知財高裁平成24年10月29日判決 平成24(行ケ)10076号 ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物事件
・請求認容
・アルベマール・コーポレーション 対 特許庁長官
・36条6項1号、サポート要件
(経緯)
エチル・コーポレーションは、特許出願をしたが、拒絶査定を受けたので、これに対する不服の審判請求をした。しかし、特許庁は請求不成立審決をしたので、これに不服の原告がその取消しを求めて、知財高裁に訴えを提起したものである。
尚、原告は、エチル・コーポレーションから2003年6月5日に本願の特許を受ける権利を譲り受け、2012年2月14日に出願人名義変更届を特許庁長官に提出している。
(本願発明)
不服審判時における補正後の本願請求項1は、下記の通りである。
化合物の混合物を含んで成るヒンダード フェノール性酸化防止剤組成物であって、該化合物の混合物が、式
【化1】
式中、nは少なくとも0、1、2、および3であり、場合により3より多い、
の複数の化合物を含んで成り;そして組成物が非希釈基準で、
(a)3.0 重量%未満のオルソ-tert-ブチルフェノール、
(b)3.0 重量%未満の 2、6-ジ-tert-ブチルフェノール、および
(c)50ppm 未満の 2、4、6-トリ-tert-ブチルフェノールを含む、
上記組成物。
(審決の要点)
発明の詳細な説明には、本願発明の課題として、従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤よりも、「向上した酸化安定性、向上した油溶解性、低い揮発性及び低い生物蓄積性」を有するものを得ることが記載されていた。
しかし、発明の詳細な説明には、本願発明の組成物を具体的に製造し、その酸化安定性、油溶解性、揮発性及び生物蓄積性について確認し、上記課題を解決できることを確認した例が記載されていなかった。
また、従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤よりも低レベルの単環ヒンダードフェノール化合物(すなわち、本願請求項1の構成要件(a)~(c))を含むことにより、「酸化安定性、油溶解性、揮発性及び生物蓄積性」が改良されることが、当業者であれば、出願時の技術常識に照らし認識できるといえる根拠も見あたらなかった。
そのため、審決は、本願発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に適合しないと判断した。
(裁判所の判断)
本願発明の課題について、裁判所は、明細書を参酌した上で、「従来のメチレン架橋化多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物よりも、向上した酸化安定性、向上した油溶解性、低い揮発性及び低い生物蓄積性を有するものを得ることと認められる。」と認定した。
次いで、課題の解決に関する記載の有無については、当業者の技術常識を参酌した上で、「発明の詳細な説明には、非常に低レベルのOTBP、DTBP及びTTBPの単環ヒンダードフェノール化合物を含有することによって、従来のメチレン架橋化多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物よりも向上した油溶解性を有する組成物を得ることができ、また、低い揮発性を有し、その結果、向上した酸化安定性を有する組成物を得ることができる点が記載されているということができるから、発明の詳細な説明の記載から、本願発明の構成を採用することにより本願発明の課題が解決できると当業者は認識することができる。」と判断した。
被告は、「発明の詳細な説明には、向上した酸化安定性及び低い生物蓄積性という課題を達成し得ることの技術的裏付けが記載されておらず、また、向上した酸化安定性及び低い生物蓄積性の課題を達成し得ることが技術常識により当然に予想できるとする技術的根拠も記載されていない」と主張したが、裁判所は、「発明の詳細な説明の記載から、本願発明についての複数の課題を把握することができる場合、当該発明におけるその課題の重要性を問わず、発明の詳細な説明の記載から把握できる複数の課題のすべてが解決されると認識できなければ、サポート要件を満たさないとするのは相当でない。」判示とした。
また、被告は、技術常識を考慮すると、本願発明の原料成分を入手することは困難なものであったから、その具体的入手手段について何ら明らかにされていない発明の詳細な説明の記載に基づいて、本願発明の組成物を具体的に製造できるとは到底いえず、また、本願発明の組成物の具体的な製造を確認した例は記載されていないとして、サポート要件を満たさないと主張した。
しかし、裁判所は、発明の詳細な説明の記載と出願時の技術常識から本願発明に係る組成物を製造することできないというのであれば、実施可能要件の問題として扱うべきであるとした。
また、「サポート要件が充足されるには、具体的な製造の確認例が発明の詳細な説明に記載されていることまでの必要はない。」とも判示した。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121101092045.pdf
