストを作成するプロセスと,
b 被告が,被告データ提供先に対し,上記aの方法で作成された電話番号使用状況履歴リストを,記録媒体に記録して送付し又は通信回線を通じて送信して提供することにより,複数の被告データ提供先が使用するコンピュータ又は被告データ提供先が有する複数のコンピュータに上記リストを配布して,読み取ることができるようにするプロセスと,
c 被告データ提供先が使用する上記bの各コンピュータにおいて,被告データ提供先が有する顧客等の電話番号リストを読み取ることができるように準備させ,上記電話番号使用状況履歴リストと上記電話番号リストとを対照させることにより,電話番号リスト中の実在する電話番号とそれ以外の電話番号とを区別させるプロセスと,
d を含んだことを特徴とする,被告データ提供先の保有する電話番号リスト中の有効な電話番号を区別する方法。
(争点)
本件の争点は、以下の通りである(但し、争点3については判断されていない)。
(1)被告サービスは,本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
(2)被告サービスは,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であるか(争点2)
(3)本件特許は,特許無効審判において無効とされるべきものか(争点3)
(裁判所の判断)
争点1においては、構成要件Aの充足性が争われた。特に、「使用されているすべての市外局番および市内局番」の文言の意味が問題となっている。
この文言の解釈について、原告は、「その調査対象に含まれる電話番号に使用されている市外局番と市内局番のすべて」を意味するものと解すべきと主張し、被告サービスは,被告が有効性判定のニーズがないと判断した局番を調査対象から除外したものであるから,「その調査対象に含まれる電話番号に使用されている市外局番と市内局番のすべて」を調査しているものであるとして、構成要件Aの充足性を主張した。
この主張に対し裁判所は、明細書の記載を参酌して、「本件発明において「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象とすることの技術的意義は,(調査対象となる地域において)実際に使用されている可能性のあるすべての電話番号について,その利用状況を調査することにより,電話番号の網羅的な有効番号リストを作成し,このリストとクリーニング処理しようとする顧客などの電話番号リストを対照することで,上記電話番号リストのクリーニング処理をほぼ漏れなく行うことができるようにすることにある」とした上で、「使用されているすべての市外局番および市内局番」の意味については,「市外局番及び市内局番として使用されているすべての番号」を意味するものと解するのが相当である、と判示した。
被告サービスと本件発明との違いは、被告サービスが,一部の電気通信事業者に割り当てられている合計566個の局番に係る電話番号を調査対象としていないから,少なくとも,「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象としない点であった。
そのため、本件においては、被告サービスが本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であるか否かも争われた。
ここで、本件発明においては、当初、「ISDNに接続したコンピュータにより回線交換呼の制御手順を発信端末として実行し」とされ,いかなる電話番号を調査対象とするのかについて特段制限は付されていなかったものを,訂正審判において、「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象とするものに限定する訂正を行っていた。また、この訂正は、先行技術に対する無効事由を回避しようとするものであった。
このような本件発明の経緯を踏まえ、裁判所は、原告が,訂正審判で,被告サービスのように一部の局番の電話番号を調査対象としない構成のもの,すなわち,調査対象電話番号が「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」ものでない方法を,本件発明の技術的範囲から除くものであると認定した。
原告は、上記の訂正が、すべての電話番号という母数から出発してニーズのない局番を除外するという被告サービスのような技術まで意識的に除外したものではないとも主張したが、裁判所は、「仮に,原告が,主観的には本件訂正により被告サービスの技術を除外する意図を有していなかったとしても,本件訂正は,少なくとも,第三者からみて,外形的には,「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象とせず,一部の局番の電話番号を調査対象から除外しているものについては,本件特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したものと解されるべきものである」とした。
その結果、被告サービスは、均等論の第5要件の根拠とされる禁反言の法理に照らし,被告サービスが本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であると認めることはできないとされた。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110912101451.pdf
平成23年08月30日判決 平成21(ワ)35411号 電話番号リストのクリーニング方法事件
・請求棄却
・株式会社ジンテック 対 株式会社クローバー・ネットワーク・コム
・特許法100条1項、技術的範囲、均等論、禁反言の法理(第5要件)、意識的除外
(経緯)
原告の株式会社ジンテックは,「電話番号リストのクリーニング方法」の特許発明(第3462196号)の特許権者である。
当該特許発明は、電話回線網で実際に使われている電話番号をコンピュータを用いて調査し,その調査結果に基づいて既存の電話番号リストをクリーニングする方法に関するものである。
被告の株式会社クローバー・ネットワーク・コムは,「DocBell」又は「ドックベル」との名称で,電話番号使用状況履歴データを被告の顧客に対して提供するサービス(ただし,ウェブ検索方式によるものを除く。以下、被告サービスという)を行っていた。
原告は、被告が被告サービスを提供する行為が本件特許権を侵害するものとして、東京地裁にその差止め等を求めて訴えを提起した。
(本件発明)
本件発明は、以下の通りである(下線部は、訂正により追加された事項)。
A ISDNに接続した番号調査用コンピュータにより,使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる調査対象電話番号について回線交換呼の制御手順を発信端末として実行し,網から得られる情報に基づいて有効な電話番号をリストアップして有効番号リストを作成する網発呼プロセスと,
