平成21(受)2056 著名人(芸能人)のパブリシティ権に関する最高裁判例
・上告棄却
・芸能人X1 X2 対 株式会社光文社
・パブリシティ権
(事件の概要)
この事件は,女性デュオ「ピンク・レディー」を結成していた芸能人X1およびX2が,株式会社光文社 に対し,雑誌中の記事において控訴人らの写真14枚を無断で使用したことが芸能人X1らのいわゆる「パブリシティ権」を侵害する不法行為になると主張した事件の上告審(損害賠償請求事件)である。
知財高裁では、芸能人等の著名人のパブリシティ権について、以下のような内容を説示し、この内容から判断して、「本件記事における本件写真の使用によって控訴人らの権利又は法律上保護される利益が侵害されたということはできない。」と判断した(地裁の判決は正当とし、控訴を棄却した)。
「著名人は,自らが社会的に著名な存在となった結果として,必然的に一般人に比してより社会の正当な関心事の対象となりやすいものであって,正当な報道,評論,社会事象の紹介等のためにその氏名・肖像が利用される必要もあり,言論,出版,報道等の表現の自由の保障という憲法上の要請からして,また,そうといわないまでも,自らの氏名・肖像を第三者が喧伝などすることでその著名の程度が増幅してその社会的な存在が確立されていくという社会的に著名な存在に至る過程からして,著名人がその氏名・肖像を排他的に支配する権利も制限され,あるいは,第三者による利用を許容しなければならない場合があることはやむを得ないということができ,結局のところ,著名人の氏名・肖像の使用が違法性を有するか否かは,著名人が自らの氏名・肖像を排他的に支配する権利と,表現の自由の保障ないしその社会的に著名な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担との利益較量の問題として相関関係的にとらえる必要があるのであって,その氏名・肖像を使用する目的,方法,態様,肖像写真についてはその入手方法,著名人の属性,その著名性の程度,当該著名人の自らの氏名・肖像に対する使用・管理の態様等を総合的に観察して判断されるべきものということができる」(平成20(ネ)10063 損害賠償請求控訴事件)
(最高裁の判断)
最高裁判所は、本件各写真を本件雑誌に掲載する行為が不法行為法上違法であるとはいえないとした原審の判断は,以下の趣旨をいうものとして是認することができるとした(ただし、論旨は採用することができないとした)。
「人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき,最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁,肖像につき,最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁各参照)。そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。」
「本件記事の内容は,ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく,前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき,その効果を見出しに掲げ,イラストと文字によって,これを解説するとともに,子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして,本件記事に使用された本件各写真は,約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8㎝,横3.6㎝ないし縦8㎝,横10㎝程度のものであったというのである。これらの事情に照らせば,本件各写真は,上記振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。
したがって,被上告人が本件各写真を上告人らに無断で本件雑誌に掲載する行為は,専ら上告人らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,不法行為法上違法であるということはできない。」
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120202111145.pdf
平成21(受)2056 著名人(芸能人)のパブリシティ権に関する最高裁判例
・上告棄却
・芸能人X1 X2 対 株式会社光文社
・パブリシティ権
(事件の概要)
この事件は,女性デュオ「ピンク・レディー」を結成していた芸能人X1およびX2が,株式会社光文社 に対し,雑誌中の記事において控訴人らの写真14枚を無断で使用したことが芸能人X1らのいわゆる「パブリシティ権」を侵害する不法行為になると主張した事件の上告審(損害賠償請求事件)である。
知財高裁では、芸能人等の著名人のパブリシティ権について、以下のような内容を説示し、この内容から判断して、「本件記事における本件写真の使用によって控訴人らの権利又は法律上保護される利益が侵害されたということはできない。」と判断した(地裁の判決は正当とし、控訴を棄却した)。
「著名人は,自らが社会的に著名な存在となった結果として,必然的に一般人に比してより社会の正当な関心事の対象となりやすいものであって,正当な報道,評論,社会事象の紹介等のためにその氏名・肖像が利用される必要もあり,言論,出版,報道等の表現の自由の保障という憲法上の要請からして,また,そうといわないまでも,自らの氏名・肖像を第三者が喧伝などすることでその著名の程度が増幅してその社会的な存在が確立されていくという社会的に著名な存在に至る過程からして,著名人がその氏名・肖像を排他的に支配する権利も制限され,あるいは,第三者による利用を許容しなければならない場合があることはやむを得ないということができ,結局のところ,著名人の氏名・肖像の使用が違法性を有するか否かは,著名人が自らの氏名・肖像を排他的に支配する権利と,表現の自由の保障ないしその社会的に著名な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担との利益較量の問題として相関関係的にとらえる必要があるのであって,その氏名・肖像を使用する目的,方法,態様,肖像写真についてはその入手方法,著名人の属性,その著名性の程度,当該著名人の自らの氏名・肖像に対する使用・管理の態様等を総合的に観察して判断されるべきものということができる」(平成20(ネ)10063 損害賠償請求控訴事件)
(最高裁の判断)
最高裁判所は、本件各写真を本件雑誌に掲載する行為が不法行為法上違法であるとはいえないとした原審の判断は,以下の趣旨をいうものとして是認することができるとした(ただし、論旨は採用することができないとした)。
「人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき,最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁,肖像につき,最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁各参照)。そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。」
「本件記事の内容は,ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく,前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき,その効果を見出しに掲げ,イラストと文字によって,これを解説するとともに,子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして,本件記事に使用された本件各写真は,約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8㎝,横3.6㎝ないし縦8㎝,横10㎝程度のものであったというのである。これらの事情に照らせば,本件各写真は,上記振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。
したがって,被上告人が本件各写真を上告人らに無断で本件雑誌に掲載する行為は,専ら上告人らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,不法行為法上違法であるということはできない。」
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120202111145.pdf