知財高裁平成24年10月29日判決 平成24(行ケ)10076号 ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物事件
・請求認容
・アルベマール・コーポレーション 対 特許庁長官
・36条6項1号、サポート要件
(経緯)
エチル・コーポレーションは、特許出願をしたが、拒絶査定を受けたので、これに対する不服の審判請求をした。しかし、特許庁は請求不成立審決をしたので、これに不服の原告がその取消しを求めて、知財高裁に訴えを提起したものである。
尚、原告は、エチル・コーポレーションから2003年6月5日に本願の特許を受ける権利を譲り受け、2012年2月14日に出願人名義変更届を特許庁長官に提出している。
(本願発明)
不服審判時における補正後の本願請求項1は、下記の通りである。
化合物の混合物を含んで成るヒンダード フェノール性酸化防止剤組成物であって、該化合物の混合物が、式
【化1】
式中、nは少なくとも0、1、2、および3であり、場合により3より多い、
の複数の化合物を含んで成り;そして組成物が非希釈基準で、
(a)3.0 重量%未満のオルソ-tert-ブチルフェノール、
(b)3.0 重量%未満の 2、6-ジ-tert-ブチルフェノール、および
(c)50ppm 未満の 2、4、6-トリ-tert-ブチルフェノールを含む、
上記組成物。
(審決の要点)
発明の詳細な説明には、本願発明の課題として、従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤よりも、「向上した酸化安定性、向上した油溶解性、低い揮発性及び低い生物蓄積性」を有するものを得ることが記載されていた。
しかし、発明の詳細な説明には、本願発明の組成物を具体的に製造し、その酸化安定性、油溶解性、揮発性及び生物蓄積性について確認し、上記課題を解決できることを確認した例が記載されていなかった。
また、従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤よりも低レベルの単環ヒンダードフェノール化合物(すなわち、本願請求項1の構成要件(a)~(c))を含むことにより、「酸化安定性、油溶解性、揮発性及び生物蓄積性」が改良されることが、当業者であれば、出願時の技術常識に照らし認識できるといえる根拠も見あたらなかった。
そのため、審決は、本願発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に適合しないと判断した。
(裁判所の判断)
本願発明の課題について、裁判所は、明細書を参酌した上で、「従来のメチレン架橋化多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物よりも、向上した酸化安定性、向上した油溶解性、低い揮発性及び低い生物蓄積性を有するものを得ることと認められる。」と認定した。
次いで、課題の解決に関する記載の有無については、当業者の技術常識を参酌した上で、「発明の詳細な説明には、非常に低レベルのOTBP、DTBP及びTTBPの単環ヒンダードフェノール化合物を含有することによって、従来のメチレン架橋化多環ヒンダードフェノール性酸化防止剤組成物よりも向上した油溶解性を有する組成物を得ることができ、また、低い揮発性を有し、その結果、向上した酸化安定性を有する組成物を得ることができる点が記載されているということができるから、発明の詳細な説明の記載から、本願発明の構成を採用することにより本願発明の課題が解決できると当業者は認識することができる。」と判断した。
被告は、「発明の詳細な説明には、向上した酸化安定性及び低い生物蓄積性という課題を達成し得ることの技術的裏付けが記載されておらず、また、向上した酸化安定性及び低い生物蓄積性の課題を達成し得ることが技術常識により当然に予想できるとする技術的根拠も記載されていない」と主張したが、裁判所は、「発明の詳細な説明の記載から、本願発明についての複数の課題を把握することができる場合、当該発明におけるその課題の重要性を問わず、発明の詳細な説明の記載から把握できる複数の課題のすべてが解決されると認識できなければ、サポート要件を満たさないとするのは相当でない。」判示とした。
また、被告は、技術常識を考慮すると、本願発明の原料成分を入手することは困難なものであったから、その具体的入手手段について何ら明らかにされていない発明の詳細な説明の記載に基づいて、本願発明の組成物を具体的に製造できるとは到底いえず、また、本願発明の組成物の具体的な製造を確認した例は記載されていないとして、サポート要件を満たさないと主張した。
しかし、裁判所は、発明の詳細な説明の記載と出願時の技術常識から本願発明に係る組成物を製造することできないというのであれば、実施可能要件の問題として扱うべきであるとした。
また、「サポート要件が充足されるには、具体的な製造の確認例が発明の詳細な説明に記載されていることまでの必要はない。」とも判示した。
(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121101092045.pdf