B 前記網発呼プロセスにより作成された前記有効番号リストを複数のクリーニング用コンピュータに配布して読み取り可能にするリスト配布プロセスと,
C 前記各クリーニング用コンピュータにおいて,クリーニング処理しようとする顧客などの電話番号リストを読み取り可能に準備し,このクリーニング対象電話番号リストと前記有効番号リストとを対照することで,前記クリーニング対象電話番号リスト中の有効な電話番号を区別するクリーニング処理プロセスと,
D を含んだことを特徴とする電話番号リストのクリーニング方法。
(被告サービス)
a 被告が,ISDN回線に接続した電話番号の使用状況を調査するためのコンピュータにより,ISDN回線を通じて,調査対象である電話番号(使用されているすべての市外局番及び市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせにより構成される電話番号)に対して発信し,当該発信に対して回線網から得られる情報に基づき,実在する電話番号とそうでない電話番号とを区別した電話番号使用状況履歴リストを作成するプロセスと,
b 被告が,被告データ提供先に対し,上記aの方法で作成された電話番号使用状況履歴リストを,記録媒体に記録して送付し又は通信回線を通じて送信して提供することにより,複数の被告データ提供先が使用するコンピュータ又は被告データ提供先が有する複数のコンピュータに上記リストを配布して,読み取ることができるようにするプロセスと,
c 被告データ提供先が使用する上記bの各コンピュータにおいて,被告データ提供先が有する顧客等の電話番号リストを読み取ることができるように準備させ,上記電話番号使用状況履歴リストと上記電話番号リストとを対照させることにより,電話番号リスト中の実在する電話番号とそれ以外の電話番号とを区別させるプロセスと,
d を含んだことを特徴とする,被告データ提供先の保有する電話番号リスト中の有効な電話番号を区別する方法。
(争点)
本件の争点は、以下の通りである(但し、争点3については判断されていない)。
(1)被告サービスは,本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
(2)被告サービスは,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であるか(争点2)
(3)本件特許は,特許無効審判において無効とされるべきものか(争点3)
(裁判所の判断)
(1)被告サービスは,本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
争点1においては、構成要件Aの充足性が争われた。特に、「使用されているすべての市外局番および市内局番」の文言の意味が問題となっている。
この文言の解釈について、原告は、「その調査対象に含まれる電話番号に使用されている市外局番と市内局番のすべて」を意味するものと解すべきと主張し、被告サービスは,被告が有効性判定のニーズがないと判断した局番を調査対象から除外したものであるから,「その調査対象に含まれる電話番号に使用されている市外局番と市内局番のすべて」を調査しているものであるとして、構成要件Aの充足性を主張した。
この主張に対し裁判所は、明細書の記載を参酌して、「本件発明において「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象とすることの技術的意義は,(調査対象となる地域において)実際に使用されている可能性のあるすべての電話番号について,その利用状況を調査することにより,電話番号の網羅的な有効番号リストを作成し,このリストとクリーニング処理しようとする顧客などの電話番号リストを対照することで,上記電話番号リストのクリーニング処理をほぼ漏れなく行うことができるようにすることにある」とした上で、「使用されているすべての市外局番および市内局番」の意味については,「市外局番及び市内局番として使用されているすべての番号」を意味するものと解するのが相当である、と判示した。
(2)被告サービスは,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であるか(争点2)
被告サービスと本件発明との違いは、被告サービスが,一部の電気通信事業者に割り当てられている合計566個の局番に係る電話番号を調査対象としていないから,少なくとも,「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象としない点であった。
そのため、本件においては、被告サービスが本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であるか否かも争われた。
ここで、本件発明においては、当初、「ISDNに接続したコンピュータにより回線交換呼の制御手順を発信端末として実行し」とされ,いかなる電話番号を調査対象とするのかについて特段制限は付されていなかったものを,訂正審判において、「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象とするものに限定する訂正を行っていた。また、この訂正は、先行技術に対する無効事由を回避しようとするものであった。
このような本件発明の経緯を踏まえ、裁判所は、原告が,訂正審判で,被告サービスのように一部の局番の電話番号を調査対象としない構成のもの,すなわち,調査対象電話番号が「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」ものでない方法を,本件発明の技術的範囲から除くものであると認定した。
原告は、上記の訂正が、すべての電話番号という母数から出発してニーズのない局番を除外するという被告サービスのような技術まで意識的に除外したものではないとも主張したが、裁判所は、「仮に,原告が,主観的には本件訂正により被告サービスの技術を除外する意図を有していなかったとしても,本件訂正は,少なくとも,第三者からみて,外形的には,「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象とせず,一部の局番の電話番号を調査対象から除外しているものについては,本件特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したものと解されるべきものである」とした。
その結果、被告サービスは、均等論の第5要件の根拠とされる禁反言の法理に照らし,被告サービスが本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であると認めることはできないとされた。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110912101451.pdf