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判例・実務情報

【知財高裁、特許】 引用発明に他の2つの引用発明を同時に組み合わせることについて、阻害要因があるとされた事例。平成23(行ケ)10098号



Date.2012年8月28日

知財高裁平成24年7月17日判決 平成23(行ケ)10098号 ストロボスコープを使った入力システムを備える情報処理装置事件

 

・請求認容

・新世代株式会社 対 特許庁長官

・特許法29条2項、進歩性、阻害要因

 

(経緯)

 本件は、「ストロボスコープを使った入力システムを備える情報処理装置」の発明に関する特許出願について、進歩性欠如を理由に拒絶審決がなされたため、その取消しを求めて知財高裁に訴えを提起したものである。

 

 

(本件発明及び引用発明)

・本件発明

 本件発明は、ストロボスコープを用いてコンピュータやゲーム機にリアルタイムで入力を与えることができる新規な情報処理装置を提供することを目的としている。

 本件発明では、下記請求項1に記載の構成を採用することにより、ストロボスコープによって照射された対象物の撮像結果をディジタル的に解析し、対象物の位置、移動速度、加速度、運動軌跡といった情報をパーソナルコンピュータやビデオゲーム機といった情報処理装置への入力として扱うことが可能となる。さらに、簡単な情報処理のみで、ノイズや外乱の影響を抑えた精度の高い検出が可能であるので、コスト、許容される消費電力等の条件によりプロセサのパフォーマンスが制限されるシステムの上でも容易に達成が可能となるという効果を奏する。

 

【請求項1】

 ストロボスコープを使った入力システムを備える情報処理装置であって、

 ストロボスコープ、

 前記ストロボスコープの発光時および非発光時にそれぞれ対象物を撮影する撮像手段、

 前記ストロボスコープの発光時の映像信号と非発光時の映像信号との差に基づいて、前記対象物の位置、大きさ、速度、加速度および運動軌跡パターンの情報の一部または全部を算出する第1の手段、および

 前記第1の手段によって算出された前記情報に基づき情報処理を行う第2の手段を備え、

 前記対象物は再帰反射体を含む、情報処理装置。

 

・引用発明(刊行物1記載の発明)

 ストロボライト20を間欠的発光させて多重高速撮影した画像データをCPU3で画像処理するゴルフゲーム模擬装置の制御手段であって、

 ストロボライト20、

 前記ストロボライト20の間欠的発光が行われると同時にゴルフボール13とゴルフクラブ34を高速多重撮影するCCDカメラ14、15、前記CCDカメラ14、15から出力された画像データを二値化して、前記ゴルフボール13とゴルフクラブ34の外形形状の認識を行ない、クラブヘッドの進入向き、打点位置、ボールスピード、飛出し角度を算出し、これらのデータからボール13のバックスピン量、サイドスピン量を算出し、ボールの弾道計算を行って飛行位置の計算を行い、さらに、ボールの各飛翔位置、落下位置、転がり、停止位置をCRTディスプレイ10に示されているコースマップ上に表示するCPU3、および、そのデータが送信され、スクリーン9上にボール弾道を表示するCPU5を備えるゴルフゲーム模擬装置の制御手段。

 

・本件発明と引用発明の相違点

 相違点3(相違点1、2については省略)

 撮影される対象物が、本願発明では、「再帰反射体を含む」のに対して、刊行物1記載の発明では、再帰反射体を含まない点。

 

 

(争点)

 主な争点は以下の通りである。

1.相違点3についての判断の誤りの有無

2.刊行物1記載の発明と刊行物2記載の技術、刊行物3記載の技術との組合せ阻害要因の看過の有無

 

 

(裁判所の判断)

 

1.相違点3についての判断の誤りの有無

 当該争点は、簡単に言えば、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の技術を適用することに阻害要因があったか否かである。

 

 刊行物3には、情報処理装置([筆跡通信システム]。なお[]は刊行物3の用語を示す。以下同様。)において、対象物([筆記用具])が再帰反射体([再帰反射部材])を含むことにより、撮像する画像から再帰反射体([再帰反射部材])の像を容易に区別でき、対象物([筆記用具])の指示位置の検出が容易になることが開示されていた。

 

 そして、刊行物1記載の発明は、ストロボライト20を間欠発光させると同時に、ゴルフクラブ34及びゴルフボール13を、プレイヤー1の正面前方及び上方の2台のCCDカメラ14、15によって高速多重撮影するものであるところ、ゴルフクラブ34又はゴルフボール13に、刊行物3記載の再帰反射体を取り付けた場合、ストロボライト20をどのように配置しても、再帰反射体からの反射光を2台のCCDカメラ14、15の両方に入射させることはできず、また、再帰反射体を採用したことによって、対象物と他の画像とのコントラストが更に強調されるため、安価な構成で検出精度を高めることが可能になるという本願発明の効果も得られないものであった。

 そのため、裁判所は、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の技術を適用することには、阻害要因があると判断した。

 

2.刊行物1記載の発明と刊行物2記載の技術、刊行物3記載の技術との組合せ阻害要因の看過の有無

 

 刊行物2には、情報処理装置([画像抽出装置]。なお[]は刊行物2の用語を示す。以下同様。)において、ストロボスコープ([照明光]又は[発光手段101])の発光時および非発光時にそれぞれ撮影し、発光時の映像信号([照明光を対象物体に照射して得た画像]又は[第1の受光手段109で受光した像])と非発光時の映像信号([外光のみの光があたる環境下で得た対象物体の画像]又は[第2の受光手段110で受光した像])との差に基づいて情報の算出を行うことが開示されていた。

 すなわち、刊行物2記載の技術は対象物体に色マーカーや発光部を取り付けることを想定していないものであった。他方、刊行物3記載の技術は入力手段(筆記用具)に再帰反射部材を取り付けるものであり、両者は、マーカー(再帰反射部材)の取付けについて相反する構成を有するものであった。

 そのため、裁判所は、刊行物1記載の発明に、刊行物2記載発明と刊行物3記載発明を同時に組み合わせることについて、阻害要因があると判断した。

 

 以上より、本件発明は刊行物1~3からは進歩性を有するとして、拒絶審決が取り消された。

 

 

(判決文) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120718145216.pdf