・G1/15 審決日:2016年11月29日 ・部分優先、毒入り分割出願、毒入り優先権、自己衝突
拡大審判部(Enlarged Board of Appeal)は、部分優先の判断基準に関する問題を取り上げた事件(G1/15)において、いわゆる、「毒入り分割出願(Poisonous/Toxic Divisional)」、「毒入り優先権(Poisonous/Toxic Priority)」の問題を解消する判断を行った。
(背景) 欧州特許条約(EPC)の54条(3)には、出願人又は発明者が同一の場合でも、先の出願によって後の出願の新規性が否定され得ることが規定されている(いわゆる自己衝突(self-collision))。 自己衝突による新規性の否定は、ある欧州特許出願の分割出願又は親出願に開示されている技術的事項が、当該欧州特許出願の1以上のクレームよりも先の優先日を有している場合にも起こり得るとされていた(例えば、G2/98)。いわゆる、「毒入り分割出願」及び「毒入り優先権」の問題である。 例えば、典型的には以下のようなケースがある。
出願1
技術的事項aを含む。
出願2
出願1を基礎としてその出願日から12ヶ月内に優先権主張出願をする。明細書には技術的事項aを含む包括的な技術的事項Aを記載。
出願3
出願2から分割出願3をする。この分割出願3には技術的事項aが含まれている。
上記の場合、出願2に開示の技術的事項Aは出願1に含まれていないため、技術的事項Aの全体に対しては優先権が認められない。では、技術的事項aについての部分優先は認められるのであろうか。 技術的事項aについて部分優先が認められない場合、出願2は実際の出願日を基準に判断される。一方、分割出願3に開示の技術的事項aには優先権主張が認められるため、出願1の出願日が基準となる。そうすると、分割出願3は(親)出願2に対してその新規性を否定し得る先行技術となる。 これが、親出願の新規性が分割出願により否定されるという、いわゆる毒入り分割出願の問題である。
(審決の概要) 今回、T0557/13事件の技術審判部は、「包括的ORクレーム(generic-OR claim)」における上記部分優先の問題について、拡大審判部に以下のような質問を付託していた(付託質問2~5は省略)。
1.欧州特許出願又は欧州特許のクレームが、一つ又は複数の一般的な表現又は他の表現により選択的な主題を含む場合(一般的な“OR”クレーム)、当該主題が、優先権主張の基礎となる書類において直接的に、又は、少なくとも黙示的に、かつ、一義的に(実施可能な態様で)開示されているときに、当該クレームについて、欧州特許条約の下、当該主題に係る部分優先の適用が拒絶されることはあるか?
この質問に対し拡大審判部は、これを否定する審決を行った。 すなわち、部分及び複合優先(Partial and multiple priorities)について、EPC88(3)は、一又は複数の優先権主張の基礎となる出願に基づき、当該出願に基づいて優先権を主張する後の出願のうち一部分のみ(例えば、当該後の出願のクレームに含まれる主題の一部分のみ)について優先権を認める場合も含むと解されるとした。 これにより、上記の例においては、親出願の新規性が分割出願により否定されなくなった。
尚、審決では、”OR”クレームについて部分優先が適用されるか否かのテストが示された。 先ず、第1ステップで、優先権主張の基礎出願に開示されている主題のうち、関連する主題を特定し、第2ステップで、優先権主張出願又は特許のクレームに、その関連する主題が含まれるか否かを検討するとした。 第2ステップでYesであれば、優先権主張出願又は特許における”OR”クレームのうち、基礎出願において直接的かつ一義的に開示されている部分については部分優先の適用が認められ、その他の部分については優先権の適用は認められないとした。
(参照元) 欧州特許庁HP ”G 1/15 Partial priority”
“Decision of the Enlarged Board of Appeal dated 29 November 2016 – G 1/15 (Official Journal September 2017)”
・G1/15 審決日:2016年11月29日
・部分優先、毒入り分割出願、毒入り優先権、自己衝突
拡大審判部(Enlarged Board of Appeal)は、部分優先の判断基準に関する問題を取り上げた事件(G1/15)において、いわゆる、「毒入り分割出願(Poisonous/Toxic Divisional)」、「毒入り優先権(Poisonous/Toxic Priority)」の問題を解消する判断を行った。
(背景)
欧州特許条約(EPC)の54条(3)には、出願人又は発明者が同一の場合でも、先の出願によって後の出願の新規性が否定され得ることが規定されている(いわゆる自己衝突(self-collision))。
自己衝突による新規性の否定は、ある欧州特許出願の分割出願又は親出願に開示されている技術的事項が、当該欧州特許出願の1以上のクレームよりも先の優先日を有している場合にも起こり得るとされていた(例えば、G2/98)。いわゆる、「毒入り分割出願」及び「毒入り優先権」の問題である。
例えば、典型的には以下のようなケースがある。
出願1
技術的事項aを含む。
出願2
出願1を基礎としてその出願日から12ヶ月内に優先権主張出願をする。明細書には技術的事項aを含む包括的な技術的事項Aを記載。
出願3
出願2から分割出願3をする。この分割出願3には技術的事項aが含まれている。
上記の場合、出願2に開示の技術的事項Aは出願1に含まれていないため、技術的事項Aの全体に対しては優先権が認められない。では、技術的事項aについての部分優先は認められるのであろうか。
技術的事項aについて部分優先が認められない場合、出願2は実際の出願日を基準に判断される。一方、分割出願3に開示の技術的事項aには優先権主張が認められるため、出願1の出願日が基準となる。そうすると、分割出願3は(親)出願2に対してその新規性を否定し得る先行技術となる。
これが、親出願の新規性が分割出願により否定されるという、いわゆる毒入り分割出願の問題である。
(審決の概要)
今回、T0557/13事件の技術審判部は、「包括的ORクレーム(generic-OR claim)」における上記部分優先の問題について、拡大審判部に以下のような質問を付託していた(付託質問2~5は省略)。
1.欧州特許出願又は欧州特許のクレームが、一つ又は複数の一般的な表現又は他の表現により選択的な主題を含む場合(一般的な“OR”クレーム)、当該主題が、優先権主張の基礎となる書類において直接的に、又は、少なくとも黙示的に、かつ、一義的に(実施可能な態様で)開示されているときに、当該クレームについて、欧州特許条約の下、当該主題に係る部分優先の適用が拒絶されることはあるか?
この質問に対し拡大審判部は、これを否定する審決を行った。
すなわち、部分及び複合優先(Partial and multiple priorities)について、EPC88(3)は、一又は複数の優先権主張の基礎となる出願に基づき、当該出願に基づいて優先権を主張する後の出願のうち一部分のみ(例えば、当該後の出願のクレームに含まれる主題の一部分のみ)について優先権を認める場合も含むと解されるとした。
これにより、上記の例においては、親出願の新規性が分割出願により否定されなくなった。
尚、審決では、”OR”クレームについて部分優先が適用されるか否かのテストが示された。
先ず、第1ステップで、優先権主張の基礎出願に開示されている主題のうち、関連する主題を特定し、第2ステップで、優先権主張出願又は特許のクレームに、その関連する主題が含まれるか否かを検討するとした。
第2ステップでYesであれば、優先権主張出願又は特許における”OR”クレームのうち、基礎出願において直接的かつ一義的に開示されている部分については部分優先の適用が認められ、その他の部分については優先権の適用は認められないとした。
(参照元)
欧州特許庁HP ”G 1/15 Partial priority”
“Decision of the Enlarged Board of Appeal dated 29 November 2016 – G 1/15 (Official Journal September 2017)”